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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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真実の名前

「では……やはり?」とマックス(仮名)。
「おやおや、マックス(仮名)。酷い人ですね。名を隠して行動するようになってから、まるで別人のようになりましたが、よもや、すべてを忘れてしまった……というわけではないですよね?」
「……おい、どういうことだ?」と凹凸のちっこい方。
「我の名はアストレイア。そしてその男の名はパジャ。ピエロはクラウン、オーレン(仮名)はオーリンが生命というものに付けられた名だ。こうして他人に名を明かす意味をわかっているか?」
 人間の世界では名を明かすのは当然のことで、特別なことではない。
 だが、こちらの世界では違う。
 なにより、凹凸コンビの顔色が変わっていた。
「マジかよ……どういうカラクリだよ、アストレイア! てめぇ、老いて骨になってくたばったじゃねーか!」
「まだまだひよっこだね、おまえたち。あたしを誰だと思ってるんだい? 吸血鬼も恐れた魔術師様だよ? 姿を変え名を変え、別人のように振舞うのは容易いことだ」
「マックス(仮名)がパジャだって? 別人じゃねーか。あいつは手が付けられねーほどの野蛮人で……いつも檻の中にいて。書き換えたのか? 名を隠すとともに……ってことは、オーリンもクラウンも、明るい未来じゃなく、てめぇが自作自演で飼いならしていたってことか!」
「そう怒るな。おまえだってオーリンに羊皮紙の契約を強行しただろう?」
 それは……といいかけ、言葉を飲み込む。
 どんな理由があるにしろ、したことには変わりはない。

 込み入った理由がこの一連の発端であるならば、ケインの件は後付けになるのではないだろうか。
 ハンクとシャールは……いや、人間すべてが関わるように仕向け、虎視眈々と自分の野望を成し遂げようとしているだけなのではないか?
 マックス(仮名)も作られた記憶を持ち操られていたのだとしたら、もう誰を信じればいいのかがわからなくなる。
 だが、ひとつだけ今回に限り協力をしてくれそうな者がいる。
 凹凸コンビだ。
「そこの、凹凸コンビ……」とハンク。
「てめぇもか! 凹凸言うな!」とちっこい方。
「仕方がない。名を明かさず、今回の件で使用する仮名を用意していない」とおっきい方。
「ああ! ったく、しょうがねーな。今回だけだかな! どうせ、どういうことだって聞きたいんだろう? こっちも、聞きたいことだらけだがな!」
 と文句を言いながらも、さっくりわかりやすく説明をした。
 だが、マックス(仮名)の件は鵜呑みにするのは早急すぎると判断をする。
 実の名を明かすとともに、本来の記憶と性格が解放されるよう操作したのであれば、アストレイアがみなの名前を明かした時点でパジャとしての本質が出ているはずである。
 しかし、それがない。
 ちっこい方に言わせれば、手の付けられない野蛮人で常に檻の中に閉じ込められていたのだという。
 名を聞いただけで震えが止まらない凹凸コンビの様子から、そうとうの恐怖があったのだろう。
 そもそも、姿が違うのであれば、その辺りにもカラクリがありそうである。
「なあ、外見を変えるのは容易いとそこの魔術師が言っているが、本当か?」
「容易かねーわ。それはあいつ、アストレアのババアが異常なほどの魔術師だからだよ。そもそも、あいつの素顔なんて誰も知らねーし。吸血鬼の男に好かれこっちに来たってなってるけど、それも疑わしい。なんせ、その昔は人間と吸血鬼は同じ世界で生活をしていたからな。境界線を張る時、自身の意思で吸血鬼側に入った人間も、いた可能性はある」
「そうか。そういった者たちは、自在に人間界に行き来はできないものなのか?」
「人間は無理だね。混血なら可能な場合もある。現に、パジャも自力で行き来していただろう?」
「ではもうひとつ。ドロ人形の魔術を使った場合はどうなんだ?」
「吸血鬼の血もしくは心臓を埋め込めば、あるいは。だが、距離が遠ければそれだけ精密な動きができなくなる。だが、そこのババアならやれるんじゃないか? クラウンの血を抜いて。心臓を使わなかったのは、それだと一度きりだからだ。何度も使うには血の方が便利だからな」
 こちら側の推理が正しいのか、それとも間違っているのか、アストレイアはニヤニヤしたまま変わりがない。
「さて。そちらの推理は今ので出尽くした感じみたいだね。答え合わせをしようか? クラウンの件は半分当たり、半分外れだ。残念だったな。パジャの件は、こちらもわからないね。術は完璧でしっかりと解放されているはずなんだが」
 といいながら、パジャを見た。
 マックスという仮名をつけられていた男のことだ。
 その男が静かに笑いを響かせた。
「あ~、愉快だね。アストレイアを騙せたとは、痛快だ。あんた、はじまりから取り違えているんだよ。捨てられた子を拾って育てた。自分の野心に忠実なコマとしてな。だから、子の素性までは調べなかった。まあ、調べようもないから、仕方がないが」
 と、ここまで話たのち、凹凸コンビを見た。
「おまえらも知っている野蛮人のパジャはオーリンたよ」
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