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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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決別


 ハンク・ヘンリエット討伐の一件は、討伐のはずが互いの利害が一致していること、そしてハンクの持つ力は擬神兵に対し有効であることなどから、クロード・ウィザース少佐は一時休戦かつ共闘を決断した。
 その一連が終わり、シャールはいよいよ少佐はハンクを手に掛けるのだと気が気でなかった。
 ところがそうはならなかった。
 意外にもクロードはハンクの自由を許し、さらに別行動を黙認した。

「行かせてしまって、ほんとうによかったの?」
 そう訊ねたのは、ただでさえ巨乳の乳を腕組みした腕で軽く持ち上げ、胸の谷間を強調したライザ少尉。
 ここまであからさまな巨乳になると、男としても見慣れてしまうのか、はたまた萎えてしまうのか、クロードは無関心で、また後ろに控える部下たちも特に注目はしない。
 もちろんライザもそれが目的でしたわけではなく、普通に腕を組めばそうなってしまうのだから無意識、なにかをもくろんでのお色気サービスではない。
 クロードはライザを一度も見ることなく、眼差しはしばしの共闘、共に死線をくぐり抜けた男、ハンクの後ろ姿を見送っていた。
 視線はハンクの後ろ姿から離すことなく、耳だけでライザの言葉を聞き取り、そして口だけを動かす。
「いまだけだ。別に一生許すつもりもない」
 いまだけ……それは、今はまだ正常でいても、いつかはほかの擬神兵のように理性を失い狂ってしまう。
 そうなる前に、必ず手を打つ。
 その気持ちに偽りはない。
「そうじゃなくて」
 ライザはいつかのことを案じて聞いたわけではない。
 彼女には彼女なりの考えがある。
「ハンクと一緒にいた方が、少佐の仕事も少しは楽になるのではなくて? という意味よ」
「……ん?」
「擬神兵のことは擬神兵が一番理解していると思うのよね。彼の知る擬神兵の情報は役立つんじゃないの? ってことよ」
「……ふん。別にあの男に頼らずとも」
 クロードにしてみたら、ハンクも対象でありハンクと共闘する以前から擬神兵討伐の任を受け動いている。
 いまさらであった。
「ただ……」
「え?」
「ただ……いや、いい」
 クロードはまっすぐに遠のいていくハンクの姿を見ながら、言葉を飲み込んだ。
 彼が見つめる先には、ハンクとともに旅をすることを決めたシャールの姿がある。
 ライザはクロードの見つめる方向に視線を向け、彼がなにを思いなにを案じているのかを察するにとどめておくことにした。

 ふたりが、そんな会話をしているころ、ハンクとシャールは……

「本当にいいのか?」
 ハンクがシャールを見下ろして聞く。
 ハンクのその言葉はもう何度も聞いている。
「私は見届けたいんです。そしてハンクさんになにかあったら、私が止めます」
 ライザが調合した神殺しの弾丸も持っている。
 いざという時のためにしか使わないと決めての持参である。
 シャールなりに覚悟をきめ、それが今の自分にできることであり、それをしなければ後悔すると思う。
 だから何度聞かれても返す言葉は決まっていた。
「私が自分で決めたんです。絶対にハンスさんから離れませんから」
「……あ、ああ。わかった」
 離れませんから!
 深い意味はないだろう。
 だが無性に心がほっこりする感覚を得たハンスだった。
「ところで、どこに行くんですか?」
 ハンスが今まで擬神兵にたどり着けたのは、彼自身の勘といってもいいが、その多くはライザが持ってくる軍からの情報がかなり有力で占めていた。
 そのライザと別行動をとる今、情報源は減少し、本当にハンクの勘次第といってもいい。
「かつての仲間の出身地はだいたいわかっている。解散したあと、国に戻されているはずだから」
「まだ当たっていない擬神兵の故郷に行くのですね?」
「まあ、そうなるな。だが、ケインが擬神兵を呼び戻しているのは事実だ。彼より先に見つけるしかないな」
「そのケインさんですけど」
「ん?」
「擬神兵ってもともとどれくらいいたんですか? この間の戦い、結構な数の擬神兵をみました」
 シャールにしてみれば、ハンクやクロードがかつての擬神兵の討伐をしているのだから、減っていると思っていた。
 誰でもそう考えるだろう。
 しかし、蓋をあけてみれば、ケインが率いる擬神兵の多さに驚きを隠せない。
「シャールがなにを考えているかはわからないが、擬神兵を作り出せるエレインはもういない。ケインがその技術を取得して増やしているとは思えないが……」
「そう、なんですね。でも、多いですよね?」
 ハンクは自分でケインが作り出せるはずがないと断言しておきながら、シャールの再度投げかけられた疑問に考えが揺らぐ。
 自分が隊長として率いていた擬神兵の数よりも増え、また知らない擬神兵がいた。
 作り出せるのはエレインだけで、その彼女は自分の目の前でケインにより殺されている。
 エレインが誰かに情報を渡していた?
 だとすれば、あの時、彼女はすべてを語っていたはずだし、ここにいる擬神兵を殺すことですべてが終わるような口振りであるはずがない。
 あの口振りはたしかに、ここにいる擬神兵を殺せばすべてが終わる、それ意外の深読みはできない。
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