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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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第3の男

 だが、ライザはそう言いたくはなかった。
「ライザさん。言ってください。この場合、軍隊ではどう動くのがいいとされているのですか? 私はそれに従います」
 ライザは黙ってシャールの顔を見る。
 彼女は冷静でこの状況下で乱れている感じはない。
 ならば、選択肢をふたつ提示しても問題はないだろう。
「そうね。今のあなたになら正直に話しても問題はなさそうね。こういう場合、もしあなたが軍人なら、任務遂行になるわ。ただ、ひとりをここに残し、ひとりが先行した兵士の様子を見に行く。あなたをここに残し、私がハンクの状況を確認し、その状況によってはふたりでここに戻ることもあるし、戻れないこともある。残されたあなたは私の戻りを待つか、時間を置いて私の後を追って任務遂行に尽力。もうひとつは、あなたが民間人の場合ね。まあ、民間人だから、私はあなたの保護と安全を最優先にし、一度ふたりで陣営まで撤退。そこで協力者とあなたを入れ替えてハンクの様子を確認、元々の任務遂行に着手。私はね、後者が正解だと思っている。でもね、今のあなたなら……ハンクなら、なぜ連れてきたと私を罵倒するでしょうけれど、それでも今のあなたなら。こういうことを言うと、前者を選んでと念押ししているみたいね。私の考えは気にしなくていいわ。私はあなたの選んだ方に協力する」
 ライザは思う。
 シャールの性格から推測するなら、彼女は前者を選ぶだろうと。
 そして案の定。
「私はこのまま任務遂行を希望します」
「シャール。いいの? なんて私が聞くのもおかしい話なんだけど」
「後退も大事でたぶん、それが正解なのはわかります。私ではハンクさんの危機の助けにはなりませんから。でも、ハンクさんの様子を見に行ってからの後退もあると思います。必要なら私を伝令係りとして使ってください」
「つまり、事態がよくない時はあなたを後退させるために私が援護するということね。わかったわ。それで行きましょう」
 ふたりが進む道を決めた時、再び車体が大きく揺れた。
「ちょっと、今度はなに?」とライザ。
 シャールは車窓をあけ、前方の車体の確認をした。
「ライザさん。蔦が動いてます! あと、誰かが車内から放り出されたみたいです」
「え? ちょっ、もうどうなっているの? 誰かって、うちの兵士? 任務放棄ってこと? もう、こうなったら自分の目で確認するしかないわね。行くわよ、シャール!」
「はいっ!」

※※※

 ライザとシャールがハンクのあとを追うことにした頃、ハンクに放り出された兵士は……

 ランプの明かりで信号を送り、それに返信をもらうことに成功していた。
 といっても、すぐに気付いてもらったわけではない。
 立ち止まって信号を送り続ける選択肢もあったが、待っているだけではどうにも
ならない。
 最悪、気付いてもらえなかったことも考えた彼は、少しずつでも進もうと努力をした結果、休むことなく信号を送ることはできなかった。
 返信をもらうと、すぐに人影が彼の方へと近づいていたことに気付く。
 肉眼で確認できるほどまで近づくと、衛生兵がひとり、片手に明かり、もう片方の手に護身用の銃を握って怪訝そうな視線を送っていた。
 が、すぐに兵士の様子がおかしいことに気づき、駆け寄る。
「どうして衛生兵のあなたが?」
 兵士は自分は負傷しているとは告げていない。
 ただ早急に軍曹に伝えたいことがあるとだけ送っていたのだった。
 そこに衛生兵が来たので驚く。
「作戦本部は人手がなく、手の空いている衛生兵がかり出されています。自分もそのひとりで……どうして負傷していると信号で言わなかったのです?」
「どうしてだろう、自分でもよくわかりません。ただ無意識に混乱させてはいけないと思ったのかもしれません」
「そうですか。ただ軍曹は無線で連絡が取れるはずなのに信号とは……と不思議がっていました」
「そうですか。あの、ことは急ぎますのでこれから言うことを軍曹に伝えに走り戻ってください」
「え? 負傷兵を置き去りなど、衛生兵としてできません」
「わかります。でも、報告を終えてから来てもらえれば十分ですから。自分はこうして命があるだけマシなのです」
 兵士はそう言って、ことの次第を簡単に説明、不明者のマックス(仮名)が出現した時の様子だけはしっかりと伝えた。
「わかりました。今、ヘンリエット曹長がひとりで残り対処をしているのですね。すぐに応援を向かわせてほしいことを伝えます。それまであなたはここでじっとしていてください。無理に動くと回復が遅れますから」
 衛生兵はここに来たときよりも早く駆けて戻っていく。
 霧はないが暗い荒れ地ではすぐに視界から消えるのだった。

※※※

 なんとかジェラルド軍曹にことの次第を伝えるとに成功した頃、蔦とひとり格闘していたハンクは、キリがない攻防に体力を少しずつ削られはじめていた。
「なかなか頑張るじゃないか、初代擬神兵隊の隊長さんは……」
 どこからともなく軽い口調が響いた。
「マックス(仮名)か?」
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