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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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蔦の正体

「そう焦らないで。次の質問は蔦でOK?」
 マックス(仮名)にそう聞かれたライザは「そうね」と言う。
 だがシャールが「待って」と次の展開に行くことを遮った。
「シャール?」
 ライザはまさかのシャールからの待ったに小さく小首を傾げた。
 この流れで蔦にいくのは自然な流れのはず。
 どこにまだ疑問が残っていたのだろうか。
「ごめんなさい、ライザさん。霧のこと、もう少し聞きたいと思って」
「疑問は解決しなきゃいけないことよ、シャール。ん~、そうね。私やハンクだけが納得すればいいというわけじゃないわね。なに?」
 ライザがシャールに主導権を一時的に委ねようと、彼女の疑問を聞く雰囲気を作っていく。
 そこにマックス(仮名)も参加してきた。
「どんどん聞いてくれていいよ。遠慮はなしだよ、お嬢さん」
 その言い方がとてもチャラい。
 胡散臭いとか軽々しいとか、表現の仕方は様々あるが、たぶん、彼以外はこう思っただろう……「女の敵ってこういう奴のこと、言うんだろうな」と。
 当然、三人とももの凄く嫌なものを見るような視線でマックス(仮名)を見た。
 見られたマックス(仮名)はなぜそんな視線を向けられるのか、まったく理解できないままだった。
「あの……」
 とシャールが変な空気になったところに声を発する。
 するとマックス(仮名)は彼女の話を聞こうと耳を傾け、ライザとハンクは黙って様子を傍観する姿勢を保つ。
 シャールは周りが自分にあわせてくれようとしていることに感謝しながら、聞きたいことを頭の中で整理をする。
 だけどどういう聞き方をしても最終的にはマックス(仮名)を責めるような聞き方になってしまう。
 それならば直球で聞くのがいいだろう。
 ドキドキとする鼓動をできるだけ静めながら……
「あの、記憶の中をのぞく、のですよね?」
「ん、そうだね」とマックス(仮名)。
「ピンポイントで戦争に繋がる記憶を覗くことってできるんですか?」
「ん?」
「えっと……ライザさんたちなら間接的に情報を得たりしてそこの記憶を覗くことは可能だと思います。でも、私の場合は……」
「ああ、そうか。きみとは直接的な接点はないからね。そういう疑問は当然だよね。でも、きみはもう答えを知っているんじゃないの?」
「……え?」
 まさかの展開にシャールがキョトンとしてしまうと、ライザは「どうこうことよ!」とまた声を上げる。
 ハンクも何かに気づいたようで考え込むような表情をした。
「おやおやおや? これは、え? もしかして、そこも説明必要?」
 マックス(仮名)は茶化すような態度と口調で煽ってくる。
 ライザはその煽りに乗せられそうになったが、寸前のところでシャールの遮られ不発に終わる。
「それには及びません。そうですね。質問ではなく確認したいと言えばよかったのかもしれませんね」
 シャールが仕切り直す。
「そうそう、そういう流れがいいね。で、考えはまとまった?」
「はい。マックス(仮名)さんの一族が持つ能力は、一族であれば当然のように備わっている能力と、個々で違う能力があるのでしたら、自在に歳格好を変えたり、一応は人と同じように成長していけるような能力の人もいるのではないでしょうか?」
「うん、そうだね。俺も一応姿を変えることはできるけど、男性であること、またこの年齢に近いことが前提でね。女性や子供、老人には慣れない。もちろん、体型が極端に離れているのもね。でも、そういうの関係なく変化できてしまう者もいれば、お嬢さんの言うように人と同じ早さで年老いていく者もいる。ま、年老いても自分の意志で本来の年齢と姿にも戻れるのだけどね。それで、どう考えたのかな?」
「父は身よりのない子供を引き取り面倒を見ていました。その中にいたのではないでしょうか。その能力を使い、人の中に紛れていた人が。私はそうとは知らずに小さい子だから守らなきゃと読み聞かせしたりして……」
 マックス(仮名)は肯定も否定もしなかった。
 なにも言わないということは肯定したということである。
「あ、それでいいです、マックス(仮名)さん」
「そう? じゃあ、蔦でいい?」
「はい。質問の権限はライザさんにお返しします」
 シャールがライザにそう伝えると、ライザは「じゃあ話して」とマックス(仮名)を急かした。

※※※

「了解。俺たち一族は使役ができるんだ」
「使役?」
「人間の世界でいうたとえとなると難しいんだけどさ。でも人だって馬や犬なんかを躾たりするし、馬に乗って移動もするし、犬の嗅覚に頼ったりするでしょ? それをもっと自分の分身的な身近な存在として扱える主って感じかな。こんな説明でわかった?」
 三人はほぼ似たようなニュアンスの返事をした。
 つまり「なんとなくわかったような、わかっていないような」というような返し。
 それはマックス(仮名)にとっても想定内の反応だったようで、「ま、当然の反応かな」と対してガッカリもしていない。
 もともと期待もしていなかったのだろう。
「じゃあ、細かく説明するだけ時間の無駄だから、とても優秀な調教師の俺ととても利口な馬や犬の関係を想像していてよ。利口の定義は動物も人間の言葉や思考をほぼ正しく理解できるくらいの利口さね」

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