ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
目次

来訪者

 吸血鬼は自殺をしても死ねないため、舌を噛みきろうとしても問題はない。
 だが、その光景をほかの組織の者に晒すわけにはいかないのだ。
 すぐさま布切れを口の中に突っ込まれたオーレン(仮名)は、そのまま失神をしてしまう。
「マズイ、デス。コレ、カレノ、イシ、デハナイ」
「は? どういうこと?」
 ピエロくんがなにを言いたいのかをすぐに察したのは、アストレイ(仮名)で、彼が代わりに説明をする。
「羊皮紙の契約ですね。オーレン(仮名)と交わした契約以外の事柄を入れられていたのでしょう。本人の知らないところで」
「まさか! だって、自分の血でサインをしなきゃならない。その時に読むし」
「隠し文字。隠しインクのようなものを使用して、あることをしないとその文字は目に見えない。というようなカラクリでは?」
「……なっ……。そんなモノ、存在するっていうのか?」
「我々は一枚岩ではない。知らないことの方が多い。そもそも、群れない、単独。それゆえ、歴史が長くても知らないことの方が多い。我々が知らないだけで実現化していたのかもしれない。とにかく、この状態では引き渡せません。医療班に委ねる……」
 と言い掛けたところで、アストレイ(仮名)の語尾がかすれる。
 シャールたちにとっては、はじめて見る顔の人物が柵の向こう側に立っていた。
 その者は背が高く、岩のような体格がひとりと、小柄で細い、一瞬女性かと思ったほど女性的な風貌の男性のふたり。
 一見、女性顔の方が温厚そうに見えるが、たぶん違う。
 小柄の男性の方が岩の体格の大柄な男よりも圧倒的に強い。
 見た目とかもしだすオーラがミスマッチで、そこにいるだけで震えるくらいの恐怖があった。
 おそらく、オーレン(仮名)が恐れているのは彼の存在だろう。

「やあ。うちの下っ端が迷惑をかけたね。引き取りにきたよ」と、小柄の男性。
 綺麗な顔をしているのに、野太い声だある。
「ぼくじゃ担げないから、連れの同席くらい、許可してくれるよね、アストレイ(仮名)。ふっ……アストレイ(仮名)って名乗っているんだ。で、そっちはマックス(仮名)。ふ~ん。弱い奴ほど名前を隠すよね。別にさ、実名を口にしちゃダメとか、迷信だろ? 僕はね……」
 と言い掛けたところで大柄の男が手で口を塞いだ。
「余計なことをいうな。用件の主旨は伝えた。連れ帰るぞ」
 と言いながら、中に入ろうとする。
 それをアストレイ(仮名)が阻んだ。
「ん~? なにをしているのかな、アストレイ(仮名)は。ぼくとやりあうのかな?」
「しませんよ、そんなこと。約束までまだ時間がありますが? 破るのですか?」
「ああ、約束。それをしたのはぼくじゃなくて、ボスね。ボスもね、ちょっと、やることぬるいよね。失敗しちゃった子にはお仕置きしなきゃダメじゃん。って、あれあれ? 拘束されちゃってんの、こいつ。ばっかだね。ほんと、弱っちいな、おまえ。で? これからなにすんの? 拷問? だったら見学していい? それとも、一緒にやっちゃっていいかな?」
「……相変わらずだな、キミは」
「そういうおまえもな。いい子ちゃんすぎて、反吐がでる」
 一触即発、どちらかが気を抜けば打撃を受けるのは必須。
 という雰囲気になる。
 しかし。
「やめてください! 今はそんなことをしている場合ではありません!」
 場の雰囲気に疎いのか、それともわかっていて止めに入ったのか、シャールの勇気、いや無謀な行動に、マックス(仮名)は軽く口笛、ハンクは肝を冷やしたという安堵の吐息。
 なぜふたりがそのような反応を示したのか。
 シャールの横やりに、意外にも小柄な男が戦闘モードを解いたからだった。
「人間じゃん。なんでいんの? ねえ、なんで? 食用? ……なわけないか。けど、かわいいね。観賞用に一体、こっちも持ち帰りたいくらいだよ」
 と、言っていることは人道に反しているが、シャールのことを気に入ったようだ。
「キミは、またそういうことを。過去の失敗に学ばない男だな」
 アストレイ(仮名)はまるで汚物を見るような視線を送る。
「一応、学んでるよ? その件で、二度と人間の世界にはいけない刑罰になって、続いてるし。もうかれこれ二百? 二百五十? それくらい。人生の三分の二くらい」
「そうですか。キミなりに学んでこの程度ですか。そんなに人間の女性を見たければ、協力をしていただきたいものですね」
「ああ……あの、グラマーな姉ちゃん? ああいうのは、好みじゃないんだよな。完成されちゃっているのは、つまらないし。真っ白でなにも知らなさそうな人間の女を従順な奴隷や観賞用に躾ていく過程が楽しいんだよ。わからないかな」
「……わかりたくもないですね。で、なぜ協力としかいっていないのに、不明の方の容姿を知っている?」
「そりゃ、そこに転がっているヤツとリンクしてっからに決まってんじゃん」
「リンク? まさか!」
「勘がいいじゃん。たぶん、それね。クソみたいな思考だけどさ、結構従順にこっちの指示に従ってくれていて。楽しませてもらったよ。だけど、人間界に逃げちゃうっていうのは、ダメでしょ。だから、引き取りにきたわけ」
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。