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君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第32話

クラスメイトの前だからか、冠の口調はいつもの乱暴なものではなく、おしとやかさを感じさせるものに変わっていた。俺の前ではずっとそうしてくれよ。
「聞いてもらいたいこと? なんでしょうか?」
 小首を傾げて訊ねる仲山。その仕草がどこか小動物っぽくて、ちょっと萌えた。眼福。
「劉華ちゃんは今回の戦争、勝つつもりですわよね?」
「ふぇ? は、はい! もちろんです!」
「そうですわよね。なら劉華ちゃん、私から一つ提案があるのですが」
「提案?」
「ええ。ここにいる竹中孔明に、戦争時の指揮を任せてはいかがでしょう?」
「はぁっ!?」
 仲山ではなく、俺が驚愕の声を上げる。なにを言っているんだこいつは。
「ちょっと待て、それって俺が生徒会長になるってことか?」
「違いますわ。あくまで生徒会長は劉華ちゃん。貴方は……そうですわね、『軍師』とでもいうべき立場になるということですわ。例えるなら、劉華ちゃんが帝で、貴方は首相。そんな感じですわ」
「いやいやいや。ちょっと待て」
「軍師が嫌なら、大都督や丞相でも構いませんが」
「呼び方の問題じゃねえよ! なんで俺が急にそんな大役を任されそうになってるかってことを聞いてるんだよ!」
「客観的に考えた結果、ですわね。心を鬼にして言いますが、劉華ちゃんが戦争時の指揮を執るというのは、いささか頼りないと言いますか……」
「あうぅ~、返す言葉もありません……」
「いえ、劉華ちゃんはそれ以外のことは満点ですから、問題ありませんよ」
「あ、ありがとう美羽ちゃん……」
「こらそこ、イチャつくんじゃない。ただ冠、なんで客観的に考えて結果、俺が戦争の指揮を執ることになるんだよ」
「……はぁ」
 溜め息をつくと、そっと俺の耳元に顔を近づけてくる。ほのかに香るシャンプーのいい匂いが、俺の鼻孔をくすぐった。
「(お前、案外作戦考えたりするの得意じゃねえか。本来だったら、アタイが劉華ちゃんのために全軍の指揮を執りたいところだが……残念なことに、アタイは他者とのコミュニケーションが苦手な上、自分の身内さえ無事ならいいという考え方をしちまうからな。一軍の将はできても全軍の統括や指揮は無理だ。喜多村実里も、調略とかそっちの方は得意そうだが、こういうこと苦手そうだし、司馬仲達は論外。そういうことで、お前に頼んでるんだよ。理解したか?)」
 言い終えると、顔を離していく。少し名残惜しい感覚が俺を襲ったけど、なにかの間違いだということにしておこう。
「ま、理解したけどさ」
「では、やってくれますか?」
「……仲山はどう思うんだ? 俺が戦争の指揮を執ってもいいのか?」
「は、はい! わたしは賛成です。その、わたしが戦争の指揮を執るっていうのは、少し自信がありませんし……。だから、竹中くんにやってくれるのなら、ぜひお願いしたいですっ!」
 お願いされてしまった。
「……んー」
 本当なら、「任せておけっ!」って言ってあげたいところだけど、事が事だけに安請け合いはできない。仲山のお願いなら聞いてあげたいけど、仲山の為を思うなら、俺ではなく、もっと適任者に任せるという考えもある。
「……少し、考えさせてくれないか?」
「は、はい。わかりました」
「色よいお返事、お待ちしておりますわ」
 二人がそう答えたところで、六限目の授業開始を告げるチャイムが鳴り響いた。

◇ ◇ ◇ ◇

 放課後。生徒会室に集まる俺と仲山と冠と喜多村とその他。
「――ということで、アタイと劉華ちゃんは、そこにいる馬鹿面下げた阿呆に戦争時、全軍の指揮を任せようと思うんだが」
「お二方のお考えを聞かせてください」
 結局、俺が仲山と冠に出した答えは、『他の生徒会役員が納得すれば、引き受ける』というものだった。
 仲山のことを考えるのならば、引き受けないという考えもあったのだけど……俺自身の目的――孟徳さんを倒すという目的を達成するためにも、一兵士ではなく、自分自身で軍を動かしたいとは思っていたし。
 ただ、少なくとも喜多村の同意はほしかった。これからも調略の時に力になってもらうだろうし、プライベートでも仲良くしたいところだし。
 だからこそ、『他の生徒会役員が納得すれば、引き受ける』という条件を突きつけた。それによって、こうして仲山たちが喜多村とその他に聞いてくれているわけだし。
「僕はもちろん賛成だよ、竹中君の力は認めているしね」
「本来ならば我輩が軍師となるべきだから反対、と言いたいところだが、今回は孔明に譲ってやろう」
 大して悩む様子もなく、仲山たちの問いに答える喜多村とその他。
「と、いうことだ。これで文句ないだろ? 竹中孔明」
 口角をつり上げて笑みを浮かべる冠。まるで、最初からこうなるのが分かっていたみたいだ。
「竹中くん。お願い……できますか?」
 どこか弱々しく、俺の様子を窺うように、だけど真剣な表情で、俺に問いかける。
 そんな仲山に、俺は――

「任せておけ! 絶対、この学校を……お前を守って見せるさ!」
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