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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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それぞれの立場

 ライザは続ける。
「いま、鉄道の方からも正式な要請がでたそうよ。荒れ地を走行する時は定期的に連絡を入れることになっているらしいのだけれど、途絶えた汽車があると。たぶん、この汽車ね。一応、別件で出動した際、問題の汽車は見つけたということは報告しておいたわ。ただ、問題発生で足止め中であり、それは軍が対処する予定だった案件であるといっておいたから。そうね、軍事機密的なとも付け加えたから、それ以上詮索はしないと思う。お任せすると言ってくれたそうだから」
 ふふっ……と笑みを浮かべたライザをみたクロードは疑心に満ちた眼差しを向けた。
「いやよ、なによ、その疑いの目」
「裏でコソコソと……」
「だって~、私は情報部の人間だし? そっちはそっちで擬神兵探しが中心なわけで、それ以外の情報の共有は任務にはないでしょう? それとも、事前にほしかったのかしら? だったら、一時停戦と決めたのだから、ハンクを敵視するのはやめなさい」
 ヘラヘラした言い方から、語尾はかなりきつく、そして真顔になる。
「……っう、きさま、上官は誰だと思っている」
「階級でいえば少佐。だけど元々の目的が違うのだから、部署の垣根を越えての上下関係は成り立たないわ。私としては穏便に済ませたいの。もちろん、この件の情報提供はジェラルド軍曹で、あなたの直属の部下。なんとかしたいという思いは同じだけど、今の少佐は問題解決のためなら手段は選ばないと言う姿勢ともとれるわね。それは今の私の目的に邪魔なの。私はね、ハンクとシャールのこと、気に入っているのよ。公私ともにね。ふたりを無事救出させるのが最優先。その上で問題を解決といったところね。その最優先を邪魔するのであれば、少佐でも……」
「つまり、武力行使ではなく情報操作、隠蔽、使えるものは使ってこちらの邪魔をするというのだな」
「う~ん、まあ、それもあるかもしれないわね」
 コロッと態度が変わる。
 こういう早変わりは情報を収集する職務につく際に身につけたのか、それとも天性のものなのか。
 クロードは別の意味で敵に回したくないと思う。
 単純明快の者を相手にした方が作戦も練りやすく対処しやすい。
 つかみ所のない者を相手にするのは、作戦に限らず日常生活においても厄介な存在なのだ。
「……わかった。一時休戦の件、再度認めよう。で、いいのだな、ライザ少尉」
 言葉はライザに向けてだが、視線はシャールの方を見ていた。
 その横に立つハンクが視界の隅っこの方に写っていたが、あえて見ていない素振りをする。
 クロードにとって、それが精一杯の抵抗だった。

「はい、ここから仕切り直しね」
 と、ライザが重々しい空気を一刀両断するように仕切る。
「というわけだからハンク。あなたが感じたことを教えて。だいたいのことはシャールから聞いているから、あなたにしかわからないことを教えてくれると助かるのよ。化学兵器でなんとかなるものなのか、それともそういう領域を越えたものなのか」
 口調は軽いが目は笑っていない。
 一見、ライザらしいのだが見る者によっては軍人としてのオーラをまとっている、またはこの危機をどうにかしたい正義感のようなものをまとっている、そういうものをだしていた。
「結論からいえば、あいつの生命力は無限ということだろうな」
「それは倒せないということかしら?」
「ああ。だがなにか理由があるはずだ。たとえば、蔦が出現する前に現れた霧、とかな。このあたりで濃霧はおろか霧の発生すらないのだろう? そういうところに出現した霧。そっちを調べた方がいいんじゃないか」
「あら、意外な意見。そういうの、私たちからはなかなかでないわね。だってこちらに損害を与えているのは霧ではなく蔦だから。どうしたって蔦の抹消を優先するわよね。ね、少佐?」
「ああ。で、なにかあてでもあるのか?」
「ちょっと、私に聞かないでよ。ハンクに直接聞けばいいでしょう? もう、これだからプライドの高いおぼっちゃまって面倒よね」
 と、軽くウインクをシャールにしてから、隣にいるハンクを見た。
 シャールは愛想笑いで誤魔化してから俯く。
 なんとも居心地の悪い。
「で、どうなの、ハンク」
 ピリッとした空気に戻したのはライザの声だった。
 彼女の態度次第で場の空気が変わる。
 つまり、彼女を敵に回して得することはないのだと、シャールはこの瞬間に悟った。
 ハンクはそういった空気に流されるような人物ではない。
 ライザの問いかけに、小さく首を横に振ってから答える。
「シャールから聞いたのであればすでに知っていると思うが、植物なら焼けばなんとかなると思ったが繁殖力がとてつもなく早く、切った断面から新しいものが生えていく。根本から叩けばなんとかなるかもしれないが、この霧がそれをさせないだろう」
「どうしてそう思うの?」
「霧が根元だと思うからだ」
「霧……ね。霧の発生条件というのがあるらしいのだけど、その条件を満たしていないみたいよ。となれば、怪しいわよね。でも、霧なんて掴めないし、どうするの」
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