第24話
Epilogue
~俺と彼女の騒がしい日常~
七月二十四日。
終業式を無事に終えた俺は、旧校舎の古びた廊下を一人で歩いていた。
あの日から、桐野は明るくなった。……ほんの少しだけだが。
よく笑っている姿を見たりもする。
宮原曰く、『昔の桐野を思い出す』らしい。
何はともわれ、これで閉じこもっていた殻を桐野が壊してくれること願う。
ただ、俺の顔を見ると頬を赤く染めるのはやめてほしい。
あの日の恥ずかしい台詞が、脳内で再生されるから。マジで恥ずかしいから。
宮原は、桐野と仲直りしたらしい。
あの日。俺が屋上で桐野に恥ずかしすぎる台詞を言った後、屋上に来た宮原は、泣きながら桐野に謝っていた。
実は、俺が屋上で桐野と話している時、ポケットに入れていた携帯電話は、ずっと宮原と通話状態だったのだ。
あの時は、宮原に桐野の思いを伝えるためにとそうしたのだが、今思うとなんであんなことをしたのだろうか。
とにかくだ、宮原と、ついでに仙堂院と村上は、俺と桐野の屋上での会話を聞いていたのだ。
そんなわけで、謝った宮原を桐野はすぐに許し、桐野自身も宮原に謝った。
後日わかったことだが、桐野がいじめられていた原因は、クラスで一番カッコイイ男子と、二番目にカッコイイ男子の告白を、桐野と宮原が断ったことにあるらしい。
その結果、その男子のことが好きな女子に目をつけられ、最初は軽い言葉攻めだったのが、どんどんエスカレートしていきいじめに発展、という流れだったそうだ。
そんなわけで、いじめられていたのはなにも桐野だけではなく、宮原も同様らしい。
もっとも、宮原は持ち前の明るさですぐに関係を修復したらしいが、そのころには桐野との溝は、どうしようもないくらい深いものになっていた。
「友達を救えないなんて……あたしは……っ!」
「違うぞ宮原――いや、朱音。私たちは親友、だろ?」
「さ、さなぁ……。さぁ――――なぁ――――っ!!」
「うおうっ!? くっつくなっ!」
なんてやり取りがあったくらいだから、その溝はもうなくなっているのだろう。
よかったよかった。
仙堂院は、相変わらずだった。
たまに俺の教室に来ては、俺の昼飯を食べながら、海の日の夜の桐野と俺の会話をネタに色々言ってくるくらいだ。
「それをバラされたくなかったら、ワタシの奴隷になれ!」
なんて、脅してきたりもする。
……ほんと、勘弁してほしい。
村上はというと、実はこいつが一番厄介だった。
「恭介……お前、俺の言葉、覚えていてくれたんだな!」
なんて、桐野と宮原が抱き合っている横で、俺に抱きついてきた。
桐野に言った台詞。
『俺が、お前の閉じこもってる殻をぶっ壊して、この広い世界を見せてやる!』
この台詞を俺に言った友人とは、実は村上のことだったりする。
過去。両親の死に苦しみ、学校にも行かず、家に、自分の殻に閉じこもっていた俺。
そんな俺に、庭に入ってきた(今思えば不法侵入だが)村上が、言った言葉。
『オレが、お前の友達になってやる! だから、一緒に遊ぼうぜ! 世界を見せてやるからよ!』
その言葉が、当時の俺を救ってくれた。
だから、村上には感謝している。
多分これからもずっと、俺はこの親友に感謝し続けるだろう。
これを言うと、村上が調子に乗るので、絶対に言わないが。
俺は、旧校舎の三階の一番奥。古びた木製のドアの前で立ち止まって、それをゆっくりと開けた。
「遅い」
パイプ椅子に座り、俺の顔を見上げながら桐野が言う。
初めてここにきた時と、同じシチュエーション。
ただ、今回は。パーティとかで使われる輪っかを繋げた飾りで、無機質なコンクリートの壁が彩られていた。
実は、生徒会に提出した部活申請書が、今朝ようやくOKをもらったのだ。
部活の名前は、『青春部』。
高校生らしく青春を謳歌しながら、日常をより楽しもうという部活だ。
【承認】という判子がでかでかと押された部活申請書を持って、俺の教室に現れた生徒会副会長の相原先輩は、
「青春部かあ……うーん、青臭いねぇ~」
なんてことを言っていた。
それからしばらくの間雑談をした後、終業式の準備があるとかで相原先輩は帰っていった。
去り際に、
「うちは、君の、ううん、君たちの味方だからね? このナイスバディのお姉さんに、いつでも頼っていいんだよ?」
なんて、なんとも頼もしい言葉を残していった。
テストの成績が悪かった場合は、頼ってみよう。
そんなわけで、『青春部』の創部祝いと、一学期終了の打ち上げ。
それらを兼ね備えたパーティーを、この部室ですることになったわけだ。
俺は、そのパーティー用の飲み物を買いに行っていた。……坂道を下りて、繁華街まで、な。
「さて、真白も来たことだし、そろそろ始めようか」
桐野が立ち上がり、みんなの方を向いて言った。
「うっひょーい! 待ってました!」
「そこ、うるさいぞ」
「盛り上げようとしただけなのにっ!? うえーん! 朱音ちゃーん!」
「あ、あはは……」
「苦笑しながら距離をとるのはやめてくれっ! 本気でへこむ!」
「そろそろ黙れ、村上……えーと……村上、なんだっけ?」
「ぐはっ!? やべ、今のが一番へこんだ……名前覚えられてないって……」
「心配するな村上君! 僕は君の味方だ!」
「た、武田先生!」
「村上君!」
ひしっ!
抱き合う男二人。
「そこ、男同士で抱き合うな。気持ち悪いから。……桐野、もう始めようぜ」
「そうだな。では。えー、青春部の部員及び顧問の皆様。この度、私、桐野紗奈が部長を務める青春部の――」
「かんぱ――い♪」
「あ、ちょっと待て朱音! まだ私の挨拶が――」
「「「「かんぱ――――いっ!!」」」」
「無視するなぁ――っ!」
そんな感じで、俺たち青春部の活動が始まった。
明日からは、夏休み。
部費をもらって、どこかへ旅行に行こうという計画も立てている。
でも、その前に。
青春部の面々で、ゲームセンターに行こう。
きっと、楽しいことになるはずだ。
《了》
~俺と彼女の騒がしい日常~
七月二十四日。
終業式を無事に終えた俺は、旧校舎の古びた廊下を一人で歩いていた。
あの日から、桐野は明るくなった。……ほんの少しだけだが。
よく笑っている姿を見たりもする。
宮原曰く、『昔の桐野を思い出す』らしい。
何はともわれ、これで閉じこもっていた殻を桐野が壊してくれること願う。
ただ、俺の顔を見ると頬を赤く染めるのはやめてほしい。
あの日の恥ずかしい台詞が、脳内で再生されるから。マジで恥ずかしいから。
宮原は、桐野と仲直りしたらしい。
あの日。俺が屋上で桐野に恥ずかしすぎる台詞を言った後、屋上に来た宮原は、泣きながら桐野に謝っていた。
実は、俺が屋上で桐野と話している時、ポケットに入れていた携帯電話は、ずっと宮原と通話状態だったのだ。
あの時は、宮原に桐野の思いを伝えるためにとそうしたのだが、今思うとなんであんなことをしたのだろうか。
とにかくだ、宮原と、ついでに仙堂院と村上は、俺と桐野の屋上での会話を聞いていたのだ。
そんなわけで、謝った宮原を桐野はすぐに許し、桐野自身も宮原に謝った。
後日わかったことだが、桐野がいじめられていた原因は、クラスで一番カッコイイ男子と、二番目にカッコイイ男子の告白を、桐野と宮原が断ったことにあるらしい。
その結果、その男子のことが好きな女子に目をつけられ、最初は軽い言葉攻めだったのが、どんどんエスカレートしていきいじめに発展、という流れだったそうだ。
そんなわけで、いじめられていたのはなにも桐野だけではなく、宮原も同様らしい。
もっとも、宮原は持ち前の明るさですぐに関係を修復したらしいが、そのころには桐野との溝は、どうしようもないくらい深いものになっていた。
「友達を救えないなんて……あたしは……っ!」
「違うぞ宮原――いや、朱音。私たちは親友、だろ?」
「さ、さなぁ……。さぁ――――なぁ――――っ!!」
「うおうっ!? くっつくなっ!」
なんてやり取りがあったくらいだから、その溝はもうなくなっているのだろう。
よかったよかった。
仙堂院は、相変わらずだった。
たまに俺の教室に来ては、俺の昼飯を食べながら、海の日の夜の桐野と俺の会話をネタに色々言ってくるくらいだ。
「それをバラされたくなかったら、ワタシの奴隷になれ!」
なんて、脅してきたりもする。
……ほんと、勘弁してほしい。
村上はというと、実はこいつが一番厄介だった。
「恭介……お前、俺の言葉、覚えていてくれたんだな!」
なんて、桐野と宮原が抱き合っている横で、俺に抱きついてきた。
桐野に言った台詞。
『俺が、お前の閉じこもってる殻をぶっ壊して、この広い世界を見せてやる!』
この台詞を俺に言った友人とは、実は村上のことだったりする。
過去。両親の死に苦しみ、学校にも行かず、家に、自分の殻に閉じこもっていた俺。
そんな俺に、庭に入ってきた(今思えば不法侵入だが)村上が、言った言葉。
『オレが、お前の友達になってやる! だから、一緒に遊ぼうぜ! 世界を見せてやるからよ!』
その言葉が、当時の俺を救ってくれた。
だから、村上には感謝している。
多分これからもずっと、俺はこの親友に感謝し続けるだろう。
これを言うと、村上が調子に乗るので、絶対に言わないが。
俺は、旧校舎の三階の一番奥。古びた木製のドアの前で立ち止まって、それをゆっくりと開けた。
「遅い」
パイプ椅子に座り、俺の顔を見上げながら桐野が言う。
初めてここにきた時と、同じシチュエーション。
ただ、今回は。パーティとかで使われる輪っかを繋げた飾りで、無機質なコンクリートの壁が彩られていた。
実は、生徒会に提出した部活申請書が、今朝ようやくOKをもらったのだ。
部活の名前は、『青春部』。
高校生らしく青春を謳歌しながら、日常をより楽しもうという部活だ。
【承認】という判子がでかでかと押された部活申請書を持って、俺の教室に現れた生徒会副会長の相原先輩は、
「青春部かあ……うーん、青臭いねぇ~」
なんてことを言っていた。
それからしばらくの間雑談をした後、終業式の準備があるとかで相原先輩は帰っていった。
去り際に、
「うちは、君の、ううん、君たちの味方だからね? このナイスバディのお姉さんに、いつでも頼っていいんだよ?」
なんて、なんとも頼もしい言葉を残していった。
テストの成績が悪かった場合は、頼ってみよう。
そんなわけで、『青春部』の創部祝いと、一学期終了の打ち上げ。
それらを兼ね備えたパーティーを、この部室ですることになったわけだ。
俺は、そのパーティー用の飲み物を買いに行っていた。……坂道を下りて、繁華街まで、な。
「さて、真白も来たことだし、そろそろ始めようか」
桐野が立ち上がり、みんなの方を向いて言った。
「うっひょーい! 待ってました!」
「そこ、うるさいぞ」
「盛り上げようとしただけなのにっ!? うえーん! 朱音ちゃーん!」
「あ、あはは……」
「苦笑しながら距離をとるのはやめてくれっ! 本気でへこむ!」
「そろそろ黙れ、村上……えーと……村上、なんだっけ?」
「ぐはっ!? やべ、今のが一番へこんだ……名前覚えられてないって……」
「心配するな村上君! 僕は君の味方だ!」
「た、武田先生!」
「村上君!」
ひしっ!
抱き合う男二人。
「そこ、男同士で抱き合うな。気持ち悪いから。……桐野、もう始めようぜ」
「そうだな。では。えー、青春部の部員及び顧問の皆様。この度、私、桐野紗奈が部長を務める青春部の――」
「かんぱ――い♪」
「あ、ちょっと待て朱音! まだ私の挨拶が――」
「「「「かんぱ――――いっ!!」」」」
「無視するなぁ――っ!」
そんな感じで、俺たち青春部の活動が始まった。
明日からは、夏休み。
部費をもらって、どこかへ旅行に行こうという計画も立てている。
でも、その前に。
青春部の面々で、ゲームセンターに行こう。
きっと、楽しいことになるはずだ。
《了》
※会員登録するとコメントが書き込める様になります。