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君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第35話

「いや、特にないと思うよ。むしろ他の学校より劣っているぐらいさ。敷地面積は狭いし、生徒数も少ない。設備も充実していないし、特別なカリキュラムがあるわけでもないしね」
「うーむ……」
「それでも、しいて言うなら性格的に明るい人が多いと思うよ。この学校に集まるのは、勉学に力を入れていない人や、有能人材育成システムにあまり興味がない人が多いみたいだからね。もっとも、中には竹中君みたいに適性テストで落ちて、この学校に来たっていう人もいるけど」
「うぐっ」
 また嫌なことを思い出させてくれたなちくしょう。
「だからなのか、他者を蹴落とすことで生き延びようとしてきた人が少ないんだよ。そういったことに縁がない人って、たいてい明るく社交的で、何事も上手く切り抜けてきた人だから」
「自然と、この学校の雰囲気も明るくなるってことか」
「ま、これは僕が思う事であって、根拠もないし正解でもない。でも、今年入学した人たちは、ほとんどの人が社交的というか……ま、ノリが良い人たちばかりだと思うよ」
「ん、まあたしかに」
 入学式があった日に、クラス全員でメールアドレスを交換するくらいだしな。
「敵から手紙を受け取った時も、寝返りそうな人が多かったけど、それも他の高校に行っても上手くやる自信が少なからずあったからじゃないかな」
 ま、これも僕が思うだけかもしれないけどね、と続ける喜多村に、俺は顎に手を当てて思考を巡らせ始めた。
「……仲山」
「は、はい」
「明日の全校集会での演説だけど、仲山が思ったこと全てを伝えてくれ」
「思ったこと、ですか?」
「ああ。仲山、この学校に入学してどう思った?」
「えっと、そうですね……クラスのみなさんは優しいし、面白いし、この学校に入学してよかったと思います」
「そっか。なら、戦争に負けてみんなと離れ離れになるとしたら、どう思う?」
「……やっぱり、悲しいと思います。出会って間もないですけど、せっかくこうして一緒の学校に入学したんだから、一緒に卒業したいです」
「よし! じゃあその素直な気持ちを全部伝えてくれ。なんで負けたくないかってことを。お姉さんのこととか、約束のこととかは言わなくても大丈夫だから」
「構わないですけど……伝えたら、なにか起きるんですか?」
「ん、多分」
 確証はないけど。
「……わかりました! 精一杯頑張ります!」
「うん。応援してる。喋る内容は仲山に任せちゃうけど、大丈夫か?」
「はい。それくらいは、わたしがやります」
「そっか。じゃあ、学校に残ったポイントの内、半分くらいを武器購入に充てたいんだけど……いいか?」
「はい。わたしはまだそういったことよくわかりませんし。臨時生徒会の間は、竹中君にお任せします」
「よし。じゃあ、次は喜多村。頼みがある」
「なんだい?」
「流布した音声データ、貸してくれないか」
「それは構わないけど……どうするつもりだい?」
「明日の全校集会で使いたいんだ。仲山の演説を助けるために」
「……了解した。後で渡すよ」
「サンキュ。んじゃ、次。冠」
「あん?」
「悪いけど、今から職員室に行って、明日全校集会を行う旨を伝えてきてくれ。あ、生徒には伝えないようにと念押ししながら」
「……なんでアタイなんだよ。テメェが行け」
「俺でもいいんだけど、この中で先生の評価が高そうなのって、女子三人だけだろ? 仲山と喜多村は忙しいだろうし、手が空いているのはお前だけじゃん?」
「……ちっ、わーったよ、後で手配しとく」
「頼む。っと、そういえば冠、お前って運動神経は良い方か?」
「んだよ急に……まあ、悪くはねえよ。戦争でも、活躍できるだろうさ」
「対人戦闘に自信は?」
「あん? ……ふっ」
 途端、冠の姿が視界から消える。
「なっ!?」
 一瞬で俺の目の前まで肉薄すると、そのまま俺の喉元にナイフを、そして急所に小太刀を当てる。
「見ての通りだ。理解したか?」
 言うと、ナイフと小太刀をしまい、さらりとその長い艶やかな黒髪をかきあげる。ふわりと、甘い良い香りが俺の鼻まで届いてくる。
「あ、ああ。十分理解した」
 毎回俺の喉元にナイフを突き付けてくるくらいだから、ある程度暴れることに慣れているとは思っていたけど、まさかここまでとは。
 喜多村の情報収集能力もだけど、冠の戦闘力も申し分ない。これは、ひょっとしたらひょっとするかもしれないな。
「じゃあ、仲山と冠はそれぞれ頼んだことをやってくれ。その後、時間があれば学校にあるポイントを使って武器を調達してほしい。戦争後も学校を運営できるように、計算しながら使ってくれ」
「はい! 任せて下さい」
「お前の命令に従うのは癪だけど、ま、しゃーなしだな。従いますよ軍師さん」
「頼むぜ。んで、喜多村と司馬は、とりあえず一年生のやつらを戦争に協力してくれるよう説得してくれ。司馬が男子、喜多村が女子な」
「了解した」
「フハハハ! 頼まれよう」
「じゃあ、各々それで頼む。じゃ、今日は解散。また明日!」
 そう言うと、俺はそそくさと鞄を持って生徒会室を後にしようとする。
「ちょっと待て、お前はどこ行くんだ?」
「どうやって山中高校の軍勢を退けようか考えに、な」

 キリッ!(キメ顔)
 ガラガラ(冠がドアを閉める音)

 扱いがひどかった。

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