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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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効力の検証

「効果に個人差があるのは薬品も同じ。またかかり難い人もいるし、キーワードで効果がでる場合もあるわ。よく情報を聞き出す時、親兄弟を話題にだしたり、部下の危機をチラツかせたりするのは、よくやる手法。自分がつらい思いをするのは耐えられるが、大事な人は失いたくないという気持ちね。シャールとハンクが時間をあけて効果が出たのは戦争というキーワードだったわね。それに少佐も、根底のあったのは戦争だったのではないかしら? 爆薬設置、もしくは爆音がそれらを彷彿させた。私は蔦と戦争がひとつに結びついた時に発動するものだと推測する」
「ライザ少尉、それでは誰かが意図的に仕組んでいると言っているようなものだ」
「そうですよ、少佐。そもそも自然現象で起きることは不思議とは言わない。それなりの条件が揃った時に起きるもの。その条件はなかなか揃わないから不思議とつくのではないかしら?」
「だとするならば、誰が誰を陥れるためにやったと?」
「そうよ、それなのよ! 敵が不明な時はターゲットが誰かがわかれば調べようもあるというのに。私としてはハンクか、汽車の乗客、会社かしらと思っている」
「それでは対象が多すぎる!」
 クロードがバンッ! とテーブルを叩き、席を立った。
「ちょっと少佐。熱くならないでよ。そもそも四人でしか話せないのだから仕方ないでしょう? 意見は四つしか出てこない。限られた意見の中から見つけださないといけないのだから」
「……すまない」
 クロードが理性を取り戻し席に座り直すと、三人はそれぞれリセットするかのように息を吐く。
 そんな場の中、シャールが遠慮がちに手を挙げた。
「あの、少しいいでしょう?」
「あら、シャール。なあに?」
「その薬品の持続時間はどれくらいですか」
「ん~ものにもよるし、投与された側の体力や気力にもよるけれど、だいたい数時間程度よ」
「数時間。一~二時間程度ですか?」
「もう少しかな。三~四時間といったところかもしれない。それは効力がでている時間であって、投与されてから効き目がでるまでの時間も個人差があるの。すぐでる人もいれば時間がかかる人も。そういった時間も含めると倍くらいと思ってもいいかもしれないわね」
「ありがとうございます。話をまとめると、投与量が多くなれば効果も高くそして持続も長い代わりに、体力気力の消耗が激しい。少量はその真逆ということですね。私たちは蔦の粒子などに触れて幻影を見てしまっているということを仮定しすると、不思議ではありませんか?」
「なにがだ、シャール」とハンク。
「だって、どうして私たちはこうも長く幻影を見ているのでしょうか? 近くに蔦はないのに」
「それはね、シャール。蔦の中にいながら幻影を見ているということに……」とライザ。
「それなら、ライザさんも触れていたり吸っていたりしているのではありませんか? 少佐に付いている粒子に触れる必要はありませんよね?」
 そこまでいうと、ハンクが「そうか、そういうことか」とシャールがなにに気づいたのかを悟る。
 続いてライザが何度も頷いた。
 それを受けてシャールが語る。
「扉をあけると今見ているものとは違う光景が広がっていたのは、寝ている間に共有していたことが薄れたからというのはそうなのかもしれません。寝ている間も効力が持続していたんです。こうも長く。そして体力や気力の消耗もなく持続しているのはなぜでしょう? 体に負担がかからない程度に持続して私たちは蔦の粒子に触れているか空気などで体内に入れているんです。でも、この館の中に入ってもライザさんは少佐の衣服に残っていた粒子に触れることでしか共有には至りませんでした。だから、この館にあるものはみたままなのだと思います。ではなぜ、私たちは幻影から出られないのでしょう?」
 ここまで言うと、ハンクとライザの言葉が重なった。
「朝食!」
「そうです」とシャール。
 シャールは続ける。
「誰も用意をしていないのに一晩が明けると朝食が用意されていました。なぜ? 私たちは童話の世界を疑似体験しているのだと思いこみ、疑うことなく口にしてしまいました」
「……そうね。本来なら、なにごとにも疑って然るべきだったわ」
「私のような素人が意見するのはとてもおこがましいのですけど、試してみませんか? 朝食には手を着けず、翌朝になっても持続しているか……です」
「つまり、もうふた晩、ここに留まるということか?」とクロード。
「そうです、少佐。浅はかな考えかもしれないけど、効力が切れることで脱出できるのではないかと思っています」
「いや、構わん。どのみち、どれが正解かなんてわからないのだからな。試してみる価値はある。で、どうだろうか、ライザ少尉、ヘンリエット曹長」
 ライザは「試してみましょう」といい、ハンクは一回頷いた。
「だけど、飲まず食わずと言うのもね……」
「それなら……」とシャールが持っていたトランクをあける。
「少ないですが分けましょう」
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