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いち、にい、さん!

原作: 銀魂 作者: 澪音(れいん)
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22話 「散歩」

「こっち、こっちー!」

参ツ葉さんに、「町探検してみない?」とウインクされた時は、思わず頷いて着いてきてしまった。
今まで壱橋さんと葯娑丸君の2人と行動することが多くて、この世界に来てからは特に女性と関わることがなかったから嬉しそうに隣を歩く参ツ葉さんと手をつないで歩くのは新鮮な気持ちだった。最初は参ツ葉さんのテンションに着いていけずにいたから、失礼だと思いつつ来たことを少し後悔したけれど、今はそれが嘘みたいに楽しいと思えるのはきっと、一緒にいるのが参ツ葉さんだからなんだろうと思う。

「男2人と一緒だと、やっぱりこういう気分転換って出来てなかったでしょ?特にあの2人は気が利くほうじゃないもんねぇ」

壱橋さんとは随分長い付き合いらしい参ツ葉さんは、葯娑丸君とは然程の付き合いではないと聞いた。
参ツ葉さんは初対面だった私にも明るく話し掛けてくれて、すぐに打ち解けたから、きっと他の人にもそうなんだろうと思っていたけれど、そこは色々な事情があって、今は疎遠な形になっているから気まずいのだとか。確かに、参ツ葉さんがやって来た日から、葯娑丸君を見掛ける回数も格段に減っているし、参ツ葉さんもこうやって何でもないように葯娑丸君の話題を口にするけれど、決して名前は言わないのは何かしら思うところがあるのだろうと察せる。もしかしたら、壱橋さんが言わないだけで、もっと、私が知らない2人の過去に何かあったのかもしれない。ここに居る間に少しでも打ち解けてほしいけど、きっとそれは何も知らない私が口出すことじゃないんだろうなと思うと、少しだけ寂しくなった。




「あれ、ファミレスは初めて?」

辺りを忙しなく見過ぎたのだろうか、慣れない空間でソワソワしすぎたのだろうか。
きっと両方なのだろうけれど、参ツ葉さんは優しく微笑んで小首を傾げるのを見て、ちょっとだけ恥ずかしくなって頬をかいた。

「はい、ここに来てから外を出歩くこともあまりなかったので」

「ええ!?記憶探しには外に出るのが一番なのに…あーでもここは帯刀している人間も多いし、いっちーも色々警戒してのことなのかなぁ。何かあったらじゃ遅いし」

参ツ葉さんは、明るくて、少しだけおちゃらけていて、親しみやすいというか、馴染みやすい性格の人、それが第一印象だったけれど、こうして話していると何だか慎重な人のように見えてくる。
何かあったら突っ走って行ってしまいそうな雰囲気を持っていながら、実際は一番後ろで冷静に考えて行動するタイプ、それが今私が参ツ葉さんに抱いている印象になった。

「でもさ、いっちー達に気を使って言う事を聞くのも、まぁ、ありっちゃありだけどさ。自分のしたいことを曲げてまで聞くことはないと思うけどな。いっちーはどちらかと言うと、「石橋を叩いて渡らない」タイプじゃない?静かに生きていくのが理想な人だからしょうがないけどさ~」

両手を広げてやれやれといった表情で首を振る参ツ葉さんは、私の方を見てにんまりと笑うと顎の下に両手を当てて私の方へと顔を近づける。

「でもさ、人生一度きりーって言われている中、死んでからもこうして生きられるのって数少ないんだよ?まあ、未練のある人間って結構いるけど、案外早く見つかって成仏していくケースの方が多いからさ。こうやって世界を渡る人間なんてほーんのひと握りなわけよ。そんな二度目の人生「石橋を叩いて渡る」なんてもったいなくない?」

離れていった参ツ葉さんはメニューを見ながら「おいしそー」と嬉しそうに選んでいる。
通りを見ると、私たちとは違って、「生きている」人達で溢れかえっている大通りが見えて、その中に山崎さん達と同じ制服を着た人たちが何人か通ったのが見えた。

私たちと、彼らに見た目の差はない。
生きている人の中でも「霊力」の強い人達に見つかってしまうと厄介なことを踏まえても、死者が混じっていることを分からせない為にそういう風に見せているのだと壱橋さんが言っていたし、当たり前なんだろうけど。
けれど、私たちは確実に彼らとは違う。
この身体には脈拍もないし、体温もない。
だから出来るだけ、生きている者と接触を控えるようにと言った弐那川さんは私の腕を握ると、泣きそうになるのを堪えるように、体温のない体を擦っていた。

それに…

『いいか、俺達は死んでしまったら何も残らない。
魂はおろか、その場に「肉体」すら残らない。
無茶しないのが一番だが、万が一の時は』

壱橋さんに言われた言葉が胸に残る。
万が一の時は、きちんと。

「大丈夫だよ」

ぼんやりと窓の外を見ていると、目の前でひらひらと振られた手に釣られるように参ツ葉さんを見ると優しく笑ってもう一度「大丈夫だよ」と言った。

「ちゃんと守るよ、いっちーも私もいるんだからさ」

まさか、考えていることまで悟られているとは思わなかった私は目を見開いた。
そんな私に、参ツ葉さんはおかしそうに笑うと、「早く決めちゃおう?」とメニューを指差す。

参ツ葉さんの笑顔を見ていたら、落ち込んでいた気分が少しずつ上がっていくのを感じた。
不思議な感覚だった、参ツ葉さんは何となく、壱橋さんと同じようにどこかで会った気がするんだ。
記憶を取り戻したらそれも全部わかるのだろうか。

そしたら、私にも、何かできたらいいのに。
壱橋さんや参ツ葉さん、それに葯娑丸君や、弐那川さんのように。
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