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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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黒幕の存在

 ふたりは小さく頷いた。
 ハンクは聞かれたことに答えながら相手を観察する。
 シャールは記憶を思い返しながら丁寧に受け答えをした。
「ありがとうございます。大変申し訳ないのですが、オーレン(仮名)の処置が終わるまで、こちらに滞在をお願いしたいのですが」
 その申し出にハンクが同意をしたので、シャールも付き合うことにした。

※※※

「さきに戻っていてもいいんだぞ?」
 ハンクは用意された部屋の中で、シャールに言う。
 ひとつの部屋だが、寝室は分かれているとの理由で同室に押し込められてしまったふたり。
 互いに異性を特別に意識はしていないが、どちらかといえばハンクの方がシャールに気を遣っているところがある。
「いいえ、私は残ります」
「いや。あのな……」
「心配は無用ですよ、ハンクさん。大人の男性は父で慣れていますから」
「いや、だから……はあ……。わかった。寝室に入ったら鍵をかけろ。それと、やたらと無防備になるな」
「……? 私、ハンクさんのこと、信用していますよ?」
「……俺だって、その気はない。だが、当事者以外はそうは思わないというのが世間というものだ」
「……よくわかりませんが。鍵をかければいいんですね?」
「そうだ。それと、部屋を出る時はひとりでは出歩くな。俺かマックス(仮名)の同行は必須。それから、俺とマックス(仮名)以外の者を信用するな。敵は俺たちが滞在している間に仕掛けてくるぞ。ライザを遠ざけたのは、彼女の勘の良さを敬遠してのことと、必要以上にシャールのことを気にかけるからだ」
「それって……」
「散り散りにするつもりでいるんだろう」
「だったら、なぜ私とハンクさんは同室なのでしょう?」
「まともな成人男なら、少女であるシャールに気を遣うだろう。長々と同室にいる可能性は低い」
 という説明をされても、シャールにはよくわからなかった。
 信用している大人の男性とふたりきり、部屋にいてなにがいけないのだろうと……
「まあ、敵の誤算は、シャールがまだ女性として覚醒していないってことだな」
「……なんか、バカにしていません?」
「そう感じるなら、少しは恥じらいというものをもってほしいものだな」

※※※

 その頃、マックス(仮名)は……。
「滞在するという話は、聞いていませんよ? もし彼らがオーレン(仮名)の引き渡しを要求したら、施しを終えた彼を俺が人間の世界に連れて行くという話だったはずだ」
 マックス(仮名)は当初の予定と違うことを、アストレイ(仮名)に詰問していた。
「実際、施す過程を見てもらった方が、安心すると思っての配慮だよ」
「安心って……見たところで、彼らにはわかりませんよ?」
「だとしてもだよ。あとで難癖つけられてもね……」
「難癖って。そんなこと、するとは思えません。そもそも、今回の件はこちらがお願いしている立場のはずでは?」
「発端は人間側だ」
「確証はありません。我々の歴史は長く、把握をしていないオリジナルも存在します。自分たちの世界を作り、人間の世界との間に境界線を設けた時、人間の方に残った同胞もいたと聞いています。彼らのその後は不明。なんらかの事情で、彼らの何かを人間が手に入れたとも考えられます」
「だとするならば、先祖の墓を暴かれたということだ。墓を掘り起こす。永久の眠りの邪魔をする。あってはならないことだよ、マックス(仮名)。まあ、感情的になってはいけないね。人間を嫌悪しているわけではないよ。ただ、内通者の嫌疑は人間の方にもある。彼らとしてはもしかしたら擬神兵の存在を隠したく、共有・共闘することをよしとしない者もいるのではないか? 我々だけが疑われる筋合いはないよ。なんにせよ、疑わしい女性はあちらに残してきたマックス(仮名)の手腕に感謝だな」
「アストレイ(仮名)。俺はあなたの指示に従っただけだが、ライザ少尉は内通者ではない。断言できる」
「マックス(仮名)。人間界にいすぎたのだろうね。感化しすぎだよ? 危険だ」
「その言葉をそっくりあなたに返す。あなたは代理のはずだ。代表は人間界を旅しているのでしたね。どのあたりです? 定期連絡は取っていますよね? 俺が迎えに行きます」
「代理には権限がないと思っているのなら、大間違いだよ、マックス(仮名)。とにかく。きみはしばらく急速をとりなさい」

※※※

 三人を見送ったあと、ライザはすぐにジェラルドのところへと戻り、ことの次第を報告した。
「その話が本当なら、ハンクはともかくシャールさんは危険ですな」
「……そうよね。ばかね、私。なんで食い下がらなかったのかしら」
「その時は聞き入れることが最善であると判断したのでしょうから、そのような後悔は無用かと。ハンクがいますし、彼、マックス(仮名)は信用できる男です」
「あら。内通の容疑をかけておいて?」
「ふっ……」
「ふ~ん。作戦のうちってことですね。誰が内通者か、見当がついているとか?」
「私はあなた方ほど接点はありませんので、比較的平等であったと思いますが、ピエロさんがそのようなことになっているのでしたら、意外な人物が黒幕である可能性を提言しますが」
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