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いち、にい、さん!

原作: 銀魂 作者: 澪音(れいん)
目次

3話 「探し屋」

キイ、と音を立て開いた扉に、猫ちゃんが座っていた椅子から立ち上がってそちらにひと鳴きした。
それに気づいたおばあさんは扉の方に目をやると「やっと来たかい」と持っていた割烹着を椅子に置いてカウンターの向こうから、こちらにやってくる。

「この人がさっき言っていた「客人」だよ。失せものであれば人間だろうが、物だろうが、例え記憶だろうが探すのが生業さ」

コツコツ、と音を立てて室内に入ってきたのは黒いロングコートを身にまとった、まるで「役人」のような男の人だった。
その髪は白髪、ううん、銀髪で、天然パーマなのかその髪は綿菓子のようにふんわりしている。シルバーの眼鏡を人差し指で押し上げたその人は、おばあさんから私に視線を向けると、スッとその瞳を細めた。

「すまない、少し遅れた」

「いいや、急で悪かったね。空いている席に座っておくれ」

視線は私に向けながら、おばあさんと会話をするその人の視線がちょっとだけ怖くて、逃れるようにおばあさんの方を見ると、私の視線に気が付いたのか優しく微笑んで頷いてくれる。それに少し安堵すると、またコツコツと歩く音がして、あっという間に音の持ち主は私のすぐそばまでやってきた。

「なんだ、お前もいたのか。葯娑丸」

「にゃあ」

ヤクシャマル、そう呼ばれた猫ちゃんは、銀髪さんのほうを一瞥したけれど、座っていた椅子から私の膝に飛び移ると、小さく丸まって眠ってしまいその後銀髪さんの方を見ることはなかった。そんな猫ちゃん、葯娑丸君?の態度はいつものことなのか銀髪さんは特に気にも留めることなく、今まで葯娑丸君が座っていた椅子、つまり私の隣に腰掛け、ポケットの中を探りながら暫く前を向いていたと思うと、その双眼が再び私に向けられた。先程とは違い近くで見られると、何だか睨まれたようでちょっぴり怖くて肩が跳ね上がった。この人は私が記憶をなくしたから来てくれたというのに。

「この街で「探し屋」を営んでいる壱橋 碧壱(いちは あおい)だ。」

そう言って差し出されたのは何ともシンプルな名刺だった。
ぼんやりと眺めてしまってから、慌てて受け取ると壱橋さんは「そんなに堅くならなくていい」と言って、また人差し指で眼鏡を押し上げた。スッと視線を私から葯娑丸君に移した壱橋さんはここに来てから一度たりとも動かしていなかった表情を怪訝そうに歪め、腕を組むと「随分と懐かれているな」と葯娑丸君を指差した。

「え?」

何のことだかわからなかった。
ここに来てから、確かに朝傍にいてくれたのはわかっているし、ここに連れてきてくれたのも葯娑丸君だったけれど、会って数時間にも満たない自分に「懐いてくれた」とは思えない。きっと膝に乗っているのは壱橋さんの席を開ける為だけだろうし。未だに尻尾をゆらゆら揺らしながら金色の瞳をその瞼の奥に隠してしまっている葯娑丸君をじっと見つめていると、何を思ったのかこちらに手を伸ばしてきた壱橋さんに驚いて何も言えずにいた。壱橋さんの手が私の膝の方に伸びたのが見え、その指の先が葯娑丸君に届きそうになった時。前足を上げた葯娑丸君が前足を振り上げた。ガリィ!と音が鳴ると壱橋さんは無言のまま赤い線が3本入った手をひらひらと振る。それに先程まで眠っていたはずの葯娑丸君が全身の毛を逆撫でさせて威嚇するものだから驚いてしまった。

「まーたケンカしてるのかい。懲りないねぇ」

「お、おばあさん!あの」

「大丈夫だよ。いつもここに来るとケンカして帰るんだ。碧壱君、救急箱のところはわかるだろう?行っておいで」

「ああ」

スッと立ち上がった壱橋さんは何事もなかったように立ち上がり、カウンターの中にある木の棚を問答無用で漁ると中から出てきた絆創膏を無造作に貼り付けた。その間に落ち着いたらしい葯娑丸君が既に元のように丸くなって眠りについているのと交互に見て戸惑いを隠しきれずにいるとおばあさんが「犬猿の仲なのさ」と笑った。

「それで碧壱君、この子の記憶は見つかりそうかい?」

「ああ。役所に行っては見たが、すぐに答えは出なそうだ。顔から見るにアジア圏だろうからそこに絞って見てみたが、名前も住んでいた地域もとなると難しい」

「そうかい…難しいかい」

壱橋さんの言葉におばあさんは俯き、私はせっかく動いてくれた2人にそんな表情を指せるのが心苦しく感じた。
何故私は記憶をなくしてしまったのだろう。自分の名前さえ、覚えていれば少しでも解決の糸口に近づいたというのに。

「こういうことは焦っても仕方がない」

自分を責めるように俯いていた私の頭上から掛けられた言葉に不意に顔を上げると、壱橋さんの視線が自分に向いていた。

「ここの住人はあっさり出ていく人間もいれば、10年、20年と留まる人間だっている。俺はもちろん。ニナガワさんも」

「ニナガワ、さん」

何処かで見た名前…そう思っていると、フッと脳裏に浮かんだのは先程見たホテルの写真を見た時に、看板に書かれていた名前だと気が付いた。
おばあさんの方を見るとそれで合っていると言わんばかりに頷いた。

「記憶が見つかるまで、ここに居るといい。きっとすぐに見つかるさね。ね、藍壱君」

「ああ。」

「ありがとう、ございます。ニナガワさん、壱橋さん」

不安でたまらずにいた私に、「大丈夫」と言い続けてくれる2人にじわりと目の前が滲んだ。俯いた私の頭にふわりと温かい手が乗ると、ゆるゆると何度か撫でつけて離れていった。
「にゃあ」と鳴き声が聞こえ、葯娑丸君が私の目を見ながら鳴いた。
「元気出せ」と言われてる気がした。



おばあさん(弐那川さん)

猫(葯娑丸)

探し屋(壱橋碧壱)←new!
容姿は某銀髪侍さんと瓜二つ。
しかし性格は真反対の堅物キャラクター。

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