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俺と彼女の退屈な日常

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第19話

「…………」
 それからも、桐野はトップを維持し続け、決勝戦。何問かのミスがあったものの、桐野はトップを維持したまま全ての問題が終了した。
「どうだった?」
「…………」
「……桐野?」
「……はっ!? す、すまない。少しその、嬉しかったんだ。なかなかに難しい問題が出てくる中、一位をとることができて」
「そか、よかったな」
「ああ!」
「……もう一回やるか?」
「いや、今はいい。他のゲームをやろうじゃないか」
 桐野は立ち上がると、他のゲームのところまで早歩きで向かう。
 俺は、案外可愛いとこあんだな、とか、子供っぽいところもあるんだな、とか、そんなことを思いながら、桐野の後を追いかけた。
 クイズゲームの後は、UFOキャッチャーで、
「くそう! くそう! 後少しなのに!」
「おい、もうやめとけって」
 なんて子犬のキーホルダーを取るのに千四百円もつぎこんだり。
 向かってくるゾンビを倒すシューティングゲームで、
「うっ……な、なかなかリアルなんだな」
「おいおい、しっかり狙えって」
 なんて少し怖がりながら、ぶれる銃身のせいで瞬殺されたり。
 太鼓ゲームで、
「うっ、うむ……ドン! カッ! ……わけが分からなくなってきた……」
「いきなり鬼モードなんてやるからだろ!」
 なんていきなり最上級モードをプレイして、叩くことを諦めたり。
 そんな感じで、時間はあっという間に過ぎていった。
「そろそろ時間だね。待ち合わせ場所に行こうか」
 腕時計を確認した桐野が言う。
 俺も自分の腕時計に目をやる。現在の時刻は十二時四十分。たしかに、そろそろ待ち合わせ場所に向かわないと、時間までに間に合わなくなる。
「そうだな。行くか」
 俺と桐野はゲームセンターを出て、再び人が行き交う繁華街を歩きながら、桜花駅を目指した。
「悪かったな、真白」
「ん? なにがだ?」
「いや、私だけ、あんなにはしゃいでしまって。それに、結局ずっとゲームセンターにいることになってしまったし……」
「気にすんなよ。俺も楽しかったし。だいたい、桐野だって最初に言っただろ? この辺りは昔から歩き回ってたって。だから、無駄に歩き回るよりは、桐野と、その、で、デートできて、嬉しかったよ」
「う、うむ……言ってて恥ずかしくないか?」
「最初にカップルうんぬん言ってたのは桐野じゃねえか!」
「……そうだったか?」
「そうだよ!」
「冗談だ。そんなに怒るな。ハゲるぞ?」
「ハゲねえよ!」
「……そう……だな……うん」
「えっ!? 俺の頭皮ってそんなにヤバイの!?」
「さあ? 今のところは問題ないんじゃないか?」
「て、てめぇっ!」
「ふふっ、やはり真白はおもしろいな」
 どうやら、からかわれたらしい。
 にしてもひどすぎる。男にとって、『将来ハゲる』って言われるのは、結構なダメージになるのに。
 まあ、気にしたら負けな気がするので、あまり気にしないことにする。
「ところで、桐野はゲーセンとかよく行くのか?」
「いや、恥ずかしながら、今日真白と行ったのが初めてなんだ」
「そうなのか?」
「ああ。……私の初めて、真白に奪われてしまったな」
「誤解をまねくような言い方はやめてください!」
「わかった。……っと、どうやら待たせてしまっていたようだね」
「ん?」
「ほら」
 桐野が前を指差す。
 そこには、ベンチに座っている仙堂院と宮原、そしてどことなく落ち込んでいるように見える村上の姿。
 どうやら、待たせてしまっていたようだ。
「悪い、待たせたか?」
「あっ! 遅いよ恭介くん! あたし待ちくたびれちゃった」
「……あ、暑い……」
 宮原は元気よく、仙堂院は今にも死にそうな感じに、女子二人は正反対の反応を見せる。
 そして村上は、
「おぉ~我が心の友よ! 俺は今無性にお前に会いたかったぞ!」
 両手を大きく広げ、俺に抱きつこうとしてきた。
「きしょい」
「ほげふっ!?」
 とりあえず蹴り飛ばしておこう。
 そのまま起き上がってこなければよかったのに、村上はすぐさま立ち上がる。
「なんで蹴るんですかっ!?」
「抱きつこうとしてきたからだろ」
「お、お前までそんな反応っ!?」
 泣き出す村上。
「朱音ちゃんと手を繋ごうとしたら断られ、リアちゃん――」
「リアちゃん言うなっ!」
 あれだけ辛そうなのにちゃんとツッコむあたり、仙堂院ってホントにすごいやつなんだと思う。
「……仙堂院には『はぐれたら危ないよ。さあ、オレと手を繋ごう。キラーン☆(白い歯を輝かせる音)』って言ってナチュラルに手を握ろうとしたのに、蹴り飛ばされるし……。なあ、恭介! オレは誰と手を繋げと!?」
「知らねえよ!」
「なんだよ! じゃあ、紗奈ちゃんと――」
「紗奈ちゃんと呼ぶな、気色悪い」
「……桐野と手を繋げばいいんですかっ!?」
「三秒前の私の反応で、答えは分かると思うけど?」
「……ぐすん」
「あはは……村上くんには、いつかお似合いの女の子が現れると思うよ? だから元気だしなよ」
「おぉ! 朱音ちゃん! 君は天使か? 朱音ちゃんマジ天使!」
「さて、馬鹿はほうっておくとして、とりあえず昼食にしようか」
「さ、賛成だ。冷房がガンガン効いた店に行こうじゃないか……」
「意義なーし!」
「俺も賛成だ」
「オレは――」
「よし。では、とりあえず歩こうか」
「まーたオレの意見は無視ですか、そうですか」
「仙堂院の体調を考えると、すぐに入れる、空いている店を探したほうがよさそうだな」
「うみゅ……すまないな」
「気にしない気にしない。あたしたちは同じ部活の仲間じゃない♪」
「うみゃっ!? あ、頭を撫でるのはやめてくれ、宮原朱音」
「朱音でいいよ、リアちゃん」
「う、うむ……」
 仙堂院の頭を優しく撫でる宮原。
 宮原も同年代の女子たちと比べると若干幼く見える容姿を持っているが、小学生に間違えそうな容姿の仙堂院と並ぶと、さすがにお姉さんに見える。
 こうしていると、仲の良い姉妹のように見えなくもない。
「……仲間、か。……私は――」
 そんな光景を見て微笑んでいると、ふと横にいる桐野が何かを呟いたのが聞こえてくる。
「……桐野?」
「……いや、なんでもないさ。さあ、行こうじゃないか」
 歩き始める桐野。
 そんな桐野の背中を見ながら、俺はさっき桐野が言っていた言葉が、気になって仕方なかった。
「ほれ。行くぞ、恭介」
「……ああ」
 村上に肩を叩かれ、俺も歩き出す。
「ワタシはチョコレートパフェが食べたいぞ」
「リアちゃん、パフェならさっき食べてたじゃない……」
「パフェは別腹なんだ」
「太るぞ?」
「太らんわ! ワタシが食べたパフェの栄養は、全て胸にいくんだからな」
「……胸に、ねぇ……」
「ぐっ……! ま、真白恭介! 貴様、今ワタシの胸を見て、鼻で笑っただろう!」
「笑ってねえよ!」
「恭介くんさいてー」
「最低だな、恭介」
「お前には言われたくねえよ!」
「「たしかに」」
「……朱音ちゃんと仙堂院は、いっつも恭介の味方なんだね。……わかったよ、オレ。恭介がいるからオレはモテねえんだな。……恭介、お前を殺してオレは生きる!」
「怖いこと言うなっ!」
 そんなやり取りを交わしている間も、俺はさっきの桐野のことについて考えてた。
 だって、桐野は。
「……あいつ」

『私は、その仲間の中に入っているのかな……』

 儚く、寂しそうな顔をして、確かにそう言ったのだから。
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