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君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第19話

 そんな感じで各々が帰る支度をし、ぞろぞろと昇降口へ向かう。前を歩くは喜多村と原黒(冠)。その後ろを一人司馬が歩き、そして俺と仲山だ。
 ちなみに、生徒会室があるのは四階の一番東奥。昇降口から一番離れた場所でもある。
 生徒数が二百に満たないとはいえ、学園都市のシステムなどを考慮した結果か、校舎はかなり広い。移動にもかなりの時間を要してしまう。
「あ、あの、竹中くん」
「おう? どした、仲山」
「そ、その……協力してくれて、ありがとうございます」
「礼はいいよ別に。俺が好きでしてることだし」
 俺も目的があって協力するわけだし。
「……それでも、ありがとうございます」
「……ん。どういたしまして」
「っ! はいっ!」
 とびっきりの笑顔。
 それはまるで、見るもの全てを魅了するような、そんな力を持っていた。
 ……何言ってんだろうね、俺。
 なんてことを考えていると、
「おいコラこのクソ餓鬼あんまり調子のってっとしめるぞコラ☆」
「っ!? いつの間に!?」
 吐息を感じるくらいの目の前にあったのは冠の顔とナイフとナイフ。ちなみにナイフは俺の目とのど元を狙っているよ。
 いつの間にか、仲山は前を歩く喜多村の横にいた。瞬間移動か!?
 そんなことはどうでもいい。今は身の安全を守ることが先決だ。
「なにラブコメしてんだこら。ぶち殺すぞこら♪」
 その笑顔が怖いです。
「ごめんなさい。もうしません。もうラブコメしません嘘ですラブコメしたいです」
 ああ! 正直者の俺のバカ!
「ちっ……まあ、劉華ちゃん以外とならラブコメしてもいいぞ。ただ、劉華ちゃんに近づいたら去勢するけどな」
 去勢されるの!?
「わぁったか?」
「さ、サーイエッサー!」
「アタイは女だ! ふざけてんのか?」
「すんません!」
「……はぁ、調子狂うぜ」
 ナイフを袖の中にしまい、嘆息する冠。
 ふむ。なんか知らんが弱ってるのか? ここは攻撃するチャンスなのでは?
 そう思ったら、急速で脳内に恋愛ADVの画面が構築される。冠の立ち絵と会話ウィンドウも準備完了! さて、ここで選択肢だ。

・『なら、俺がお前の調子を戻してやる』と言って抱き着く
・不意にキスをする

「どっち選んでも死ぬわ!」
 どっちを選んでもナイフで殺されるビジョンしか浮かばない。俺の脳の馬鹿!
「あん? なにいきなり叫んでんだよ」
「いや、ちょっと死に直面しただけ。大丈夫」
「……それ、大丈夫なのか?」
 ダメですね。
「おい、竹中孔明」
「なんでしょうか、冠さん」
「普通に接すればいい。劉華ちゃんは、アタイたちが仲良しだと思ってるっぽいからな」
 うん。俺と冠が出会ったときからずっと一緒にいたけど、盛大な勘違いをしてるみたいだからね、あの娘。
「お前、劉華ちゃんの幼馴染みなんだろ?」
「……どうしてそれを?」
「入学してすぐ、龍華ちゃんから聞いた『知り合いがいて心強い』って言ってたぞ」
「そりゃうれしいね」
「まあ、常に司馬が近くにいたから話しかけられなかったみたいだけどな」
 司馬の馬鹿野郎!
「だからこそ言っておくぞ、竹中孔明」
 突然の真剣な表情に、少したじろぐ。
「劉華ちゃんを、助けてやってくれ」
「…………」
 え? おう? え?
 急なお願いに、ちょっとびっくり。
「まだ会ってから時間は経ってないが、お前はそれなりにいいやつそうだからな。それだけだ。っと、みんなもうあんな遠くまで行っちまってる。追いかけるぞ」
「ちょ、ちょっと待てよ」
「あん? なんだよ?」
「どうして、そんなことをお前が頼むんだよ」
「……なんだよ、そんなことか。簡単だ」
 フンッと鼻を鳴らし、腕を組んでドヤ顔。ドヤ顔すんな。
「アタイが、劉華ちゃんの親友だからだ!」
「…………」
 あー。まぶしい。まぶしいよ! ここにも純粋な女の子がっ!
「おいコラ。今失礼なこと――」
「考えてませんよ! 素晴らしいなと思っただけですよ!」
「……ま、このことは誰にも言うんじゃねーぞ。劉華ちゃんにもな」
 あー、年甲斐もなく恥ずかしいこと言っちまったな。と呟きながら回れ右して先を歩く面々を追いかける冠。あんた何歳だよ。
「……そっか」
 実は仲山は中学時代、親友と呼べる人間はいなかった。いや、友人すらもいなかったのかもしれない。
 俺は一応幼馴染みとして話していたが、クラスも違ったのでそこまで話していない。人伝に聞いた話では、仲山はクラスで浮いていたとのこと。心配はしていたが、中学生の俺ではどうすることもできなかった。クラスも違ったし。
 だけど、こうして心配してくれる親友がいるんだ。高校生活は大丈夫だろう。微力ながら俺もいるし。
「…………」
 ただ、それでも一つわからないことがあった。
 仲山は、昔から目立つことが嫌いだったはずだ。それがこうして生徒会長に立候補した。
「んー……」
 なにか理由があるのかもしれない。今度それとなく聞いてみよう。
 そんなことを頭の片隅で考えながら、俺も臨時生徒会役員の面々を追って歩みを再開した。

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