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君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第13話

『え、えと、その……た、ただいま紹介された、臨時生徒会長になった、な、にゃかやみゃりゅうかでしゅっ! ち、違いますっ! な、仲山劉華ですっ! よ、よろしくおねがいしまひゅ!』
 どれだけ噛んでるんだよ、とツッコミを入れたいが、せっかくの演説に水を差すわけにはいかないのでやめておく。その代わり、頑張れと心の中でエールを送るけど。
『こほん。さて、みなさんすでにご存じだと思いますが、わたしたちが通うこの織館高校に、山中高校が宣戦を布告してきました』
 大分落ち着いたのか、今度は噛むことなく言葉を紡ぐ仲山。
『戦争開始は来週の水曜日。後一週間しかありません。ですが、今から準備を始めればわたしたちは負けないと思います!
 ですから、みなさんのお力を貸してください。わたしじゃ頼りないかもしれませんが、精一杯頑張ります。だから、お願いしますっ! いたっ!』
 額を演台にゴツンと鈍いを音を鳴らしながらぶつける仲山。何やってるんだか。
 そんな仲山の様子にみんなが笑った後、今度はざわめきだす。多分、周りの人と相談しているんだろう。力を貸すかどうかを。俺の周りでも、クラスメイトたちが相談してるし。
『悪いけど、俺はパス』
 ひとしきり体育館内を喧騒が包んだ後、誰かがそんなことを言いだした。後ろの方から聞こえたってことは、場所的に三年生だろうか?
『だよなぁー、だるいし』
『つか、負ければ他の学校移れるしなー。正直負けたいっつーか』
『ぶっちゃけどうでもいい』
 最初の一人が思ったことを素直に言ったからか、他の三年生も思い思いに話し始める。
 いつしかそれは、二年生、一年生へと、体育館中に広がっていった。
『つか、あんたみたいな生徒会長じゃ勝てないっしょ』
『頼りなさすぎー』
『自分でも頼りないかもって言ってたしなー』
『ウケるーww』
「……っ!」
「……落ちつけよ、孔明」
 仲山への悪口が耳に入った瞬間、我を忘れて「ふざけんなっ!」と叫ぼうとした俺を、いつの間にか俺の方に身体を向けていた司馬が制止する。
「お前が叫んだところで、状況は何も変わらん。いや、むしろ悪化するだろう」
 いつもの気持ち悪い表情ではなく、真剣な顔でそう言ってくる司馬。あれ? なんかイケメンに見えるんだけど。
「……悪い、助かった」
 ともかく、このキモメンのおかげでなんとか冷静さを取り戻すことができた。感謝したくはないけど、まあ感謝してやろう。
「いいさ。ともかく、この場が収まったら壇上で泣きそうな仲山嬢を慰めてやらねばな」
 言われて、壇上の仲山の方へ視線をやる。
 そこにいたのは、俯いて肩を震わせている仲山の姿。
 いち早くそんな仲山の姿に気づくなんて、マジでこいつがイケメンに見えるんだけど。
「フヒヒッ! これでルートに入れるかもしれぬな!」
 訂正。このバンダナ野郎は、かっこいいセリフを言ったところでイケメンになんか見えなかった。
 そんな俺たちをよそに、生徒たちはさらに言葉という名の武器で仲山を攻撃する。
『そんなに勝ちたいんなら、テメエ一人で戦えっつーの』
『ま、負けるけどな。瞬殺瞬殺!』
『だいたい、あんたなんで勝ちたいわけ?』
『そーそー。こんな学校なくなってもいいっしょ』
『そ、それは……そんなこと……っ』
 ここからでも、仲山が唇を噛みしめているのが見えた。
「……っ!」
 もう、限界だ。
 あのクズ、ぶっ殺す!
『お静かに願いますっ!』
 とその時、体育館中に大声がハウリングしながら響き渡った。思わず耳を塞いでしまう。
「む。あいつは……」
 司馬がステージの方を見ながら呟く。つられてステージの上を見ると、そこには仲山の他にもう一人の女生徒の姿。んー、どっかで見たことのあるような……っと思ったらクラスメイトだった。
『どうも初めまして。臨時生徒会副会長を務めさせていただくことになりました、一年一組の冠美羽(かんむりみはね)です』
 腰付近まで伸びた艶やかな黒髪を揺らしながら、クラスメイトの冠はゆっくりと頭を下げた。
『さて、臨時生徒会長の代わりに、この冠が我が生徒会の意見を述べさせていただきます』
 スタンドによって演台に固定されているマイクを口元に手繰り寄せ、緩やかに言葉を紡いでいく。そんな冠の一挙手一投足から、どこか気品を感じる気がする。なんというか、和服とか似合いそう。
 冠は、そんな俺の思考を知ってか知らずか(絶対知らないだろうけど)にっこりと笑みを浮かべ、
『皆様方のお気持ちはよくわかりました。ですから、はっきりさせましょう。此度の戦争に進んで協力するという方以外は、もう帰っていただいて結構です。というより、むしろ帰れ♪ 是非に帰れ♪ とっとと帰れ童貞♪』
 そう言い放った。
『『『『『『『 ……………………………………………………………………… 』』』』』』』
 体育館内を、静寂が支配した。
 笑顔でなんてこと言うんだ、彼女は。
『~~っ! わーったよ、帰るよ!』
『感じわりぃー』
『むかつくわ、あーむかつくわ、むかつくわ。茂子、心の俳句』
『口に出てっからね、しげちゃん……』
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