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君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第7話

「い、いないんですか……?」
 涙目で再度そう訊ねてくる長宗我部先生だったが、誰も自分がやるとは言いださなかった。
 当たり前だろう。一年生の時から生徒会長をやって、問題を起こす確率を上げるのは誰だって嫌なはずだ。俺はごめんだね。三年間善政を布き続ける。そんな自信、どこにもありゃしないから。
 ふと気になって、自己紹介の時に君主たる器だー、とか言っていた司馬を見る。
「うぐぐ……残念だ……我輩の体調が万全であれば、是非立候補して皆を引っ張っていたのに……無念だ」
 なんてぶつぶつと呟いていた。なんだこいつ。
「うぅ……そうですか。そうですよね……一年生の時から生徒会長なんて、やりたがるわけありませんものね……はふぅ」
 がっくりと肩を落とし、明らかに落ち込んだ様子で溜め息をつく長宗我部先生。
 おい、やめろよ。思わず「俺がやります!」って立ち上がりそうになるじゃないか!
「……はい、それじゃあHRを終わりにしま――」
 と、長宗我部先生がそこまで言ったところで、

 ――ガタッ!

 と椅子が引かれる音。クラス中の人間が音のした方を見れば、そこには、

「わ、わたしがやります! せ、せせ、生徒、会長をっ!」

 立ち上がり、そう宣言する仲山の姿があった。

◇ ◇ ◇ ◇

「孔明、彼女は大丈夫なのか?」
「…………」
「ふふん! 心配で声もでないか? ただのクラスメイトをそこまで思いやることができるとは、流石は我がライバル」
「…………」
「……あのー孔明さん? 無視されると、我輩寂しいんですけど……」
「あーもう! うるさいよ!」
 放課後。長宗我部先生と一緒に校長室へ向かった仲山を待つためにと自分の席で読書をたしなんでいると、前の席に座る中二病がやけに絡んできた。
 なんだよこいつ。他に友達いないのかよ。
 クラスメイトたちはと言うと、俺と司馬が一緒にいるのを見て、気を使ってか声をかけずに去っていく。いや、声かけてよ。助けてよ。
「う、すまん。こほん。話は変わるが孔明よ。お前は何故この学校に入学したのだ? 他にも高校はあったのに」
「……はぁ」
 俺は一つ嘆息すると、読んでいた本を閉じ、司馬の方へと身体を向ける。けっして、ツンからデレにシフトしたわけじゃないんだからねっ! あまりに司馬がしつこかったからなんだからねっ!
「落ちたんだよ、適性テストに」
「ほう。そうなのか? ならば、希望していた学校はどこなのだ?」
「……大帝国学園」
「ブヒィッ!? だ、大帝国……だとっ!?」
「ああ、そうだけど」
「そ、それって、あ、あの入学希望者が入学可能人数の十倍以上と言われる……あの超難関高校か?」
「そうだよ」
「……馬鹿か、あるいは無能か、あるいは天才と紙一重の馬鹿か、あるいはそれなりに優秀な頭脳の持ち主か。孔明が当てはまるのはどれだ?」
「何気に失礼な奴だなお前。いや、失礼なやつだってのは知ってたけど」
「……まあ、自信もなくて大帝国を希望するわけもあるまい。それなりに優秀な頭脳の落ち主、というわけだろうな」
「その自信も打ち砕かれたけどな」
「ふん。大帝国学園に行ける人間は、我輩のように選ばれた人間だけだ。だからそんなに落ち込まなくてもいい」
 イラッ☆
「……んじゃ、お前はなんでこの学校に?」
「大帝国学園に行けなかったからに決まっている!」
「お前も落ちたんかいっ!」
「なぁに、たまたまだ。次適性テストを受ければ、受かるに決まってる」
「はぁ、もういい」
 額を押さえ、溜め息混じりそう言って俺は立ち上がる。
「む? どこに行くのだ?」
「帰るんだよ」
「ほう? 仲山嬢のことを待っていたのではないのか?」
「まあ、気にはなるけど。別に急ぎの用事があるわけじゃないし」
「そうか。なら我輩もともに帰ると――あれ? 孔明? どこにいったのだ? え? ちょっ! 一人にしないでほしいでござるぅー!」
 廊下です。逃げてきました。


 学園都市内にある学校に入学した人は、それぞれ寮暮らしをすることになる。
 織館高校の学生寮は、学園都市最東端にある校舎から南に二十分ほど歩いたところ、ショッピングモールエリアを通り抜けた先にある。
 少し歩くとはいえ、近くにショッピングモールがあるのは便利だなぁとか思いつつ、学生たちで賑わうモール内を通り抜けていく。
 ショッピングモールを抜けると並木道があり、その両側に他の学校のものであろう寮などが建ち並ぶエリアになる。そのエリアになると一気に人は減るようだ。一人で散歩するには素晴らしい場所だな。夜にこの並木道を散歩するとかマジ俺リア充!
「何を気持ちの悪い顔をしている。それでも私の許婚か」
 夜の並木道を歩く俺の姿を妄想してにやにやと笑みを浮かべながら、俺が住むことになった寮へと歩いていると、不意に後ろから声が聞こえてくる。
 聞いたことのあるような声。そして許婚という単語。
 声の主に心当たりがありすぎる俺は、立ち止まって今日何度目かわからない溜め息をつきながら、ゆっくりと振り返った。
「うむ。久しぶりだな、孔明!」
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