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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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優先順位

「なにをしている、報告だ」と急かすクロード。
「人の安否が先よ」とライザ。
 そこに確認をして戻ったジェラルドが加わる。
「少佐。確認してまいりました。どうやら、その汽車と連絡が途絶えているようでして……」
 知りたい情報を持ってきたジェラルドの言葉にライザは悲鳴のような声をあげた。
 ジェラルドの持ち込んだ情報は、クロードにとっても価値あるものだった。
「連絡が途絶えた理由は得体のしれないものが関係しているということは確実だな。飲み込んだとい表現を鵜呑みにしてよいものか。汽車を飲み込むものとはいったい……」
 得体の知れないものがどのようなものかはわからないが、汽車のような大きいものを不能にしてしまう力があることを知れたのはなによりの情報である。
「武器弾薬、隊員の武装の強化だ」
「承知いたしました」
「どれくらいで追いつく?」
 先行隊を出したあと、必用な準備をしてクロードたちは出立をしている。
 それよりも遅れて追加の武器等が届けられるのだが、どれくらいの時間がかかるのか、それによっては現地に着いても待機しなくてはならない。
「早馬に分けて乗せて運ばせましょう」
「荷台で運ぶよりは確かに早いな。では、それで頼む」
「では、そのように指示をだします」
 指示をだすためにまたジェラルドが退室する。
 報告をしにきていた隊員は「よろしいでしょうか?」とクロードにお伺いをたててから、報告の続きをした。
「得体のしれないものといいましたが、それがその、我々は木々と聞いていましたが、木々ではなく蔦のようなものだったという報告であります」
 報告を聞いたライザは
「濃霧と蔦。たぶんそれが原因ね。汽車と連絡が取れなくなっているのは。蔦なら巻き付けばいい。飲み込まれたという表現はそういうことなのだと思う。霧で徐行運転になった。そこに不思議現象がってところかな。ハンクが乗車しているし、中から動いてくれるといいのだけれど」
「あの男をあてにするな」
「あてにするわよ。だってシャールもいるのよ? 彼がなにもしないってことはないと思うのよ」
 と、意外とこの件はあっさり解決するかもしれない。
 そんな予感がしたのだった。

 だが。

※※※

 ハンクとシャールが乗っている車内であちこちから悲鳴があがる。
 またいくつかの発砲恩も響いた。
「ハンクさん!」
「ああ。後ろの車両からだな」
 シャールは「行きましょう」と言うと同時に走り出し、ハンクもその後に続いた。
 だがふたりがその車両に着く前に、車内でなにが起きているのかがわかる。
 蔦が窓を突き破り車内に進入、まるで触手のように自在に動き回り人を追いまわしていた。
 すでに蔦が巻き付き宙づりになっている者もいる。
「人を襲っている?」
 シャールにとっては初めてみる光景。
「ハンクさん! これは?」
「擬神兵の仕業でないことは確かのようだな」
「ではなんでしょう?」
「さあな。だが、こんな得体の知れない生き物を突然出現させるなど、特別ななにかが働いていると考えていいだろう」
 これもケインの仕業なのか? ハンクはそう自問した。
 だが、自答はしない。
 いまはこの場にいない者のことを考えている場合ではない。
「シャール。銃はダメだ。とにかく逃げろ」
 的となる場所が少ない蔦に銃で対抗するのは難しい。
 ハンクもまた、ナイフなどの刃物があればと、やや苦戦する。
 そこに食堂車の方からやってきた者が調理器具の包丁や小型ナイフを蔦に向け投げる。
 しかし素人のナイフ投げはまったく効果がなく、床に落ちて散らばるだけだった。
 だが、ハンクがそれを持つと状況が変わる。
 車内に入ってくる蔦を切り落としていく。
 でも
「ダメです、ハンクさん。切り落としても動きは止まりません。むしろ増殖しています」
 切り落とされた蔦はそこから根を生やし瞬く間に成長していく。
「シャール!」
「はい」
「食堂車から火を持ってこい」
「火……焼くのですね」
「そうだ。だが、車内に点火してしまう可能性もある」
 それでも増殖を阻止しするには焼くしかない。
 棒のようなものに布を巻き、そこに火を付けて戻ったシャールは、ハンクが切り落とした蔦に火をつけて焼く。
 焼かれた蔦は灰になり増殖することはなかった。
 だが、コゲでしまったり、カーテンに引火してしまったりと、車内の被害も少なくない。
「もとを焼くしかないか」
 ハンクは外にでて、蔦の根本から焼こうと考えた。
「それはダメです。蔦は汽車を覆っています。汽車が火の中に入ってしまいます。凍らせることができれば……」
「凍らせる?」
「凍ってしまえばそれ以上の動きはできませんから。巻き付いた蔦の除去もできるのではないでしょうか」
「たしかに。だが、どうやって凍らせる?」
 擬神兵は万能ではないし、魔術師のように突然凍らせたり突然火で焼き尽くしたりができるわけではない。
 もちろん、そのような特技を持った者もいるかもしれないが。
 仮にそんな存在がいれば、それ一体で事足りてしまうのではないだろうか。
「たしか、荒れ地の夜は気温が下がりましたよね? 蔦に水を巻いてしまえば凍るのではないでしょうか?」
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