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いち、にい、さん!

原作: 銀魂 作者: 澪音(れいん)
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10話 「依頼」


街中を探し始めてから数時間。
似顔絵を片手に探し始めてこれらしい情報はひとつも入ってはこなかった。
少しでも、ほんの少しでも情報が入ってきたらまだ「希望」を持って探すことが出来るというのに、まるで最初からあの子が存在しなかったかのように集まらない情報にため息が出た。
副長は、彼女が間者の可能性を考えているようだけど、もしかしたら攘夷志士に連れ去られたんじゃないだろうか。もし間者だとしても何か、理由があっての事かもしれない。無意識に指に力がこもり、くしゃりと降り曲がった用紙を見下ろし、何度目かのため息を吐いた。


「それで、うちに来たって訳」

「もう猫の手も借りたいくらいなんです。」

雪の積もる歌舞伎町を探し回り、辿り着いたのは万事屋だった。
気だるそうに鼻をほじりながらこちらを見てくる旦那のやる気のなさそうな双眼が宙をさまよい、まあ断られるだろうなと諦めが出始めてきたころだった。

「猫の手は貸せねぇが、犬の手なら貸してやる。おーい神楽、定春貸してやれや」

「いやヨ!こんな吹雪の中定春連れだしたら風邪ひいちゃうヨ」

「大丈夫だ、そいつは多少の寒さで風邪なんてひくタマじゃねェ。その娘っこ連れて来たら年末にみんなですき焼き囲めるくらいの報酬くれるってよ。ザキヤマ君が」

やっぱりここに来るより別の場所を探しに行った方がよかったかななんて思い出した。
けれど、そういうしている間にもしもの事があるかもしれないし、人手は多い方がいいと思ったんだけど。

「じゃあ銀ちゃんが行くヨロシ。ここ最近私たちに仕事任せっきりで自分はこたつに入ったままネ。不公平ヨ」

「バカヤロー銀さんはなァこう見えて忙しいのなんのって。それこそ猫の手も借りたいくらいなんだぞー。」

あくびをしながら、完全に布団の中に入り込んでしまった旦那に呆れた視線を向けるが、しっし、と手を振り払われ、諦めて自分の足で探せとでも言いたいのだろう。そんな旦那に、向こうからやってきた新八君が、俺と同じように呆れた視線を向けながらため息を吐いた。割烹着と三角巾って、いつから新八君は主婦になったのかな。いやこの場合主夫か。

「ただこたつに入りながらM〇テ見てるだけじゃないですか。」

「ただのM〇テじゃねぇぞ。今日のは11時間スペシャルだから。生放送だぞ、生放送。お前の好きなあれ…誰だっけ、スジコちゃんも出るんじゃねェの」

「スジコちゃんって誰ですか。お通ちゃんのことじゃないですよね?アンタ年始に取ってあるおせち料理で頭いっぱいか」

ったく、と呆れながらテーブルの上に乗っている酢昆布の空き箱やお菓子の残骸をてきぱきと片付けながら「すみません、山崎さん」と眉を下げる新八君は、この万事屋に最後に残された良心だよなぁとつくづく思う。でも時々タガが外れたように2人と同じような奇行を見せて来るから多分根本は似たり寄ったりなんだろうななんて。

「長々お邪魔してごめんね、そろそろ帰るよ」

すっかりMス〇に夢中な旦那とチャイナ娘に諦めがつき、新八君に声をかけると申し訳なさそうに旦那のほうと俺を交互に見た。旦那はその様子にちらりとこちらを見たけれど、チャイナ娘に何か声を掛けられすぐに視線はテレビに戻っていった。

「すみません、山崎さん。せっかく仕事を持ってきてくれたのに。」

「ううん、いいんだ。俺が弱気になって旦那を頼ろうなんて思ったのが悪いというか、もう少しひとりで探してみるよ」

「僕でよければお手伝いしますよ!…と言っても、今日は姉上が早く帰ってくるのでこれが終わったら帰らないと」

「ううん、未成年を連れまわす訳にはいかないし。ありがとうね」

玄関まで見送りに出てくれた新八君に手を振り階段を下りていくと、さっきまで止んでいた雪が降り始めているのに吐き出した息が白く染まった。万事屋で温まった身体はすっかりと冷え切り、マフラーを口元まで上げると、これからどうしようかと息を吐いた。

悩んでいても仕方ない、もう行こうと一歩歩き出した時だった。
後ろからカンカン、と階段を下りる音がして、後頭部に何かがぶつかった衝撃で降り積もった新雪の上に倒れると、その痛みよりも先に驚きの方が上回ってすぐに後ろを振り向いた。そこに居たのは予想通りというか、予想外というか。自身も頭にヘルメットを装着しながら地面に転がっているもう一つのヘルメットを指差した旦那に慌ててそれを拾って立ち上がった。

「そーいや、まだジャ〇プ買ってなかったわーと思い出したんだよ。少ねぇ情報でこの真冬の雪の中を探してやるんだ、報酬は弾んでくれよ。おまわりさん」

スクーターのエンジンを掛けながら言った旦那に、俺はぼんやりとその様子を見つめていた。

「なんで」

「あ?なんで?そりゃお前、依頼だから」

雪の中を歩き回って俺の脳がマヒしたからだろうか。
それとも逆に、旦那がこの寒さにやられていつもと違ってしまったのだろうか。
いつも通り死んだ魚の目をした旦那が、今日は少しだけ輝いて見えた。

「旦那…」

「あん?」

「原付の2人乗りは違反です」


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