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ふたり暮らしはじめました

原作: ONE PIECE 作者: うさねこちゃ
目次

多分これが一目惚れというやつだ

 おれの名前はコラソン。
 近所の住人たちからは〝コラさん〟と呼ばれて親しまれている。
 おれがこの家に住み始めてから約五年ほど。
 元々、二世帯住宅だったこの家は、元の住人が海外に移住してしまった為、おれが買い取ったものだ。
 ただ、造りが二世帯住宅なもんだから、二階に当たる家は空き家状態だった。
 使う予定もない家を放置しておくのももったいねェので、今回貸し出すことにした訳だが、築二十年の内、十年以上放置されたままだった二階の家は、それぞれの部屋もそれなりにガタがきていた。
 それでも、リフォームする金もねェから安価で貸し出しをしたら、一年経って漸く借りたいという人間が現れたって訳だ。
「――で、何が起こったんだろうな、これ」
 玄関にはコンクリート片、そして散乱した靴。
 玄関を入ってみれば、同じくコンクリート片やら木の残骸、壊れた家具につい最近おれと賃貸の契約を交わした男が倒れている。
 男の名前はトラファルガー・ロー。
 親も保証人も居ないから、何処も借りられなかったと言った彼を、家賃が払えるなら気にしないから大丈夫という理由で契約に至った経緯がある。
 天井を見れば、見事に抜けたらしい玄関とダイニングキッチンの二階部分の床。
 それなりに古くなっていたし、人の住まない家は傷むのが早いというのは本当だな、などと思いながら、気絶しているローを抱き上げて、ベッドに彼を寝かせてやった。
「どうしたもんかな……」
 何度も言うが、リフォームする金がねェのは前述の通りだ。
 そして昨日荷物を運び終えたばかりのローは、崩壊した二階の家以外に住む場所がねェという事実。
 床が抜けた部分は、玄関部分とダイニングキッチンだけだから、そこさえ何とかすれば残り二部屋あるから大丈夫――という訳にはいかねェだろう。
 いつ崩壊するか解らねェ二階にこのまま住まわせる訳にもいかねェし、かといってリフォームは出来ねェ。
 幸いなのは吹き抜けて見える二階の天井は、あまり劣化しているようには見えなかった。
 それに、持ち物の少ないおれは、一部屋丸々空き部屋になっている。
 ってことは、ローさえ嫌がらなければ、その部屋を与えればいいんじゃねェかって決断に至ったおれは、目を覚ましたローに提案することにした。
「一緒に暮らさねェか?」
「――は……?」
 寝耳に水とはまさにこんな状況を指すのだろう。
 一瞬おれに何を言われたのか解らなかったらしいローは、二階の床、つまり、おれの家の天井が抜けたことで、住む家がなくなったことを理解したようだ。
 呆然とするローに、おれはもう一度聞いてみる。
「一緒に暮らさねェか?」
 ローは数秒沈黙したあとで、困ったような顔をしながらおれを見た。
「よろしく……お願いします……」
 そんなローの顔を見ながら、可愛いなどと不謹慎な思いを隠しつつ、おれはローの手を取ってニッと笑ったのだった。

 ☆★☆★☆★☆★☆

 これ以上天井が落ちてきたら困るので、ローの家具を一階に移動させつつ天井を取り払う作業が終わったのは、ローが引っ越してきて三日目のことだ。
 知り合いの大工さん曰く屋根は丈夫だから、災害がなければ落ちてくることはないと言う。
 それを聞いて安心したものの、一応聞いてみた一階の天井こと二階の床の修理の値段は、決して安心出来る価格ではなかった。
「やっぱり、リフォームは無理だなー」
 と言ってみるものの、本音はローと暮らせるのが嬉しいと思っていた。
 一人で住むのも気楽でいいもんだが、話せる相手が居る、一緒に飯を食う相手がいるってのは嬉しいもんだ。
 それに――
「おいおい、大丈夫かよ」
「寝れば治る……」
 倒れたときに看病してくれる相手が居るのは、かなり心強いもんだ。
 まあ、今回看病しているのはおれなんだがな。
 引っ越しに、引っ越し後のトラブル。
 数日で色んなことがあったってのも理由なんだろうな、ローが体調を崩したのは。
 手で触れる額や頬が熱く、何と言うか、紅潮した顔に潤む目。
 それらを見ていると、どうにもドキドキしてしまうおれが居る。
 病院に行けと言ったものの、金がねェからという理由で病院に行かないローは、今まで一体どんな生活をしてきたのか心配になっちまう。
 大学生だと言うローは、奨学金を貰って大学に通っているらしいが、身寄りがないので生活の全ても何から何まで一人でやっていかねばならない。
 生活費を稼ぐ為にバイトもしているローを凄いと思いつつも、給料が良かったからという理由でゲイバーで働いているってのは、おれにしてみたらあまり面白くねェ。
 まあそのゲイバーも、普通のバーだと思って知らずに面接を受けたらしいが。
 多分この感情は嫉妬に近い――
 おれはローのことが気に入っているし、好きなんだろう。
 だから、ローがおれと同じ意味で好意を持つかもしれない人間たちの中に居るのが嫌なんだ。
 眠るローの唇を指でなぞり、そっとキスで塞いでみる。
 途端に表れる幸福感に満足感、それに背徳感。
 嫌な気分なんかこれっぽっちもねェし、むしろもっと触れたいし愛したいとも思っちまう。
「参ったな――」
 などと一人でポツリと呟いて、ローが起きたときの為に滋養のある飯を作ることにした。
 今まで苦労しながら生活をしていた分、おれと居る間は幸せに暮らして欲しい。
 そう思いながら――
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