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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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大詰め

 なにごとにも境目はある。
「それで、汽車の車体がどうしたの?」
 ライザは揺れを感じなかったことより、車体の方が気になっていた。
「はい。その車体が崩れかけている蔦に引っ張られ、穴に落ち始めているのですが……」
 つまり、あの巨大な蔦が傾いたことでできた穴の中に引っ張られているのだという。
「なんとかしなさい」
 ライザが声をあげる。
「なんとかしたいのは同じ気持ちですが、無理です」
 人を引き上げるのとはわけが違うと兵士はいう。
 もっともだとジェラルドは頷いた。
「暢気なことを言わないで。あの場所がなくなってしまったら……」
 そこまで言いかけたライザは口を手で覆う。
 事実を知っているのは限られた者だけ。
 しかし、兵士はこう解釈をした。
「たしかに、事件現場が崩れてしまうのは事件解明を断念することになります。ですが、これ以上の被害は最小に抑える方向がいいと思います」
 兵士の数は減っている。
 これ以上の犠牲は、ライザやジェラルドも出したくないと考えている。
「ああ、もちろんだ。報告、ご苦労。負傷兵の対応を頼む」
 ジェラルドが平常心でそう指示をだし、その場をなんとかやり過ごせることができた。
「ライザ少尉。気持ちはわかるが、軽率すぎる」
「……はい」
「だが、このまま見過ごすわけにはいかないのは確かですな」
「そうですね」
「入り口となっている茎の部分と、移動に使用していた車体だけでも回収するよう、考えるしかないですな」
「はい。でも、その人員に事実を知らない兵士は使えません。我々だけでするしかないでしょう。となれば、沈下した場所に私か軍曹が直接行くしかないのでは?」

※※※

 人間の世界での地盤沈下による振動は、この吸血鬼の世界でも起きていた。
 それはその場に立っていられないほどの揺れて、壁が崩れた場所もあったらしい。
 ハンクとシャールは用意された部屋を出て、クロードがいる場所へと向かっていた。
 以前は勝手に歩かれないよう、霧の能力を使い瞬間移動をしていたが、今回は珍しく行動の範囲が広がり、また監視という名の同行者も外されていた。
 受け入れてくれたというよりは、なにかの失敗を待っている、それをネタにこちらの世界に閉じ込めてしまおうと動いているふしが感じられる。
 その目的はシャールだろう。
 なんとかクロードが治療のためにいる部屋へと辿りつくが、そこにはなぜか仮死状態になっているはずのオーレン(仮名)と、アストレイ(仮名)がいた。
 オーレン(仮名)に至っては、意思がない状態のように思える。
 操られているといえばいいだろう。

 同時刻、凹凸コンビの隠家にいたマックス(仮名)たちも激しい揺れを感知していた。
「地震?」
 と思ったのはマックス(仮名)。
 しかし、凹凸コンビのちっこい方に即座に否定される。
「違うだろ! これは……爆発の地響きに似ている」
 さらに続けて、
「ここから出るぞ」
 と言うや否や、問答無用で相方とマックス(仮名)を霧に包み飛ぶ。
 飛んだ先はなぜか、クロード少佐がいる部屋の中だった。

 ハンクとシャールは、そこにアストレイ(仮名)とオーレン(仮名)がいたことに、さほど驚きはしなかった。
 ただ、オーレン(仮名)の状態が普通でなく、そうまでして彼を伴わせていることに異常を感じずにはいられない。
 そこにマックス(仮名)と凹凸コンビという珍しい組み合わせの三人が現れたことの方が驚きだった。
 しかし、アストレイ(仮名)はそれらすら予知していたのか、まったく動じない。
 むしろ、そんな場所に出てしまった三人が驚愕じみた顔をいつまでもしていた。
「なんだってこんなとこに連れてくるんだ、凹凸コンビ!」
 とマックス(仮名)が我に戻り指摘をすれば、
「いちいちうるせーな。俺だって知らねーよ。意識は別の場所をイメージしたのに、ここに引っ張られちまったんだ。やったのは……」
 と言いながら、アストレイ(仮名)を見た。
 さらに続けて、
「てめーが黒幕、主犯だろ、アストレイ(仮名)」
 その言葉にオーバーアクションで驚いたのはマックス(仮名)だった。
「違うって言わなかったっけ?」
「どーでもいいだろ、そんなこと。手の内を簡単に明かすか、ばーか」
「はあ?」
 どうも、この三人には緊迫感というものがないらしい。
 ハンクとシャールは真正面を見据えていた。
 アストレイ(仮名)の先にはクロードがいて、手厚く看病されているものとばかり思っていたが、そこにある姿は、蔦によってがんじがらめにされた状態だった。
「なんてことを……これは、あなたの仕業なのですか、アストレイ(仮名)さん!」
 シャールの悲痛な叫びが響く。
 しかし、アストレイ(仮名)は動じない。
「そうやって怒った顔も可愛らしいですよ、シャールさん」
「茶化さないでください!」
「本当のことを言っただけなのですが。女性の扱いはどの時代も難しいですね」
 視線をシャールから凹凸コンビとマックス(仮名)へと流す。
「イメージした場所とは違い、ここに来てしまった……でしたか。当然でしょう、そうするように仕向けましたから。あなたがこちらを疑っていたことはわかっていましたし、ピエロの灰が発見されれば、いずれ行動を起こすと思っていました」
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