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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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不穏な影

 直接見聞きしたこと以外に、安易に決定を出すのは危険な行為であるから。
 だからあえてそういう言い方をしたが、シャール同様、ハンクも擬神兵関与の率は低い、それもほぼゼロといっていいほど、と思っていた。

 ところが。

※※※

「乗客のみなさま。デッキなどにでないようお願いいたします。個室にお戻りになり、窓をしっかりと閉め、なにがあっても外を覗かないようにお願いいたします」

 車掌がそのようなことを言いながら、全車両をひとつひとつ回り始めた。
 ハンクたちがそれを耳にしたのは、走行速度が下がり初めてすぐのこと。
「なにがあった?」
 あれからシャールの部屋に留まったハンクが、ちょうど知らせにきた車掌を呼び止めて問う。
「ああ。お客様。お急ぎのところ申し訳ございません。実は濃霧で視界が悪く徐行運行となりました。ですが荒れ地での徐行運行ですので、その……」
「夜盗か」
「はい。絶対にないとは言い切れませんし。ただ、このあたりに霧がでるという情報はなく、いま、確認をしているところです」
 車掌は怪訝な表情を見せながら一礼をし、部屋の扉を閉め、引き続き状況案内の仕事に戻っていった。
 扉を閉められ、またふたりきりになると、ハンクは車掌の言葉を一語一句丁寧に思い返す。
「なあ、シャール」
 ハンク自分の記憶を確かめるかのように、シャールに訪ねる……軍のやつらは霧のことを言っていたか? と。
「そういえば、不思議な現象は木々が生えるということだけだったかと」
「そうか。シャールもそう記憶しているか。ならば、この霧はなんだ?」
 外を覗かないようにという忠告があったが、ハンクは霧の有無、濃度などを確認するために車窓に目を向けた。
 陽が陰った頃、自らの意思でカーテンを閉めたのだが、そのカーテンを半分だけあけた。
 シャールの目にも、次第に視界が遮られていく濃霧を確認でき、小首を傾げた。
「車掌さんは、このあたりで霧は発生しないとも言っていましたね。人工的な霧でしょうか?」
「バカな。人工的に霧を作れたとしても、これほどの広範囲は難しい。近くにそうとうな設備を要する。まず、考えられないな」
「……そうですよね。機械などなく発生させられるとなると、やはり擬神兵でしょうか?」
「擬神兵はなんでもあり的な先入観を持たれるが、そんなに便利なものではない。ひとりひとつの特殊能力程度だ。極端に特化した、と思っていればいい。一体の擬神兵をつくるのに、それなりの時間はかかる。適合者を探すことからはじめるのだからな。そんな条件の中で、霧発生に特化した擬神兵をつくる利点が思いつかん」
「たしかに。でも、視界をいまのように悪化させたり、陽動作戦などには使えそうとは思いますが」
「それなら道具でどうにかなるだろう。体格のいい、もしくは力のある者に持たせてしまえばすむことだ」
「私のお父さんのように、大きな体があれば背に乗せて。移動も簡単ですね」
「そういうことだ。となれば、木が生えるよりは霧が発生する方を問題視するべきか……」
「軍に聞いてみてはどうですか? 私たちを監視しているのですよね? 私ではわかりませんが、ハンクさんなら誰が監視者か、わかりますよね?」
「ああ。だが……」
 ハンクはこちら側から軍と連絡を取ることを懸念する。
 できれば厄介ごとには関わりたくないからだ。
 とはいえ、このままでは汽車の走行は遅れ、また夜盗の標的になりやすくなるのは避けたい。
「まったく。なんだって夜の荒れ地なんだ」
 危険な場所としての認識を持っている者は多く、ほとんどの者は夜の荒れ地で行動はしない。
 旅人も危険を避けるため、臆病な者は日中でさえ避ける場所である。
 汽車という利器であるからこそ移動手段に使うが、これが徒歩や馬車であったなら迂回ルートを使うと考える者が大半だろう。
 汽車が走るようになってからは、夜盗の稼ぎも減ったと耳にしたことがある。
 走行する列車を止める、または乗り移る行為は、夜盗側としてもリスクがあるからだ。
 戦争で荒れていた時代ならいざしらず、いまは治安の安定にも力を入れている。
 夜盗も危険をおかしてまで……そこまで考えついた時、ハンクは嫌な考えにたどり着いた。
 危険をおかしてまで汽車をとめたい。
 それはなぜか。
 この車内に目的があるから……
 となれば、その目的とは……
「俺か……」
「え? なにか言いましたか、ハンクさん」
「ああ、言った。目的は俺だ」
「え? ハンクさん? どうしてですか?」
「わからんが、そう考えるとすべてが繋がったようにスッキリする」
「でも、ハンクさんを狙っているのは少佐とケインという人ですよね? 少佐はいまは別行動でハンクさんの自由も容認しています。ケインという人は行方知れず。先の戦いで軍にそうとう戦力を削がれ、立て直すのに時間がかかり、すぐに仕掛けてくるとは思えないとライザさんは言っていました。私はその変はよくわかりませんけれど、敵に仕掛けるのなら万全であることが条件だと思います。設備も武器も人材も軍の方が圧倒的です。私設的な組織の場合、敗北からの再起は時間がかかるものだと思うのですが」
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