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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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贖罪

「……は?」
「そもそも、どうやって本当の名前、己の持つ魂に付けられた名前を知る? 自己申告しかないだろ? 言われたら、それを信じるしかない。だが、俺たちのように親に見捨てられ名前の大切さを知らないままなら、聞かれたら答える。人間は相手の信用度関係なく教えるから、アストレイアは信じるよな。こっちの世界の常識を知っているなら、言葉巧みに聞き出す術もあったはずだ。俺はパジャだと名乗り、パジャであるオーリンにはオーリンという名を与え刷り込ませた。そうでもしなきゃ、あいつは手が付けられなくなる。俺はオーリンの凶暴性を真似た。檻の中に隔離されることで、その中でなにをやっていたも感心すら持たれずにいた。ラッキーだったよ。姿が違うっていうのは、おまえらの思い込み。まんまとアストレイアの策にはまっているってことだ。そんなある日、アストレイアはコマとして俺にマックスという名を与えた。で、俺は凶暴なふりをやめ、本来に戻り、この組織の下っ端に入り込み、代表の信用を得た。が、まさか腹心にアストレイアが居座っていたとは驚きだ。こいつは魔術師の顔と、誠実な腹心のふたつの顔を使い分けていたが、それが難しくなり、一旦、魔術師の顔を死なすことにしたんだ。で、傑作なのはここからだ。魔術師は俺の実名をパジャと信じマックスという本当の俺の名を仮名として与えた。だから、パジャだと明かしたところで解放はされないし、むしろ洗脳すらされていない」
「……おまえ、まわりをよくこれだけ騙せたな」とちっこい方。
 続けて、
「ところで、オーリンがパジャだとして、本物のオーリンってのは誰だよ」
「俺の弟だ。そこの魔術師の実験体となり死んだな。名前すら聞くこともなく、道具以下のような扱いをした。その成果がクラウンの件だ。ドロ人形で遠隔操作的な?」
 マックスはハンクとシャールを見る。
「そちらの方々には、巻き込んでしまって本当に悪かったと思っている。パジャの暴走を止めるためにどうしても協力者が欲しかった。魔術師とは無縁の……だが、事前止めることができなかったばかりか、死者まで出してしまった。まあ、予定が狂ったのはオーリンをパジャと知らずに使った魔術師とそっちの凹凸コンビの横やりにも問題はあるんだが」
「事情は察します。私たちは、少佐を返していただければ、それで終わりにしてもいいと思っています」
 シャールはハンクやライザに確認することなく、そう告げた。
 聞いていたハンクは待ったと阻止しないところから、おおむね同意なのだろう。
 シャールは、この場の交渉を許してくれたと判断し、語る。
「少佐をどうしようとお考えなのかはわかりません。ですが、もし話し合うことで解決できるのであれば、そのように説得します」
 人間側の方を説得することに納得してくれれば、クロードを返してもらえると思い込んでいた。
 だが。
「そういう、偽善的なイイ子ちゃんは、もっと虐めて泣かせてみたくなるね。なぜこの男が必要なのか、なぜケインが必要なのか。まだわからないのか、おまえたちは」
「……どういうことでしょう?」
「擬神兵をつくりだしたエレインという女が生きていれば問題はなかったが、その女をケインが殺した。なんと愚かなことを。自在に化け物を作り出せるのなら、それを意のままに動かせるのだとしたら、すべてを掌握する一番の道のりじゃないか。が、ケインはエレインを殺したのち、それらの資料から彼自身も擬神兵を作り出せるようになったのではないか?」
「……聞き出すためかよ。それも、私欲のために!」とちっこい方。
「それがどうした?」
「だったら、てめぇだけがやれよ。関係ねーやつ、巻き込んでんじゃねーよ、ババア!」
 とその時!
 オーリン……いやパジャの力が暴走する。
 室内が一気に植物に占拠され、巨大な植物が天井を突き破る。
 さらに地下へと根を張りだし、床が崩れ落ちた。
 咄嗟の判断でハンクはシャールを小脇に抱え込み、回避。
 さらに迫りくる危機をなんなくかわしていく。
 マックスも同じく、軽々とかわしながら凹凸コンビの手助けをしていた。
「おまっ……混血じゃねーのかよ!」
 ちっこいのがマックスの機敏な動きと術の威力に問い詰める。
「なに言ってんだよ。元々は純血だと思ってたんだろう?」
「そーだよ。けど、あのババアのとこにいたって……」
「純血だから受け入れられるってもんでもない。力のない純血は混血以下扱いだって知ってたか?」
「は?」
「ちなみに、殺された弟っていうのは人間との間にできた子で、血は半分しか繋がってない。父親は純血にしては気弱で、そして優しすぎた。人間の味方になってそして人間に半殺しにされた。そそのかしたのは、そこま魔術師だ。言葉巧みにな」
 そしてマックスは父が愛した人間というものに接してみたくなったのだという。
 そうすることで、意図も簡単に騙されてしまった父を理解しようとしたのだろう。
 しかし、人間は擬神兵というものを作り出してしまった。
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