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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
目次

霧の正体

「あいつって?」とライザ。
 さらにライザはマックス(仮名)に質問を投げかける。
「霧はあなたのせいなのね? もしかして幻影も? 蔦は? 汽車を止める必要あった?」
「ちょっとライザ少尉。質問多すぎ」
 マックス(仮名)は苦笑いを浮かべた。
「ちょっと、ニヤけないで話なさい!」
 ライザはイラッとする感情を抑えてはいるが、それでも口調がきつくなっている。
 四人の中で一番余裕がないのが、ライザだった。
「そんなにカリカリしないでくださいよ、ライザ少尉。話さないとは言ってませんよ? ま、全部に答えるかはあなたの態度次第ですけどね」
「あのね……」
 仮にもライザの方が地位は上である。
 目的のために潜入していたとはいえ、属していたのなら少しは上司をたてろ……ライザは言ってやりたい感情を必死にこらえていた。
 普段なら蹴りのひとつでも入れてやればいい。
 しかし、今はそれをしている場合ではないことくらい、ライザには十分理解できていた。
 ここは相手の、マックス(仮名)の機嫌を損なわずに聞き出せるだけの情報を聞き出すのが最優先である。
「さて、仕切り直しといきましょうか、ライザ少尉」
 マックス(仮名)は相変わらずニヤニヤした顔を変えない。
 ライザが自分の言いなりにならなくてはいけない状況であることを知っているからだ。
 それをハンクが宥める。
「それくらいにしておけ。そっちも、こちらの手助けが必要なんだろう? 俺たちはおまえから情報を聞き出し、そして俺たちは力を貸す。対等の立場だ。それでいいだろう?」
「まあ、そうですね」
 ハンクに言われたのち、マックス(仮名)はニヤニヤした表情から一変、真顔へと戻した。
 戻したといっても、素がそれほど生真面目な演出を好むわけではないためか、ヘラヘラ感はどこからともなく漂っていた。
「じゃあ、大真面目にここから仕切り直しってことで。それで? 質問はひとつずつ、お願いしたいものですけどね」
 マックス(仮名)としては、そこだけは譲れないらしい。
「わかったわ。ひとつずつね。まずひとつめ。霧はあなたが操っていたの?」
「そうですね」
「なんのために?」
「え? 霧の性質とか機能とか、知りたくないんですか?」
「……え?」
「いやですね、ライザ少尉。大事なのは、霧でなにができるか……だと思いません?」
「そうなの? だったら聞かせなさい」
「あ、また命令口調。俺たちは対等、でしたよね?」
 と、マックス(仮名)はハンクを見た。
 ハンクが頷くと、ライザは面倒くさいわ……という顔をしてから、
「すみませんでしたね。聞かせてください。マックス(仮名)さん。で、よろしいでしょうか?」
「ぷっ……そこまでしなくてもいいんだけどね。本当に面白いよね、ライザ少尉って。知ってましたか? 俺たちの中でライザ少尉は女性というよりも、なんていうか別次元のネタで楽しませてもらっていたんですよ」
「ちょっ、あのね。そういう話は、いま、関係ないでしょう? とっとと話なさい」
「はいはい。まあざっくりとですけど、俺たち一族が自在に操れるのがコウモリと霧なんですよ。ほかは個人の能力で、俺の場合は姿を変えられる程度ですかね。霧は目隠しにもなり、また人を惑わすことにも使います。今回、あなた方が幻影を見たように。とはいえ、その人のことを知らないと騙せるくらいの幻影は見せられないので、今回の件は協力者がいたからできたことです。てことで納得できています?」
「つまり、医学的に私たちが中毒症状になっていたのは、蔦絡みではなく霧が関係していたと?」
「ま、そういうことです。霧ってなにでできるか知ってますか?」
「水蒸気でしょ? なんらかの減少と条件が揃うと霧になるくらいは知っているわ」
「正解です。条件が揃うと水蒸気が小さな水の粒になって宙に浮いている状態です。そこで呼吸をすれば吸い込んで体内に入りますよね。俺たちは人工的に霧を作り出せるのは、一族ならわでの特殊体質というか。だから普通の人間が吸い込めば中毒症状になることもあるってことです。今回は幻影を見させるために、こなり濃くしましたので。そうですね。中毒になるだろうくらいは想定内でした」
「ちょっ、酷っ!」
「だからってなにかがあるってわけじゃないですよ。人間だって薬を飲めば副作用がでる。その類と思ってください」
「で、その霧を使って汽車を制止させたのは?」
「霧が出るのは減少として不思議ではなく、走行している汽車を制止させるのも自然なことと思ったんですよね。で、霧の水蒸気を吸って意識朦朧としているところでシャール嬢にご協力いただこうかと。彼女の記憶の中に潜り込み、ケインの情報だけを。でも、邪魔されましてね。あの蔦に」
「蔦?」
 マックス(仮名)の発言に、ライザとハンクの声が被った。
「どういうこと?」とライザ。
「どういうことだ?」とハンク。
 ふたりが揃って聞き返すのもタイミングは同じ。
 マックス(仮名)は「面白いな。息、ぴったりじゃん」と面白がったが、キッと睨むライザの眼光に背筋が凍ったような気がして、口を手で覆った。
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