ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
目次

第25話


『拝啓司馬仲達様。私は山中高校生徒会長の土田光宙と申す者です。突然のお手紙、失礼だとは思いますがご容赦ください。実は、貴方様の能力を評価し、我が山中高校にスカウトしたく、筆を執らせていただきました。貴方の様に知性溢れ、健康で人望溢れる人材を探しておりました。
 ですが、今回貴校と行われる戦争で、貴校が敗北すると貴方は遠く離れた未開の地にある学校へ移動することになります。それは実にもったいないこと。よって、我が校はそれを防ぐため、貴方を受け入れる準備を整えて待っております。
 ただ、受け入れることができるのは最大で三十名ほど。もし貴校が降伏した場合、受け入れる生徒はランダムで選ばせていただきます。
 もしも我が山中高校に移動したいという場合は、お早めに我が校の生徒会室へとお越しくださるようお願いします。
 後悔のないご判断をされるよう、心から願っております。
山中高校生徒会長 土田光宙』
「……これは」
「今朝、下駄箱に入っていた。どうやら、他の生徒にも配られているようだな」
 ……ちょっと待て。
「俺のとこには入ってなかったぞ」
「ふ、ふふ、フハハハ! それは何故か! 決まっておろう! 我輩の方が優秀だから――あ、すいませんすいません! だからそんな睨まないで!」
「ちっ。でも、これはマズイかもしれないな」
「うむ。こんな阿呆な手紙でも、揺さぶられる人間が出てくるやもしれん。我輩の様にな」
「…………」
「…………」
「……え?」
「……え? あ」
「おめえ寝返るのかよ!」
「ばばばばばっばばっば馬鹿なことを言うでない! 寝返るわけ、ななな、なかろうに!」
「嘘くせえ! めっちゃ嘘くせえ!」
「……ふっ、冗談だ」
「めっちゃ汗かいてますね。なんでですか?」
「ふっ、これはマーキングの為の体液さ」
「きったねえ!」
「……フハハ! まあ、それは置いておいてだな。どうする? これ」
「ふーむ」
 もう一度司馬の手紙を読む。まず能力を評価、褒めちぎってから、三十名しか受け入れられないこと、うちに来なかったら未開の地にある学校へ移動することになると脅す。飴と鞭。効果的な手紙だな。
 とくに、三十名しか受け入れられないというのが巧い。こう書いておけば、受け取った人はそう長く悩まずに寝返りを決めてしまうだろう。なにしろ、急がないと受け入れてもらえないかもしてないのだから。
 と言っても、本当に三十名しか受け入れないというわけではないだろう。これは方便。実際にうちの学校の生徒が寝返りに行けば、『危なかったですね。あなたが二十九人目でした』とかなんとか言うのだろう。詐欺の手段だって、なにかで見たことがある。
「なあ、司馬。この手紙がうちの学校のどれくらいの生徒に配られているかわかるか?」「む? そうだな、正確な数はわからんが、かなりの数じゃないか? 昇降口で靴を履きかえる人間のほぼ全てが、何か小さなものを隠すようにしていたからな」
「うむむ……そりゃまずいぞ」
 それだけたくさんの人に手紙が来ていると知ってしまえば、早く寝返らなければと思ってしまうだろう。早ければ、今日の放課後ってところか。
 その時点で、少なく見積もっても織館高校の生徒約四分の一が寝返るはず。まずいな。
 それだけの数が寝返っただけで、この戦争の大勢は決する。そこからの逆転は、余程のことがない限り無理だろう。
 落ち着け。なにか手はあるはずだ。
 寝返りをふせぎつつ、かつ敵にもダメージを与えるような。それこそ、寝返る人間を一人も出さなければいい。
 なにかないのか……
「……っ」
 ――そうか。
 教室内を見渡すと、そこに冠の姿はない。
 冠の意見を聞いてからと思ったけど、先に行動しておこう。
 急いで携帯電話を取り出し、先日聞いた喜多村のメールアドレスを呼び出す。
 そして、『今から会えないか?』と簡潔に内容だけを書いたメールを送る。
 すると、三十秒ほどでメールが返ってきた。
【件名】無題
【本文】告白かい? 驚いたね、まさか君が僕にそんな感情を抱いていたなんて……
    と、冗談はこの辺りにして。
    構わないよ。今から君の教室に向かうね。
 との内容。それと同時に、
「や。待たせたかな」
 教室の入り口から顔を覗かせながら、喜多村が声をかけてきた。早いな。
「いや、待ってないぞ」
 答えながら、俺は司馬を置いて教室から出ると、喜多村を連れて少し歩いた場所にある空き教室の前へとやって来た。ここならば、朝のHR前という時間なので人も少ない。
「さて、ご用件は?」
「ああ。まず聞きたいんだけど、喜多村って山中高校に知り合いっているか?」
「? うん、いるよ。すごく親しいというわけではないけど、何人か。今回、情報を教えてくれてるのもその人たちだし」
「そうか。なら、その人たちの中で一番社交的で、誰とでも分け隔てなく接することができる人の連絡先を教えてくれ。できれば、馬鹿な人がいい」
「いいけど……何故だい?」
「まあ、ちょっと窓口になってもらおうと思ってね」
「窓口?」
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。