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いち、にい、さん!

原作: 銀魂 作者: 澪音(れいん)
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11話 「さがしもの」


「碧壱の坊主。真選組が娘のことを嗅ぎまわっているらしいが」

「ああ、街に出た時に見た。地味な男に白髪、というより銀髪の男がいたな」

屋根の上に座り、賑わっている江戸の街並みを見下ろしている壱橋の横に座った葯娑丸は後ろ足で頭をかきながら欠伸をもらして、同じように街を見下ろした。

「あの子は眠っているか?」

街の方をぼんやりと見つめながら訪ねてきた壱橋に葯娑丸は先程まで何を考えているのやら、暗い顔でぼんやりとしていた娘を思い出す。

「ああ。ネガティブで話していると疲れるなあの娘は」

「そうか?…昔はもっと明るい優しい子だったが、記憶をなくして色々と不安なんだろうな」

何かを思い出しているのだろうか、普段は口を一文字に結んでいて、表情が伺えない壱橋の顔に、優しい温かみのある微笑みを見た葯娑丸は別段驚くことなく、じっとその横顔を見つめると「やはりか」と笑った。

「お前はあの娘を初めて目にした時から、随分と違う態度を取っていた。お前が「亡者」に対してここまで連れ添ったことを見たことがない。それに、俺があの娘を連中のところから連れてきた時も、あれは弐那川のばあさんとの約束ではなく、心配だったのはあの「娘」のことだろうな」

「あの子が忘れているのなら、無理に思い出させることはしない。ただあの子が思い出したいというならば、最期まで寄り添ってやりたいだけだ」

あの子を弐那川さんの店で見た時に、カウンターに座っている後ろ姿が見えた。
葯娑丸が自分が着たことに真っ先に気付き声をかけてきた時、返事をしようとして出来なかったのは、葯娑丸の隣にいたあの子があまりにも「あの子」にそっくりだったから。

かちりと合った視線に、「あの子」が振り向いてこちらに笑いかける映像がだぶって見えて、ロクに視線を合わせられなかったのを思い出す。平然を装って、今まで彼女に対して特別な感情がないように他の亡者に対する態度と極めて等しくなるように努めてきたが、生憎隣にいる葯娑丸と、そしてここにはいない弐那川にはバレてしまっているらしい。長い付き合いというのも気楽でいいが、こうして隠し事を作りたい時には随分と厄介なものだ。

「お前のあの娘との付き合い方に口出しする気はないが、あまり思い詰めるなよ」

「お前からそんな労わりの言葉を貰えるとは思わなかった」

「ふん!ただそうなったお前は面倒なだけだ」

立ち上がり屋根から降りて行ってしまう葯娑丸の後ろ姿を見て、苦笑いした壱橋は見下ろしていた街を最後に一瞥してから自身も屋根を下りた。




坂田銀時と山崎退はやっと見えてきた一筋の光を頼りにやって来た長屋で聞き込みをしていた。
けれどそれ以上思ったような収穫は得られず、そのくらいの年頃の娘というのは探している娘とまた別である可能性が浮上してきてがっかりとしながら路地裏から出てきた。

実際、情報が少ないのが第一の原因だろう。
特徴は黒髪に黒目、そして名前も出身地もわからなければ、特徴的なものはなにもない。
色々な場所から人が集まるこの江戸の町でそれだけの情報で一人の娘を探すことは至難なことではなかった。

日が落ち、赤く染まり始めた空を見上げ「今日もこの辺にしようや」と呟いた銀時に、山崎が頷き、お互いに銀時は万事屋方面へ、そして山崎は屯所へと歩き出す。

普段なら大通りを過ぎてすぐに着く屯所も、敢えて路地裏を多く通っているせいでいつもの倍は掛かっている。
屯所にいる土方と沖田からはいい加減にしたらどうだと言われているが、どうしても諦めきれない理由があった。すっかりと暗くなっている空を見上げ、夜に人探しはもう無理だろうと、屯所に足を向けた時だった。

一瞬鋭い視線を感じ、刀に手をかけ振り向くと、誰もいない路地が広がっていて、一匹の猫が屋根から降りて向こうの方へと走っていくのが見えた。なんだ、猫かと刀から手を離し立ち去ろうとした時だった。再び背後から気配がし、振り向こうとした山崎は首筋がスッと冷たくなるのを感じて動きを止めた。

「お前の追っている娘から手を引け」

低い男の声が耳元で響き、威圧感に額から流れた汗が顎を伝って地面に落ちていく。

「何の話かな。俺は誰も探っていないけど」

いつもの隊服を着ていない自分は一般人として動いていた。
情報を得る時も「行方不明の妹を探している」と歩き回っていたはず。
ということは後ろにいる「誰か」は自分が誰を探しているのか、そして自分が「真選組」に属していることすら知っている人間なのだろう。

そしてこの殺気は男が一般人でないことを示す。
つまり、それは彼女が「そういう人間」と関わっていたことを。

男は彼女に関することを探ることをやめるように俺に言った。
今、圧倒的に俺が不利な状況で、ここは相手の言う事を聞いておくのが一番なのだろうこともわかる。
けど、もしかしたら彼らに利用されて辛い思いをしているかもしれないと思うと、真選組隊士として、素直に頷くことは出来なかった。

「申し訳ないけど、それは出来ない」

刀に手を添え、反撃する準備をした。
けれど男は意外にも刀を鞘におさめ、ため息を吐くと、その後も斬りかかってくる様子もなく、恐る恐る振り向いた俺はその容姿に唖然とした。

「な、なんで」


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