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いち、にい、さん!

原作: 銀魂 作者: 澪音(れいん)
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43話 「新しい街」



参ツ葉さんと一緒に戻った拠点前にはすでに壱橋さんが仁王立ちに立っていて、土間に置き去りになっていた私の荷物ですべて察したらしい、呆れた目は優しさを取り戻し、「別れは済んだか?」と問い掛けてきた彼に、私はひとつ、大きく頷いた。直接言うことは出来ないけど、自分の中で、きちんと別れは済んだ。

それに壱橋さんもひとつ頷くと、タイミングよく戻って来たらしい葯娑丸君がこちらに軽く手を振りながら歩み寄ってきた。



「今から向かう国は、「死者」の国でもある。ここのように気兼ねすることもなくなる」

壱橋さんは森の奥の方へ私たちを導きながらこれから渡る世界について教えてくれた。

一見、どこにでもありそうな洞穴を指差した壱橋さんは「後に続くように」と伝えると、何の躊躇もなくその中に入って行った。その後に続くように入ろうとした参ツ葉さんに手を引かれ、チラリと隣を見ると、壱橋さんの背中を追っていた瞳が私の方に向いて安心させるようになのか、柔らかく微笑むから、私も少しだけ、安心した。

洞穴に入ると、中は何も見えないくらい暗く、壁がどこにあるのかすら分からず、参ツ葉さんに繋がれた手とは逆の手をゆっくり伸ばすと、その手は誰かに取られて、驚く間もなく少し強めに握りしめられた。

「このまま真っすぐ行け」

声の主は葯娑丸君だった。
どうやらこの空間は壱橋さんが世界と世界を繋ぎ合わせるために作った簡易的なものらしく、本来ならば何か月も掛けて強化していくものを急遽の形で作っていて、凄く脆いらしい。だから私の手が触れる前に葯娑丸君が手を握って止めてくれたのだと。

もし触れていたら、そう思うと今更になって恐ろしくなってしまった私に前方から壱橋さんの声が響き、俯けていた顔を上げると、一筋の光が見えたと思えば、いつの間にか拓けた場所に立っていた。

洞穴から出たそこは、同じような山の上に出たけれど、麓の方に見える街は一言で言えば「華やかな街」だった。江戸の街も活気にあふれた素敵な街並みだと思っていたけれど、それとはまた違う、彩りがそこにはあった。

ここが、死者の国だなんて信じられない。
この街の中枢部には大きな塔があり、そこには大きなモニターが1つだけ掲げられていて、現世のことを知ることが出来るらしい。発展した街並みは、何だか近未来な感じがする。

この国は、わたしが最初に辿り着いた「街」、壱橋さん達が定住している世界のおおもとを形成している場所なのだとか。

そこには多種多様な人種が住み、生者となんら変わることなく暮らしている「世界」がある。そこでは来世に向けて、転生する「その時」を待ちながら暮らしている人が集っている。ただひとつ、この「死者の国」が「街」とは違うのは、誰もが平等な「権利」を所持していることなのだと参ツ葉さんが呟いた。

「街」では未練がなくなったと判断されたら強制的にこの世界に飛ばされてしまう。けれどここでは、一定の期間が過ぎると、その後の転生への移行はその人間の意思が尊重される場所なのだそう。

新たな人生を歩みたい人は、記憶のリセットをされて、新たな道へと歩を進める。
待ち人がいる人は、その人がこの世界にやってくるまでこの街で暮らしている。

そんな死者の国へ私たちがやって来た理由は、私という存在を「保護」対象にしてもらう為なのだそう。本来、この国は、「街」の規律に関してノータッチを貫いている為、このようなことを頼むには「街」の中枢を一手に引き受けている「役所」に、そして、「調律師」という人に話を付けなければならないらしい。そして、「調律師」の人が許可証を発行すると漸く、この国でその申請が受けられるようになるそうだ。

それならここじゃなくて、「街」に行くべきなんじゃないか。
そう思った私に葯娑丸君が事の経緯を説明してくれながら、その必要はないのだと話してくれた。その表情は複雑そうであった。

大きな白塗りの建物内部に入って行くと、迷うことなく中央部にある受付センターのほうへ向かっていく壱橋さんに、私の左手を掴んでいた参ツ葉さんが先程から黙っていることに不思議に思っていた。いつの間にか手を離していた葯娑丸君は別に用事があるらしく、建物の前で一度別れている。

「いらっしゃいませ、ご用件をどうぞ」

にっこりと笑った女性は壱橋さんから「保護申請」を受けに来たことや、「調律師」さんから許可は得ていることを話すと、壱橋さんが手渡した書類をじっと見つめてから、私の方をしげしげと見つめて「確認させていただきます、少々お待ちください」と近くにあった椅子に腰掛けた。

数分だっただろうか、暫く何かを打ち込むような音が響いていたと思うと、何やら白い箱のようなものを暫く見つめていた女性が顔を上げ、「許可が確認できました、簡単な書類にだけ記載事項等お願いします」と女性から、壱橋さんに書類を手渡された。

後は本人不在でも事が進むらしい、壱橋さんが残りの手続きを踏んでくれると言い、私と参ツ葉さんは建物の外で待っていることになった。


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