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ふたり暮らしはじめました

原作: ONE PIECE 作者: うさねこちゃ
目次

これからも変わらず一緒に暮らしたいと思っている

 いやまあ、何と言うか、おれも同じ男だから解るっちゃ解るんだけど、賢者タイムに入って冷や汗かいて頭を抱えてるローは、一体どんな心境なんだろうか。
 やる側だったおれと、やられる側だったローの心境は、絶対に違うはずだ。
 情事の最中は冷静な判断が出来ねェだろうから、あとになって後悔、だなんてのはよく聞く話だ。
 とはいえ、おれは後悔しちゃいねェが、ローはどうなんだろうな。
「なあ、ロー」
 ここで謝罪なんて告げようもんなら、相手を余計に傷つける結果になることは目に見えている。
「おれはその場のノリや流れだけで、お前を抱いた訳じゃねェから」
「――……」
 おれを見つめるローの目が不安そうなのは、きっと気の所為じゃない。
 だが、確信に近い思いがある。
 ローはおれに怒る訳でも蔑む訳でも、嫌悪する訳でもない。
 肩を抱いた今ですら拒絶の色がねェんだから、おれがしたいことと、ローが望むことは同じだろう。
「ローが好きだ。だから、恋人になって欲しい。そして、これからもずっと一緒に暮らして欲しい」
 ローを抱きしめて耳元で伝えれば、怖々といった様子でおれの背中に腕が回される。
 お互いに抱き合いながら触れた肌から鼓動を感じること暫し、再びおれを見上げたローが口を開いた。
「よろしくお願いします……」
 ローはゲイバーで働いて客に手を握られたりした頃から、おれのことが気になっていたようだ。
 一緒に暮らして毎日同じ飯を食っているという生活は、とても幸せだから、これからも一緒に居たいと言ってくれる。
「飯目当てかよ」
 苦笑しながら軽く頭突きを食らわせてやると、違うと言って慌てたローが首をブンブンと横に振った。
 そこまで否定しなくても解っていると笑い、おれはローを抱きしめてキスを交わす。
「コラさんが好き、だから」
 だから急な展開に驚きつつも、抱かれてみたいと思ったとローは言う。
「でも、コラさんだけだから」
 流石に他の男はゴメンだと言って笑ったローに、おれは同じように笑い、額を合わせて近い距離でローを見つめた。
「おれだって、ロー以外はゴメンだ」
 蜂蜜色の目が嬉しそうに細められ、静かに閉じられたのを合図に再び触れた唇は、おれたちの唾液で濡れていく。
「なあ、ロー。お前、今のバイト辞めろよ」
「でも、家賃払えなくなるし」
 賢者タイムも最終的には和やかに空気で終わり、風呂に入って飯も食った就寝前。
 いつもなら別の部屋で寝ているおれとローだが、思い切ってローをベッドに誘ってみれば、何の疑いも持たずに自室から枕だけ持ってきたローがおれと同じベッドに入っている。
 もう恋人同士なんだから警戒しろだなんて言わねェが、ローがこんな調子だから、おれとしてはいつゲイバーの客にローが喰われてしまうか気が気じゃねェってもんだ。
「衣食住くらい、おれが面倒見てやる」
 そう言ってローをきつく抱きしめる。
 鼻に届くローの匂いをもっと感じたくて、おれはローの首筋に鼻と唇を押しつけて、思い切り吸ってやった。
「んっ、でも、学費も稼がなきゃだし」
 奨学金を貰っているとは言え、それはあくまでも借りているのだから、後々に返さなくてはならない。
 だから少しでも稼ぎたいと言ったローに、おれは首筋にまた別のキスマークを付けてやって、最後に噛みついてやった。
「イテェよ……」
「お前が他の男に狙われてんの解ってんのに、猛獣の檻の中に仔うさぎ一匹入れるような真似したくねェ」
「――……?」
 ローはおれの言葉にコテッと首を傾げる。
 これで解って貰えねェんだから、ローには遠回しに言うだけ無駄だと思い知る。
「お前が他の男に見られたり触られたりされんの、嫉妬してるって言ってるんだ」
 そう言って今度は唇に噛みついてやった。
「ゴメン……」
「悪いがおれは、独占欲が強いんだ」
 吐息と共に紡いだ言葉は、やがて濡れた水音を部屋に響かせる。
 微かな息遣いと甘い声が聞こえはじめる頃には、おれの手はローのパジャマを脱がせていた。
「あの、コラさん……」
 キスは唇から首筋、鎖骨から胸に移り、唇のあとを追うようにローの肌にキスマークが残った。
「嫌か?」
 ローの手を取ったおれは、綺麗に整えられている爪にキスを落として、ペロリと指を舐めてやる。
「あ、そうじゃなくて……。明日、ちゃんと辞めさせて貰えるように話すから……」
「そうか。ありがとうな」
 指を絡めてもう一度キスをしたおれは、おれを見たまま恥ずかしそうにして動けないでいるローを夜明けまで抱いた。

☆★☆★☆★☆★☆

 終電の時間まであと十数分――
 ゲイバーから出てきたローがおれの姿を見つけて、驚いた顔をしながら慌てて駆けてくる。
「お疲れ様」
「あ、ああ。コラさん、どうしたんだ?」
「気になったから、迎えに来ちまった」
 おれとローは人の少ない電車に乗り込むと、流れる景色を暫く無言で見ていた。
「そうだ。コラさんの所為で今日、めちゃくちゃ揶揄われたぞ」
「ほう? それはまた何でだ?」
 頬を赤く染めながら拗ねるローは、やはり可愛らしい。
 おれが理由で揶揄われた意味は解っているが、敢えて知らん振りを決めてやる。
「キスマーク……、男が出来たんだって言われて」
「その通りじゃねェか」
 小声で話すローは他の乗客を気にしているようだが、この車両に乗っている数名は、酔っ払いか疲れ切ったサラリーマンで、おれたちのことを気にする余裕すらねェ人間ばかりだ。
「でも、彼氏が駄目って言ってるんなら、無理に働かせられないからって」
 だから今日でもう辞めてきたと言ったローに、おれは覆い被さるように抱きしめて腕の中に閉じ込めた。
「ワガママ聞いてくれて、ありがとうな」
 少しの罪悪感と、それ以上の安心感。
 腕の中で頷いたローの頭をくしゃりと撫でたおれは、ローの手を引いて電車から降りる。
「明日からバイト探さなきゃ」
「そう焦ることもねェさ」
 繋いだ手を離さないままの帰路。
「早く帰ろうぜ」
「うん。腹減った」
「今日は鍋作ってあるから、温めたらすぐに食えるぞ」
「ありがとう。早く食いてェ」
 二人で笑い合って、二人で飯を食って、二人で寝る。
 これからもこの日々を、ローと共に大切にしていきたいと思った。





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