ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
目次

少佐の現状

「いいんだよ。それに、ケインをとっつかまえることができないまま、狂いたくはないだろう?」
 それはその通りなのだが。
「あの。私からもお願いします。完成したら、ハンクさんにも……」
 シャールが自身の思いとして縋る。
 ハンクは……
「期待はせずに待ってみる」
 とだけ、小声で呟いた。
 みな、その言葉を聞き、わずかに微笑んだのだった。

「で、話を戻すけどさ、アストレイ(仮名)。薬物拷問はやっぱ反対。でも、それが手っ取り早いっていうのも理解している。だからさ、このことをジェラルド軍曹と共有した方がいい。人間の方にだって、死者が出て、事件と事故として捜査が入っている以上、筋は通さないと。ケインの件は、もともと人間の方で追っていたのだし。こちらは出遅れてるわけだし。つまり、捜査をしている人と共有するっていうなら、薬物拷問は黙認する。俺は聞いていなかった。知らなかった。で、通す。口出しもしない。結構いい交換条件だと思うけどね」

※※※

「意外でした」
 シャールは再び惨事現場となった汽車の車両内に戻ってきた。
 ハンクとマックス(仮名)と、そしてキツネくんと。
 少佐は危険な状態のため、あちら側で診てもらうことになり、アストレイ(仮名)に預けてきた。
 マックス(仮名)の交換条件に最初は反対していたアストレイ(仮名)だが、ほかの組織の幹部と話し合い、聞き入れる方向で合意をした。
 やはり、薬物拷問をよしとしない意見も少なからずでたことでの、双方の落としどころとしていいのではないか……とのことだった。
 だが、自分たちの存在が軍に知られてしまうのをよしとしない気持ちもある。
 事件解決の際は、記憶の操作をさせてもらう条件が足された。
「もともとアストレイ(仮名)は物わかりがよく、他人の意見も尊重するタイプなんだけどね。代表不在で、自分が責任を背負うことに神経質になっているんだと思うんだ。なにも代表不在中に、こんな事件が起きるなんてね」
「マックス(仮名)さんの組織の代表はなぜ不在なんですか?」
「もともと放浪癖のある自由な人だからね。外の世界に興味津々で、今のどこかを旅していると思うよ。本当はさ、そういうのが俺の仕事でもあるんだけど、自分の目で見て耳で聞いたことが真実だと思ってる人だから。それをわかっていて代表をお願いして、不在中はアストレイ(仮名)が代理をするってことで、あの組織はそれで結構上手くやっている」
「そういうの、信頼とか絆って言うんでしょうね」
「そうかもしれないね。さてと、俺たちはこれからジェラルド軍曹と会うわけだけど。どういう方向でいこうか」
「どうとは? たぶん、すぐに会えると思いますよ?」
「ん~、そうなんだけどね。ストレートに話して信じてくれそうなのかな?」
 マックス(仮名)が言うと、それに対しハンクが「それはないな」と即答だった。
「でしょう? だから、どういう方向で行くのが一番いいの? 教えてよ」
「それは……」
 シャールの言葉は歯切れが悪い。
 たぶん、ハンクに聞いたとしても同じだろう。
「こういう時、本当にライザ少尉の偉大さを痛感するよ」
 たしかに……と、場にいた全員が一斉に頷く。
 こんなことで意見が一致しても、なんの解決にもならない。
 そこで消去法で決めることになった。
 まず、言葉がいまいちなキツネくんは除外。
 ハンクでは説明不足になりそう。
 マックス(仮名)は逃亡しているため、オーレン(仮名)がなりすましていた間の記憶とのすり寄せができていないので、ポロが出そうと言うことで除外。
 結局、シャールが一番まともそうということで決定した。

※※※

 きつけ薬的なものをピエロくんに手渡されていた彼らは、それを霧の中に混ぜて辺りに漂わせた。
 それをキツネくんとマックス(仮名)がやっている間にシャールとハンクがジェラルドのところに向かい、作戦報告をするという流れだ。
 作戦本部があるテントからは、ジェラルドの怒号が響いている。
 心身共に鍛えられた軍人で、その経験も豊富な彼が、易々と幻覚に翻弄され続けていると思っていたことを悔いる。
 おそらく、自力で幻覚から目覚めたのだろう。
「これは使えるな」とハンク。
「どういうことですか?」とシャール。
「作戦本部が混乱している今がチャンスだ。俺たちが汽車から戻って来ている経緯を問いつめられることはあまりないだろう。むしろ、失敗だと思っているのかもしれん。ジェラルド軍曹に打ち明けるのは、少佐を保護したこと、ライザが不明になっていること。会わせたい人がいることの三つだ」
「わかっています」
「よし。少し慌てた感じで入るぞ」
「はい……!」

 テントの中から「報告をしろ! どうなっている? 誰かいないか!」とジェラルドの怒号が止まらない。
 中にはジェラルド以外の兵士もいるが、幻覚から目覚めたばかりの彼らに事態の報告を求めるのは酷というものだろう。
 そこに。
「ジェラルド軍曹さん。大変です!」
 と、シャールが飛び込む。
「シャールさん? どうされました? 今は作戦中……ひとりですか? ハンクは? ライザ少尉は?」
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。