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君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第9話

 なーんて思っていても口には出さないぞ。
 だって目の前の美少女に殺されるから。怖い怖い。美少女に殺されるのは本望だなんて思えるタイプの人間じゃないし、俺。
 しかし! しかしだ! 十五歳、高校一年生というお年頃の俺にとっては、幼馴染みを『もうねえちゃん』なんて呼ぶのに多少抵抗があるわけで――ええい! もういいよ言っちゃうよ!! 言えば良いんでしょ!!!! 言わないと話しすすまないもんね!
「……も、も……えちゃん」
「……ん? 聞こえないぞ?」
「……もう、……ちゃん……」
「んー? ほらほら! もう一声だ!!!!」
「も、もう姉ちゃん!!!!!」
「うむ! うむうむ!! 満足だ。弦姫、そいつを離してやれ!」
 この人は鬼畜なのだろうか?
「はっ、いえ、だがしかし……」
「……弦姫。二度は言わんぞ?」
「……はっ!」
 孟徳さんの命令に従い、弦姫さんは俺から離れていく。めちゃくちゃ俺のこと睨んできてるけど、気にしない。まったく気にしない。怖いけど。
「孔明。こいつは夏口弦姫(なつぐちつるひめ)。私の……そうだな、ボディーガードのようなものだろうか? 弦姫、こいつは竹中孔明。私の幼馴染みだな。よろしくやってやれ」
 交互に俺と夏口さんをを指差し、紹介してくれる孟徳さん。
「どうも、竹中孔明です。えと、よろしくお願いします」
 それにあやかって、自分でも名前を言いつつ、握手を求めるために右手を差し出した。大丈夫、多分きれいな手だ。
「…………。…………。……。夏口弦姫だ」
 なにかの葛藤が会った後、夏口さんは名前だけ名乗って、握手に答えてくれずプイッとそっぽを向いてしまった。ひどい。ていうかなんの葛藤だよ。名前をおしえるのが嫌ってどういうことなんだろうか。
「さて、それでは話を戻そうか」
 夏口さんの様子に苦笑した後、孟徳さんはそう言って俺に向き直る。
 その表情は、さっきまでのものとは違い、真剣なものだった。
「孔明。お前が入学した高校が織館高校だというのは本当か?」
「ええ、本当ですよ。どこからその情報を得たのか不思議ですが」
「また、どうしてそのような弱小高校に? 他にも候補はあっただろう?」
「残念ながら、適性テストで落ちてしまいましてね。大帝国学園に入学を希望していたのですが」
「ふむ……今回の大帝国学園の適性テストは、たしか我が蒼龍館と合同で行われていたはずだったな、弦姫」
「はい。私が適性テストを受けたとき、試験官がそう言っていました」
 さっきまでの怒った顔はどこへやら、無表情でそう答える夏口さん。
 会話から察するに、彼女も俺と同じ高校一年生なんだろう。ちなみに、孟徳さんは一歳上、現在高校二年生だ。
「ふむふむ……孔明、今回の適性テストの内容は何だったんだ?」
「うぐ……っ!?」
 それを聞かれ、俺は言葉に困る。
 だって、あの日の屈辱的な記憶が甦ってしまうから。
「今年度の大帝国学園、蒼龍館学院の適性テストの内容は、『一対一での模擬戦闘』でした」
 俺の代わりに答える夏口さん。
 そう、適性テストの内容は、用意された武器(プラスチックの物)で、相手の頭にセットされた紙風船を割った方が勝ちというものだった。
 そのルールで、一度も負けずに十連勝すれば大帝国学園に入学できたはずなのだが……。
「……負けたのか? 孔明」
「……ええ。ものの見事に。しかも女の子に」
 初っ端から、薙刀を使う女の子に負けてしまった。あのときの悔しさを思い出しただけで身が引き裂かれそうになる。くそう。
「……まったく。我が幼馴染みながらなんとも情けない。それでも男か?」
「うぅ……言葉が出ません」
 自分でも本当に情けないと思うし。日本男児たるもの~とかは思わないけど。
「……孟徳様。そろそろお時間です。引き上げを……」
「む、もうそんな時間か。まったく、時が経つのは早いものだ」
 ちらりと腕時計を確認する孟徳さん。俺もポケットから携帯を取りだし、ディスプレイに表示されている時計を見る。
 現在時刻は午後六時二分。ちょっと話しすぎたかな。
「それではな、孔明。また近いうちに会うだろうが、その時はお手柔らかに頼む」
「え? あ、はい。わかりました」
「ああ。では、な」
 そう言って、孟徳さんはその場から立ち去ろうとする。
 その後ろに少し離れて付いていく夏口さんは、なるほどたしかにボディーガードっぽい。ムキムキ筋肉サングラス外国人ではないというのが差分ではあるけど、
 見送りを続け、二人の姿が見えなくなってから、俺は寮に向かうために足を進める。
「……ん?」
 そういえば、さっき孟徳さんは『お手柔らかに』って言ってたけど、どういう意味だろう?
「んー……」
 考えていても仕方がないので、そのまま帰ることにした。
 どうせ、孟徳さんの考えは読めないのだろうから。

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