ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
目次

もう一度地下室から

「それでいいのなら、俺たちは意見する立場にないから」
「ありがとう。それと内通者の件だけど……」
「それはこちらの管轄だよね。でも、実のところ、少尉はちょっとヤバいんだよね。疑われているっていうか。行方がわからなくなったのも、実は内通している人とそうやって姿をくらましたとか。ほら、ピエロくんが死んだことと一括りにされててさ」
「つまり、私があえて行方をくらまし、入れ替わったピエロくんと内通して騒ぎを混乱させた……と」
「そう、それそれ!」
「ばかばかしいわ」
「まあ、そうなんだけど。今回はそういうことだから、少尉は席を外して欲しいというのが本音。俺だけじゃ対処できないから」

※※※

 ライザを人間の世界へと送ってから、マックス(仮名)はハンクとシャールを連れて吸血鬼の世界へと戻ってきた。
 シャールは、
「ライザさんは、大丈夫でしょうか」
 と、彼女のことが気がかりであった。
「ライザは内通者ではない。誰かが意図的にライザを排除したくてそうし向けているのだろう」
 ハンクはこれまでの話を黙って聞いていた。
 筋は通っているが、裏付けが完璧すぎてむしろ気持ち悪い。
 こういったことは予期せぬ事態が起きる確率が高く、予定通りに展開しないものである。
「ハンクさんは、なにか気づいているのですか?」
「いや。だが、引っかかりはある。マックス(仮名)もライザも内通者ではない。ピエロに関しても入れ替わっていたのだとしたら、どこかで違和感を抱くはずだ。それがない。ということは最初から入れ替わっていたということだ。ただ、最初からがどこがその最初とみなすかだ。派遣すると代表が決めた時なのか、それとももっと前……ケインのことについて調べはじめた頃なのか……」
「でも、マックス(仮名)さんの件があります。誰もさらに入れ替わっていたなんて気づいてませんでしたよね?」
「……そうだな」
 そこでシャールは考えた。
 誰にも疑われることなく入れ替われる方法を。
 吸血鬼は人間にできないことができる。
 しいていえば、夢物語みたいなこともできてしまうのだ。
 だとするならば、物語の中だけでしかなかった非現実的なことも出来てしまうのではないだろうか。
「あの……」
 シャールはマックス(仮名)の服の裾を掴み、歩みを止めた。
 人間の世界と吸血鬼の世界の出入り口を、汽車と地下室で繋げてある。
 いつものように地下室に入った彼らは、ほかの面々が待つ円卓の部屋に向かっていたが、その途中でシャールが止めたのだった。
「ばからしいことを聞いてもいいですか?」
「ばからしいこと? なに?」
「えっと。たとえばなんですけど。人形に魂を宿したりとかって出来ますか?」
「人形……擬体ってやつかな? 結論を先にいえば出来ないこともない。だよ。それが出来たとして、どう考えていたりするのかな?」
 マックス(仮名)はシャールの言おうとしていることがわからないが、ハンクはわかったようだ。
 シャールの代わりに、ハンクが答えを口にする。
「入れ替わったのではなく、元々が人形だった……。ということか」
「はい……。でも、そうなると死体が見つかったという点が不明確になります」
「いや、そんなことはない。なんらかの事情で肉体が滅んでしまったが、ピエロの持つ能力は失いたくなかった。だから移植した……というのはどうだろうか」
 ハンクの考えにマックス(仮名)が首を横に振る。
「力の移植はできないよ。たとえば、財産の継続はできても、個人が持つ知識や能力の継承はできない。だから、人形説でいうなら、ピエロと同等もしくは近い能力の人が操っていた……だ。で、その仮説。思い当たる点がある。ひとまず、俺に預からせてもらってもいいかな?」
 マックス(仮名)の提案に、ふたりは同意した。

※※※

「わざわざ出向いてもらってすまないね」と、アストレイ(仮名)が物腰柔らかく挨拶をする。
 円卓には見知った顔もいればお初の顔もいた。
「さて、人間の方々もご到着したようですので、情報の交換をいたしましょうか」
 アストレイ(仮名)が議長となり進行する。
「だいたいのことは説明済みだよ」とマックス(仮名)。
「そうですか。それで、結論は出たのでしょうか」
 それに対し、ライザが出した結論をハンクが代弁した。
「そうですか。たしかに、それが一番よいのかもしれませんね。いま、オーレン(仮名)は眠ってもらっています。仮死状態、という処置ですね。このふたりが契約の破棄を拒んでいましたので」
 と、例のふたりに視線を流す。
「しかし、どのみち人間界へ引き渡す際、記憶を作り替えてしまいますので、契約の無効にもなりますが」
 と付け加えた。
 つまり無駄な足掻きを続けて手間取りさせやがって……と遠回しに突っついているのだ。
「早急に、その処置に入らせましょう。それから、内通者の件ですが、ピエロとの共有時間が長かったハンクさんとシャールさんに詳しくお伺いしたいことが多々あります。ご協力、願えますか?」
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。