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君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第28話

 身長は高めだけど、細身だし、なにより胸に脂肪がな――
「ん? なにかな? そんなに僕の身体のある一部(、、、、)を見つめて」
 喜多村さん。笑えてないです。怒りのオーラを身体に纏っていますよー。
「さ、行こうか?」
「は、はい……」
 どうやら逆らえそうにない。仕方なく俺は頷き、駐輪場へと向かっていった。
「……あのー、お二方?」
「「え? ……あ」」
「『え? ……あ』じゃねえよ! なんだよこれ! 置いてけぼりだよオレ! じゃなかった我輩! おいこら孔明! 飯食うんじゃなかったのかよ!」
「いや、それは誘う口実で――」
「ちくしょーっ! うぇぇぇええええん! 三次元なんて嫌いだーっ!」
「落ち着けって。飯ならあとで奢ってやるから」
「……本当だな?」
「本当だって。だから、今は俺たちに付き合ってくれ。頼む」
「フハハ! いいだろう! どこまでも付いて行ってやるわ!」
 復活早いなぁ……。
「では行こうか、二人とも」
 苦笑しながら言う喜多村に、俺は頷いた。
 そのままランチを楽しむカップルを尻目に中庭を抜ける。
「とりあえず、自転車取りに行くから校門で待っててくれ」
 昇降口に着いたところで、俺はそう言って喜多村と別れた。
「了解。なるべく急いでね」
 そんな声を背後に受けながら、司馬とともに昇降口脇にある駐輪場へ。えーと、萩原の自転車はどれだ……? 『一番目立つやつ』って言ってたけ―――――なん……だと……ッ!?

「―――――――――――――――――――――絶対これだわ………………………………」

 駐輪場に並べられた、百近い自転車。
 余談だけど、俺の住む学園寮以外の寮に住んでいる人たちは、そこから学校までそこそこ距離がある。そんな人たちの大半が、こうして自転車を使っているというわけだ。電車とか気の利いたものは、このエリアにはない。
 さて、何故こんな余談をしているのかと言うと、認めたくないものだな、萩原君の、若さゆえの過ちというやつを……って感じだからです。現実を認めたくないんです。
「うわー」
 白を基調に、メタリックブルーでコーティングされた、一般的なシティサイクル。俗に言うママチャリというやつだ。
 ただ、本来あるべき籠がなく、ところどころ『MAGNUM』と書かれたオレンジ色のシールで飾られていたけど……。
「……ま、仕方ないわな」
 今は一分でも惜しい。これで我慢するしかないか。喜多村は司馬の自転車の後ろに乗ってもらおう。
「む、どうしたのだ孔明。早くしろ」
 驚くほど普通な自転車を引く司馬の登場。お前こそこういうのに乗るべきだろ。
「……おう」
 サイクロンマグナムの拘束(鍵)を解除! かっとべ! サイクロンマグナームッ!
 と自転車を引いて校門へ。
「……随分と個性的な自転車だね」
 サイクロンマグナムを見ながら、引きつった笑みを浮かべる喜多村。
「うるせえ。これ俺のじゃないからな」
「そうかい。ま、今はそんなことを話すより、さっさと向かおうじゃないか」
「おう。んで喜多村。お前、どっちの自転車の後ろに乗って行く?」
 このサイクロンマグナム、籠は取り外しているくせに後ろの荷台は残っている。どうせならこれも外しておけと。
「竹中君の後ろで頼む」
 一瞬の逡巡もなく即答すると、サイクロンマグナムの荷台に、ベンチに座るように乗る喜多村。
「っと、やっぱり支えがないと案外怖いものだね。すまない竹中君、腰に手を回してもいいかな?」
「いいぞー」
「では失礼して」
 言って、腰に手を回す喜多村。その細くやわらかな腕が、今俺の身体を包み込んでいると考えるとフォ――――――――ッ!
「行こうか」
「お、おう」
 喜多村の声で正気に戻り、ゆっくりとペダルをこぎ始める。
 司馬も後を続くように、ペダルをこぎ始めた。
「それで孔明。これからどこに行くのだ?」
 校門を出て、少し走ったところで司馬が訊ねてきた。
「ああ。山中高校だ」
「山中高校? 何故敵校へ?」
「うちの生徒に引き抜きの手紙が配られただろ? それをどうにかするためだ」
「なるほど。して、策はあるのか?」
「ああ。上手くすれば、寝返りを防ぎつつ結束を固められるかもしれない」
「ほほう。詳しく話せ」
「後でな。今は言いたくない。お前も軍師って名乗るからには、俺の気持ちもわかるだろ?」
「むう……仕方がない。我慢しよう」
「サンキュ。でだ、喜多村。集めた情報のこと聞かせてもらえるか?」
 司馬との会話にひと段落ついたところで、後ろにいる喜多村に訊ねる。
「ああ。メールでも伝えた通り、全校生徒の八割程度しか調べられなかったけど。全校生徒その内の九割ほどが手紙を受け取っていたみたいだね」
「ってことは」
「まあ、おそらく全校生徒の九割ほど、百七十人程度は手紙を受け取ったんじゃないかな?」
「……多いな」
「ま、うちの生徒は士気が低いから、引き抜き工作に力を入れる価値があると判断したんじゃないかな」
「まあ、正解なんだけど。じゃ、その手紙に乗り気だった人数は?」
「ざっと百人ほど」
「……これまた多いな」
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