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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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脳と霧と幻覚と

 それは姿を見せない一族の面々に向けられていた。
 そして彼らは「無」で返す。
「よろしい。では開始いたします。さきほど、オーレン(仮名)の件に対し、抗議をさせていただいたところ、早々に返答をいただきました。返答内容はこうです。

 鍵は手に入れた。ケインのしっぽを掴むのも時間の問題。我々の勝利である。保守派共の腰抜け。

 というものでした。明らかに我々への敵対心むき出しで、まるで子供の喧嘩内容です。普段であれば無視してもいいのですが、この方々よりオーレン(仮名)が人間界でしたことを聞き、捨ててはおけないと判断し共有いたしました。鍵は行方不明となっているクロード・ウィザース少佐のことでしょう。時間の問題というのはなりふり構っていられるか、といいたいのでしょう。ケインを捕まえるためなら少佐にどんなことでもしそうであると考えられます。また、人間を無理矢理吸血鬼化しているという報告も得ました。それがケインによるものなのか、一族のものなのかは判断できませんが、オーレン(仮名)の行動は常識を逸脱しすぎており、それに対しての抗議への回答がこれですからね。オーレン(仮名)のしていることは容認、もしくは指示を出しているのでしょう」
 姿を見せない面々の反応はもう期待はしていない。
 もともと無反応であるならば肯定であると認識するという前提で話がされているからだ。
 ライザとハンク、そしてシャールが無言でいるのは、言葉にならない感情がふつふつとこみ上げていたからだろう。
 なりふり構っていられない、勝つためなら手段は選ばない。
 それが結果的には最小限の犠牲で済むという考え方もあるからだ。
 げんに、先の戦争では擬神兵というものを投入した実例がある。
 その辺は人もそうでない種族も同じなのだろう。
 だからこそ、それをしたことによる結果は目に見えている。
 決して英雄とは言われない。
 功績をあげてもそれを称え歓迎する者はいないということだ。
 オーレン(仮名)がこのまま突っ走ってしまえば結果は見えている。
 今でこそ一部の派閥には英雄的な存在なのかもしれない。
 だけど今が終われば厄介者扱いされるのがオチである。
「えっと……」
 無言が続く中、ライザが声を絞り出す。
「あの、どう言えばいいのかわからないんだけど」
「わかりますよ、ライザ少尉」
「そう言っていただけると助かります。さきに無礼を謝罪させてください。そちらの方々を非難せずに訪ねられる自信がありませんので」
「構いませんよ。それはこちらも同じかと思います。どうしてケインのような能力の擬神兵を作れたのか。それの開示がなければ、誰かが我々一族の……その、まあ、なにかを得て作り出したと。その犯人を突き出せと。感情に流されながらあなた方を責めるかもしれない」
 言葉を濁してくれてはいるが、それでもかなり責められている感はある。
「なりふり構っていられない状況であると。オーレン(仮名)という人物は鍵であるとされている少佐にどんなことをすると思いますか?」
「それは彼を知る人物。マックス(仮名)に聞くのがいいでしょう。マックス(仮名)、もう隠す必要はありませんので、知る限りの情報を聞かせてあげなさい」
 アストレイ(仮名)が言うと、マックス(仮名)は「面倒なことは全部俺かよ」とふてくされる。
 それでも話してくれるらしい。
「重複するかもだけど」
「構わないわ」
「蔦の化け物を基準に説明するとだな。あれが倍、いや三倍くらいのことをやらかすって感じだな」
「はあ? なに、その例え。わからないわよ。もっとわかるように言いなさいよ」
「いや、だって。あれの三倍っていったら、スッゲェーて思わない?」
「……思うけど。抽象過ぎて非現実的」
「わかったよ。ホント、面倒なことは全部俺だよ。いいか、あいつは植物に関しては特出した知識と力を持っている。俺が作り出した幻影や幻聴に割り込んでくるくらいだからな。あんたたちが体験したあれらは俺があんたたちを調べ映像化したものだ。ライザ少尉はシャール嬢に便乗したかたちだったのは、俺が少尉のことを想定内にいれていなかったからだ。だが運良くシャールと同じ本を知っていたことで同調できた。だが、そこで想定内のことが起きているはずだ」
「幻影……正しくは幻覚の中から出られなかったこと? あの物語の通りに進むはずが進まなくなった」
「そう。シャールの思い出と同調することを決めたあなた方を俺は物語に沿いながら幻覚から解放させようとした。だが、あいつ、オーレン(仮名)の横やりで、少佐があっさり引っかかり横からかっさわれてしまったんだよ。それを追いかけるハンクって展開もやばかった。で、セイレーンを登場させた。どうにかしてハンクをシャールと合流させる必要があった。それは上手くいったが、それに手をかけてことで少佐のことをあきらめるしかなくなってしまった」
「ひとつ、彼、マックス(仮名)の名誉のために口添えをさせてもらってもいいだろうか」とアストレイ(仮名)。
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