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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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いざ…

「報告、ご苦労。持ち場に戻りたまえ」
 ジェラルドはそれだけをいい、兵士を下がらせ、そして打ち合わせをしていた隊員などもいったん下がらせた。
 そして残ったのはライザとジェラルドだけになる。

「よくぞ、ご無事で。捜索をした者からは発見に至らなかったと受けている」
 ライザは打ち合わせ通りの筋書きでジェラルドにことの経緯を説明した。
「そうなりますと、ハンクとシャールの行方がわからなくなったということですね。汽車を停車させた目的はシャールとハンクという線が濃厚になりましたな」
 その見解に、ライザはなにも反応をしなかった。
「実は、こうも失態続き。後手後手になりすぎているので、いったん仕切り直しをするのも策かと意見交換をしていたところです。本来であれば、少尉の診察などを優先したいところですが、正直、その時間も惜しいのです。私か少尉、どちらかが後退をして本部に説明、部隊の追加派遣の申請をしたいと考えております。いかがでしょう?」
 ライザは考えた。
 ジェラルドが留守となれば、ほぼ手薄といってもいい。
 ライザの姿が再び消えれば、それはそれで騒ぎにはなるが指揮官クラスが不在の中で、適切な行動がとれるとは思えない。
 となれば、投与等の手間も省けるのではないか……と。
「ライザ少尉? どこかご気分でも悪いのでしょうか? となると、私かあなたのどちらかがという方法は考え直さなくてはなりませんが」
「……ごめんなさい。少し、考えさせて……という時間もないのかしら?」
「そうですね。少佐のこともありますので、早くに決断したいのですが」
「そうですか。私は少佐の配下ではありませんし、どちらかといえば単独行動ですし、意見できる立場ではないと思っています。私はジェラルド軍曹の決断に従います」
 ジェラルドは派遣要請する方がいいと判断をした。
 すぐにでも出立したく、あとのことは頼む……
 そんな流れのところまできたところで、展開がかわる。

「ジェラルド軍曹殿。鉄道会社の方から連絡が入っております」
 連絡の内容は、いつまでもそこに汽車が止まったままだと、その区間が運休になる。
 それはとても困る。
 これ以上、引き延ばさないでほしいという注文に加え、気色悪い植物の撤去をすぐにでも行ってほしいとの要望だった。
 行方不明者がでていることから、汽車の撤収は難しいとだけ強く押し切り、それ以外はどうにかして対処をしなくてはならない流れになる。
 ジェラルドは後退を一時保留にし、とりあえず蔦の処理だけはするということになった。
 そうなるとライザとしても投与しなくてはならない。
 その蔦をどうにかされては困るからだ。
 蔦の中がオーレン(仮名)の幻覚の世界になっているだろうという見解のもとで、自分たちは作戦をたてた。
 蔦を処分されるということは、少佐の救出を諦めなくてはならない。
 説明をすれば済むのだろうが、こんな話を彼が聞き入れてくれるとは到底思えなかった。
「あ~あ。もうなんでこう面倒くさい展開になるかな」
 ライザは針の先に霧の水を付け、手当たりしだい、刺しまくった。

※※※

「じゃあ、行こうか」
 マックス(仮名)が合図すると、ピエロくんが呪文のようなものを唱えはじめる。

 その少し前のこと。
 やることを終えて戻ったライザの口から、軍の傾向を聞いた彼らは血の気が引いたような顔をして、ジッとライザのことを見入った。
「軍は少佐を殺す気なの?」とマックス(仮名)は呆れた声色で叫んだ。
「しょうがないわよ。ジェラルド軍曹は、私たちが幻影を見てその中にいたって話してもほとんど信じてなかったわよ。口を揃えてたばかろうとしているんだとくらいにしか思ってないわね。気が触れた人への対処その1、無闇に否定しない。これを思いだし実行しましたって感じにしか見えないから」
「そういう人っているね。じゃあ、説明や説得は無理ってことで。でもそうなると時間は限られている。軍曹が幻覚から抜け出てしまったら終わりだから、急ごう」

 こうして彼らは蔦の中にあるとされているオーレン(仮名)の幻覚の中に突入することになった。

※※※

 ピエロくんの呪文が終わるとぱっくりと蔦の太い箇所に穴があく。
 その先は真っ暗で、おそらくどこまでも落ちていくような感覚になるかもしれないと言われ、バラバラにならないよう体をローブで繋ぐことにする。
 先頭はピエロくん。
 続いてキツネくん、ジェラルドのお面くんが繋がり、ライザ、シャール、ハンク、そしてマックス(仮名)がしんがりとなって突入をした。
 ちなみに、アストレイ(仮名)は代理までも席をあけるわけにはいかないと、人間界にまではついては来なかった。
 
 中に入ると、確かに下に引っ張られる感覚がする。
「これってオーレン(仮名)の幻覚?」とマックス(仮名)が聞く。
 ヒエロくんはそうだと合図を出すように手を挙げ親指を立てた。
 暗くどこまでも落ちていくような感覚はオーレン(仮名)の心境そのものだとマックス(仮名)は思ったのだった。
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