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俺と彼女の退屈な日常

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
目次

第11話

 翌日のこと。
「真白恭介!」
 一限目の数学の授業が終わった直後。教室のドアが勢いよく引き戸特有の音を鳴らしながら開いた。そこにいたのは、昨日出会った金髪碧眼の少女、仙堂院リア。
「真白恭介はいるかっ!」
 大声で俺の名前を呼ぶ仙堂院に、教室にいた教師とクラスメイトたちが驚く。
「……む、そこにいたのか、真白恭介」
 俺の姿に気づいた仙堂院が、つかつかと上履きを鳴らしながら俺の元へと歩いてくる。
「……はぁ」
 俺は一つ嘆息する。
 どうやら、今日の俺の学校生活は、騒がしいことになりそうだ。


「……で、なんの用だよ?」
 次の授業の支度をしながら、仙堂院に訊ねる。
「ん? 奴隷の様子を見にきたに決まっておるだろう」
「なん……だと……!?」
 さも当然のように答える仙堂院。そんな仙堂院の台詞を聞いた村上は、某漫画のラストシーンのように驚いていた。
「恭介。お前は桐野や朱音ちゃんだけじゃ飽き足らず、こんな幼女にまで……」
「誰が幼女かっ!」
「アウチ!」
 仙堂院に蹴り飛ばされる村上。どうやら、仙堂院に対して、『幼女』というワードは禁句らしい。
「つか仙堂院。誰が奴隷だよ」
「そんなの、貴様に決まっておろう」
「そこに転がってるやつのことか?」
「あんなゴミクズのことではないわっ! 貴様だ貴様! 真白恭介だ!」
「……初対面の幼女に、ゴミクズ呼ばわり……ははっ、なんなんだろうね、オレの人生って」
「誰が幼女だっ! ワタシは列記とした高校一年生だ!」
「なん……だと……!?」
「お前、その驚き方はもういいから。ほら、お茶でも買ってこいよ」
「……うん、そうするわ」
「あ、ちなみに緑茶な」
「ワタシは四ツ矢サイダーを頼む」
「って、お前らのを買ってこいってことだったのかよ!」
「当然だろう」
「……なあ、俺とお前は、友達だよな?」
「? なにを今更」
「そうか……よかった。最近お前は俺のことを便利屋かなにかだと――」
「俺とお前は、主と使い魔、だろ?」
「便利屋よりもひどかった!?」
 そんなことを言いつつも、結局村上は飲み物を買いに行った。「せめて主はル○ズたんがよかった……でゅふふ」と言い残した村上は、とてつもないほどに気持ち悪かった。
「なんだアイツは。気持ち悪い」
 どうやら、仙堂院も同じことを思ったらしい。
「まあ、あの馬鹿が気持ち悪いのは今に始まったことじゃないから置いておくとして。なあ仙堂院。俺はお前の奴隷になった覚えなどないんだが」
「そうか? まあ、気にするな」
「気にするだろ!」
「なにが嫌なのだ? 私の奴隷になれるんだぞ?」
「それが嫌なんだよ!」
「むう、何が不満なのだ?」
「だから――」
 そこで、チャイムが鳴り響いた。
「ちっ、この続きは次の休み時間だ! 待っていろよ、真白恭介!」
 そう言い残して、仙堂院は教室を出て行った。
「あれ? あの幼女は」
 入れ違いになるように教室に入ってきた村上の手には、しっかりと四ツ矢サイダーが握られていた。
 次の休み時間。仙堂院は、宣言通りに一年五組の教室にやってきた。
「ワタシの奴隷になれ、真白恭介!」
「だから、嫌だって!」
 さらに次の休み時間。
「なにが不満なのだ? ワタシの奴隷になれば、奴隷として最高級の生活を保障してやるというのに」
「奴隷になるのが嫌なんだよ!」
 そして、昼休み。
「うむ。なかなかに美味かったぞ」
 一年五組の教室を騒がしている本人、仙堂院リアは、俺の席に座り、俺が今朝早起きして作ってきた弁当の中身を綺麗に平らげた。
「そりゃ、よかったな」
 村上が買ってきた焼きそばパンを食べながら、そう答える。
「それで、だ。恭介」
「あん?」
「この金髪は誰なんだ?」
 手にコロッケパンを持ったまま、村上が問いかけてくる。
「金髪ではない。ワタシには、仙堂院リアという名前があるんだぞゴミクズ」
 俺がその問いに答える前に、仙堂院は椅子の上に立ち上がり、村上を見下ろしながらそう言った。そんな仙堂院の言葉に、村上はプルプルと身体を震わせる。
「カチーン! ふ、ふふふ……もうキレちまったぜ、完璧にな。おい金髪幼女」
「誰が幼女かっ!」
 『幼女』という単語に反応した仙堂院が、その短い足で村上を蹴り飛ばそうとする。
「フッ、甘いな」
 無駄にかっこつけてそれをよけた村上は、仙堂院から距離をとった。
「仙堂院リアとか言ったな金髪!」
 ビシッと仙堂院を指差す村上。そして、
「お前……友達いないだろ」
「うぐっ!?」
 仙堂院の核心をつく言葉を、言い放った。
「休み時間に突入するたび、お前は恭介の元へとやって来ている……。それは、お前に友達がいないことを示しているのだよ! キリッ!」
「うぐぐっ!?」
 どうだと言わんばかりのガッツポーズ!
「ふ、フンッ! 今日は友人の誘いを断ってここ来ているのだ。と、友達がいないわけではないわっ!」
「ふふふ……甘いな。オレの推理はまだ続くぜ?」
 さっきまで飲んでいた紙パックのコーヒー牛乳からストローを抜き、それを口にくわえる。探偵とかがパイプをくわえるのを真似しているんだろう。
「決定的な証拠は、アンタの性格だ。そんな人を見下すような態度で、友人ができるわけがない!」
 うーわ、ものすごいどや顔。
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