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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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ハンクの思い

 あの時は確かに仲間という認識を持てていたが、散り散りになったかつての……を探し、最後の引導を渡して旅をする自分を、彼らは最後のその瞬間、どう思ってくれているのだろうか。
 ひとりで旅をしていた頃は、常に背徳的な感情を抱いていたが、シャールと出会い、共に旅をして、クロードと共闘して、そうやって関わる人が増えていくと、負の感情、背負っている十字架の重みが薄れていくような錯覚を得てしまう。
 ささやかな幸せというものを、自分だけが味わっていいはずがない。
 反面、シャールがいてくれることに助かっている分もある。
 最後のひとりとなった擬神兵の自分の最期を見届けてくれる人がいる幸福感。
 かつての……たちに、その幸福感があっただろうか。
 最期を看取ったのが不甲斐ない元隊長の俺でよかったのだろうか……
 考えたところで、その答えを教えてくれる者たちはもういない。
 自分があっちにいった時にでも聞くか……そんな答えがでた時、何かが触れる気配がして、瞼が開くよりも早く接近する何かを強く握った。

「いたっ……」
 見知っている声に、一気に覚醒する。
「シャ、シャール?」
 握っていたのは細い手首、シャールの手首だった。
「ここでうたた寝していたら風邪をひくと思って」
 シャールの言葉につられ、手元を見れば、そこには客室から持ってきたと思われる毛布があった。
「……悪い」
「いいえ」
「気配に気づかなかった……」
「疲れているんですよ、きっと」
「いや。だが……俺は、完全に眠っていたのか?」
「私が近づいていたことに気づかないほど眠れていたのなら、とてもうれしいです。でも、気づかないほど考え事をしていたのなら、私にも相談してほしいです。私では頼りないかもしれないし、役にはたたないかもしれませんけど、誰かに話して聞かせるだけでもなにかが変わることってあると思うんです」
「ああ、そうだな。しかし、寝入っているとうれしいって……」
「当然です。だってハンクさん。なにかあるとすぐ自分を犠牲にしてしまうから。きっと野宿をすれば火の番をするといって徹夜、しますよね?」
「あ? ああ……いや、それは大人の、男である俺がするのが当然だと思うが?」
「いいえ、違います。私たちは同士です。であれば、対等ってことですよね? 一晩は無理でも、少しは私にもできます。たとえば今も。仮眠をするハンクさんを見守ることだって」
 たしかに、今はひとりでない。
 連れがいることで負担が増えることもあるだろうが、たぶんそれは嬉しい負担のはずである。
 自分の宿命にシャールの同行を許した時点で、その負担を請け負う覚悟をしたはずであった。
「それに……」
 シャールはまだ伝えきれていないと言葉を続ける。
「汽車の中は安全ですよね? ハンクさんは損分に部屋で休んでください。でも、朝食と夕食は一緒にとりましようね? やはり、食堂車での食事は楽しみのひとつですから。楽しみを分かち合うって、すてきなことなんですよ?」
「……わかった。じゃあ、ここはシャールに任せる。夕食の時間になったら起しにきてくれ」
 ハンクがシャールの申し出を受け入れ部屋で横になってから数刻後、彼女は言われたとおり、夕食の準備ができたという知らせを聞き、ハンクを起こしたのだった。

※※※

 食堂車での夕食に舌鼓をうち、満足感を得ると、シャールは前屈みになって真向かいにいるハンクに聞く。
「ハンクさんは、これからどうするつもりなんですか?」
「どうとは?」
「とりあえず、少佐から離れるということでこの汽車に乗りましたけど、一応、明日の夕刻には目的の駅に着きますし、その先です」
「ああ、そうだな」
「夕刻だと、宿も厳しいですよね。そこからまた汽車で移動ですか?」
「終着駅は比較的大きな駅で、街も大きい。港に面しているせいか、かなりの活気がある」
「詳しいですね」
「一応な。ざっくりとだが各地の情勢をライザに聞いておいた」
「そうだったんですね」
「たぶん、宿の問題は心配なさそうだと思うが、たしかに、その先はいつまでも気ままな旅というわけにもいかないな」
 急ぐ必要はわずかにあるのだが……とは思ったが、あえて言葉にはしなかった。
 それを口にしてしまうと、仲間の死を望んで動いているような気がして。
 クロードのように任務として動いているわけではない。
 だが、理性を失ってしまっていては手遅れになる。
 狂う前に、いや、それすら正しいのか、ハンクにはわからなくなっていた。
 だからといって、擬神兵の彼らを人が快く受け入れているとも限らない。
 故郷に居づらくなった彼らの心の溝が深くなる前に……
 そうであれば急ぐ必要が出てくる。
 できればクロードより先に見つけ自らの手で最期を与えたい。
 それが、かつて彼らの隊長であった自分の役目なのではないか。
「……ハンクさん?」
 ひとり考えに没頭してしまい、シャールに呼ばれて現実へと戻される。
「あ、ああ。なんだったかな」
「気ままな旅ではない……のあとです。私としては急ぐ必要はないと思う反面、救いの手を早くさしのべることも大事かと思います。だって、擬神兵はすべてが狂ってしまっているわけではないでしょう? ベアトリスさんは狂ってはいませんでした。本当なら、救ってあげられるはずだった……少佐は悪い人ではないです。任務で動いているのだから仕方のないことと頭ではわかっていても、救えたはずなのにって」
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