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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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羊皮紙と契約

「リンクされていることを彼、オーレン(仮名)は知っている……いえ、知っていたら逃げたいとはいいませんね。違反行為ですよ!」
「あ? うっせぇな。こっちの組織じゃ普通なの。当たり前なの。自分のコマをどう使おうと持ち主の自由。っていうか、こーんな使えないキモ男を押しつけられたこっちの身にもなってよ」
「部下に恵まれない環境はお察しするが。だからといって、やっていいことと、悪いことの分別もできないとは。呆れましたね。なおさら、渡せません」
「けどさ。丸バレだよ?」
「リンク解除の方法がないわけではありません」
「へえ。てことは、殺すのか、ぼくを。いいよ? 殺し合い、やろうじゃん」

 ふたりの会話はかみ合っているようだが、温度差が違いすぎる。
「イカレてやがる」とマックス(仮名)。
「イマノ、ウチニ、イドウ、シヨウ」
 ピエロくんが、霧で別の場所に移動するようにと囁く。
 しかし、大柄の男がそれに気づいた。
 突進してくる進路にハンクが盾となり阻む。
「行け! シャールとそいつを連れて行け!」
「……ワカッタ」
「ハンクさん!」
 この場に残りたいシャールはハンクの名を叫んだが、一瞬して霧に包まれてしまう。
 小柄の男も気づくが、焦っている様子はない。
「おまえたち、バカなの? リンクしてるって言ってんじゃん。すぐわかる」
「そうだろうか……」とマックス(仮名)が煽る。
「なに?」
「居場所を突き止めても、自ら追えない場所があるだろう? それにのオーレン(仮名)は失神中だ。意識がない時はリンクできない。肉体の乗っ取りでもしないかぎり。だが、それをすれば、自分の肉体は無防備だ。今ここで追いかけたところで、おまえの空になった肉体を捕らえる。そして戻れないようにしてやる」
「……くっ。知ったような口をききやがって。ムカつくな、おまえ。やっちゃうか?」
「私闘は罪だ。俺はしない。無抵抗だ」
「耐えられるのか?」
「どうだろう? やってみる?」
「な、なに?」
「……な~んてね。はい、ここまで。終わり」
「はあ? ふざけてんのか、きさま!」
 小柄の男の怒りが爆発するが、それを大柄の男が取り押さえる。
「そこまでだ。やられた」
「は?」
「いまので」
「なにが?」
 自分がついうっかりやらかしてしまったことに気づいていないようだ。
 マックス(仮名)は鼻で軽く笑う。
「熱くなったらダメだって知らなかった? 冷静さに欠けていると、自滅しちゃうよ? キミは人間界には行けない。つまり、リンクをしても人間界までは追えない。今回の件、オーレン(仮名)を通してすべてを見知っているようなことを言っていたけど、彼が人間界にいた時のことは知らない。知っているのは、彼の幻覚の中での出来事だけ。それも、オーレン(仮名)の視点でしか見られない。シャールをはじめて見たような口振りは演技かと思ったけど、あれは素だ。ではなぜライザ少尉のことは知っていたのか。オーレン(仮名)が彼女のことだけはしっかりと見ていた。つまり、気に入ったとか、気になるということだね。まあ、グラマーな体型だから、男なら視線がいっちゃうのもわかるけど、それが仇となった感じかな。そっちの、おっきい方もオーレン(仮名)とリンクしているのかな? いや、単純に気配を追える程度か。気絶している彼を追うのは大変だけど。でも、追えなくなった。つまり、追えない場所に向かったってことだ。どうだ。大正解だろう?」
 この状況の中で嬉しがるマックス(仮名)。
 その姿が勘に触る。
 ふたりの侵入者は、悔しそうに唇を噛みしめた。

「しかし、今回はなんとかできたが、これが何度も通用するとは思えない。厄介ですね」
 アストレイ(仮名)は誰に問いかけるわけでもなく、ひとりごちた。
「ま、そん時はそん時ってことで。その面倒なふたり、どうするつもり、アストレイ(仮名)。片方は、知り合いっぽかったけど?」
 こんな状況でもお気軽な気持ちと態度は変わらない、マックス(仮名)。
 こうもブレないとむしろ清々しく感じ、尊敬に値するとおもうアストレイ(仮名)だった。
 そこに、ジェラルドがくわわる。
「彼らは本当に人間の世界に行けたのでしょうか?」
「どうだろう? ピエロくんの幻覚能力は群を抜いているからね。そう見せかけておいて、霧の幻覚の中に隠れているかもしれない」
 が、それはないと小柄の男が叫ぶ。
 であるならば、本当に人間の世界に行ったのだろう。
「こちらも戻りたいのですが、可能でしょうか?」
「問題ないよ。俺が同行する。でも、このままあの話を強行しようと考えているならやめておいた方がいい」
「……なぜ?」
「あ、するつもりだったんだ、軍曹殿は。あ、まあ。なにが起こるがわからないからっていうのが一番の理由。羊皮紙の契約はどこにいても通用する。それだけ縛りがあるから、生半可な気持ちでサインはしない。人間の世界までリンクできないのなら、それを補う契約が盛り込まれていると考えた方がいい。それがどういうことなのかは、まあ、彼らに聞くのがいいけど、あっさりしゃべってくれそうには、ないよね?」
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