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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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最悪の展開

「そうなんですか!」
「まあね。でも、今回はオーレン(仮名)の霧なんだから、オーレン(仮名)がするのが筋じゃないか?」
 そういうことなら……と、アストレイ(仮名)が、
「では、引き渡し拒否の理由として、オーレン(仮名)の霧により不明になっている人間の救出は絶対である。ちょうど、軍曹殿もいらしていることですし、説得力はあるでしょう」
 こうして、引き渡し拒否のカードが揃う。
 以下、双方が出した条件である。

 オーレン(仮名)→人間側 という書き方とする。

1、人間の世界で事件を起こした詳細は語りたくない → 人間の世界で主犯として罪を償う
2、組織と縁を切りたい → 人間の世界で人間として生きていくのであれば保護する


 人間の世界で人間として生きていくための条件。

・容姿を変えること
・吸血鬼としての記憶の削除、人間として必要な常識の記憶の書き換え
・吸血行為をしないこと
・吸血行為をしないよう療法を受けること
・クロード少佐の回復に誠心誠意尽力、協力的であること


 というような取り決めが羊皮紙に記されていった。

「しかし、これではあなた方は納得しないのではないですか?」
 とジェラルドはアストレイ(仮名)に訪ねる。
「たしかに、そうなのですが」
 とアストレイ(仮名)は神妙な表情になる。
「こちらとしても、無関係の人を巻き込んでの今回の惨事は、知れ渡っています。過激思考の方もいますが、ほぼそうではありません。それでも、見せしめを望む声もあり、できれば犯人が誰で、目的がなんだったのかを明らかにしたいです。けれど、こちらでそれをしてしまうと、人間の方は未解決事件となってしまいますよね? であるならば、こちらは犯人を人間に引き渡したということにした方が、論争回避になります。こちらは人間がいて、特別な力をもつ種族がいることを知っていますが、あなたがたそうではないでしょう? 犯人は吸血鬼で、一族の方に委ねましたと説明をして、納得を得られますか?」
「それは……」
 自身が信じられないままでいたいい見本だ。
 まだ内輪ごとであったが、事件解決の報告は国中に広まっていく。
 空想的なことをいえば、擬神兵を匿っている、擁護していると野次られるのがオチだろう。
 擬神兵の存在はよく思われていない。
 今はおとなしくしている擬神兵も、殺意を向けられたらなにをするかわからない。
 そういった危険性は避けたい。
「本当に、その通りです。なにせ、私がそのひとりでしたから。わかりました。そういうことで、お願いいたします」

 が、そう上手く事は進まないのが常である。

※※※

「マズイ、コトニ、ナッタ……」
 話がまとまり、次の段階に進もうとしていたところに、ピエロくんが姿を現す。
 彼はクロードの治療チームのサポートをかって出てくれていた。
 幻覚の能力は折りかがみつきであるし、多少、治療的な知識もあったからだ。
 その彼が尋問しているところにやってくる。
 つまり、本当に緊急事態ということだ。
「少佐になにかあったんですか?」
 思わずシャールの声が甲高く、かつ急かすように響いた。
 同時に、ハンクもジェラルドも同じ事を思ったようで、口々にそれに似たような訪ね方をしている。
 さらに、マックス(仮名)やアストレイ(仮名)も。
 オーレン(仮名)は別の意味で真っ青な顔で俯いた。
 クロードの様態が悪化したと思ったからではない。
 彼にはわかったのだ。
 ピエロくんが全部を言う前に、「まずいこと」の理由が。
「チガイ、マス。ショウサハ、ゲンジョウイジ、デス。キマシタ。カレノソシキ」
「え? オーレン(仮名)の組織の人が来たの?」
 と素っ頓狂な声をあげたのはマックス(仮名)。
「やはり、こうなってしまいますか……」
 だいたいの予測はしていたのか、アストレイ(仮名)は「面倒だ」という表情になる。
 そしてオーレン(仮名)を見て、
「契約違反、しましたね?」
 と、羊皮紙を指した。
 違反とは、オーレン(仮名)が組織内で交わした契約のことだ。
「し、知らない!」
「でも、誰もが少佐のことを案じたのに、あなたは別のことで震えていた。引き渡したくないといいながら、違反をする。目的はなに?」
 静かな口調でも、怒りが伝わってくる。
 このままオーレン(仮名)を連れられてしまえば、人間との関係に暗雲が立ちこめるのは必須。
 どうにかして穏便に。
 その落としどころが、この交換条件の内容だった。
「ほ、本当に、知らないんだ!」
 嘘を言うな……! と、ハンクがオーレン(仮名)につかみかかろうとする。
 それを阻止したのは、ジェラルドではなくマックス(仮名)だった。
「ちょっと待った! 待った待った。たぶん、こいつは嘘を言っていない。本当に知らないんだ。なのに、まずいことの意味が少佐ではなく、自分の組織の誰かが来たと感じたのは、今までの経験。刷り込まれた恐怖からとかじゃない?」
 オーレン(仮名)はマックス(仮名)の仮説に縋るような視線を向ける。
 しかし、近づいてくる足音に、恐怖の悲鳴、声にならない悲鳴をあげ、白目を向き始める。
「ヤバっ! おい、誰か、口に入れるものを! 布か猿ぐつわ! 早く!」
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