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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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霧からの脱出

 ふたりは感じたこと、体験したことの情報を交換し、ライザにも聞かせた。
 中立的な立場であるライザが導き出した答えは、
「肉体をなくし魂だけになった。信じてもらうために人の姿をして見せた。だけどそれは二カ所同時にはできないので、ハンクの方だけ。シャールの方は信じてもらえなかったらさっさとハンクを合流させてしまえばいいのよ。で、実際はそうなったわけだし。まあ、問題にするところはそこじゃないから、ここが生と死の狭間ってことよ! つまり、私たちは仮死状態ってことなの? ねえ、そのあたり、あの人はなんて言ってたの、シャール!」
「え、いえ、そこまでは……」
「あのね、シャール。幽体離脱なんて芸当はこの国の人の感覚にはないから。地か天の二択。幽霊とかそういうの、東洋の国のお家芸だから!」
「……つまり、ライザはビビっているんだろう?」
 直後、ライザの地雷を踏んでしまったハンクはヒステリックになる彼女の餌食となった。

※※※

「この霧、晴れそうにないわね」
 ライザが言うと、ハンクが「霧もそうだが」と置き去りにされていた件に振れ始めた。
「それは少佐のことですね」とシャールがいう。
「ああ、そうだ」
「私たちが生と死の狭間にいるのだから、少佐も同じということよね」
 ライザがふたりに同意を求める。
「どうだろうな。あいつはケインを見て追いかけていった。あいつがここにいるということは、やつも生と死の狭間にいるということだ。ベアトリスの件は納得できることも多々あるが、ケインはどうだろうな。あいつが死を実感するなんてことはないんじゃないかと思うが」
「それは、擬神兵セイレーンと同じに考えるからじゃない? 今の彼は計り知れない存在なわけだし、掴んでいないだけで死を自在に操れる擬神兵を作ったかもしれないじゃない。シャールのお父様の件だってあるし」
 一度、ハンクはシャールの父を殺している。
 その直後をシャールは目撃をし、そして死を確認、墓をたてている。
 それが一年振りに帰郷したら生き返っていた……と非現実的なことが起きていた。
 シャールの父は二度死んでいることになる。
「父のことは……」
「あ、ごめんシャール。つらいことを思い出させてしまったわね」
「いいえ、大丈夫です。父のあの姿は、腐敗していました。まるでゾンビ……」
「それが事実なら、死人を復活させられるということだな。ゾンビか……」
「暢気に納得している場合じゃないのよ、ハンク。擬神兵の情報はあなた頼りなんだから。そしてケインのことも……それで、どうするつもり?」
「どうとは?」
「これからのことよ。このまま霧の中で立ち話を続けるってわけにもいかないでしょう?」
「そんなことは俺もわかっている。出口さえわかれば……」
「その出口のことになんですけど……」
 と、シャールが言うと、ライザとハンクの瞳が、食い入るように彼女のことを見つめた。
「なになに、なにか知っているの? そういえば、実体のないセイレーンと会話ができていたわね、シャールは。何か教えてもらったの?」
「あ、いえ。そういうのはなくて。でも、あれって扉、ですよね?」
 と、シャールの瞳に写る扉を指さした。
「なにを言っているの、シャール。なにも見えないわよ?」
「いや、見えていないのは俺たちでシャールには見えているんだろう。ベアトリスと会話ができたといっていたな。シャールにだけ出口が見えるようにしたのかもしれん」
「嘘っ! ハンクってそういうのを信じるタイプ?」
「……今はリアリティを追求している場合じゃないだろう。生と死の狭間なのだとしたら、なにが起きても不思議ではない。それに、俺もそしてライザ、あんたも非人道的なことをしてきてしまった。それに対し、シャールは純粋だ。見えないものも見える可能性はある」
「東洋の島国あたりにいるとされている妖怪みたいなもの?」
「……ライザ、たとえがわかりにくいぞ」
「だってしょうがないでしょう? 私たちの国にはそういうものがないのだから」
「とにかく、ここはシャールに一任するしかないな」
「そのようね。というわけだから、シャール。お願い」
 離れないよう、見失わないよう、三人は紐のようなものを着ている衣服の端を破り作った。
「ごめんね、シャール。年頃の女の子のスカートを破かせてしまって。リアルに戻れた時、破れたままだったら、絶対に弁償するから。もちろん、ヘタレ少佐のポケットマネーで」
「ここにいない人に払ってもらうのはちょっとあれですが……少佐も見つけてあげないとですね」
 この霧から抜け出すこと。
 抜け出た先がシャールと共有していた館であるなら成功。
 リアルの世界に戻れたなら大成功。
 そんな気持ちで、シャールは霧の中にポツンと佇む扉を開いた。

※※※

「ライザ少尉! ハンク曹長! シャールさん!」

 誰かが必死に名前を呼び、体が揺れている。
 体が重い。
 何キロもあるなにかを持たされているような感じだ。
 そして無性に喉が乾く。
 シャールは乾ききった唇をなんとか動かし「水」と言うが、言っているつもりなだけで声にはなっていない。
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