第7話
「どうなんだ? 村上」
「うっ……」
お互いに一人ずつ勧誘をすることになっていたため、俺は村上に五人目の所在について訊ねる。すると、村上はいかにも「ヤバイ……」といった表情をした。
「……見つかってないのか?」
「き、昨日はたまたまだ! 今日は違うさ!」
「……はぁ。まあ、最初からお前には期待してなかったから」
「まさかの戦力外通告っ!?」
「それより、桐野の方はどうなんだ? 部室と顧問、見つかりそうか?」
「ああ。まあ、順調だ。多分、今日中には方がつく」
「そうか。それに比べて、お前は昨日の放課後、何をやってたんだよ」
「う、うるせえよ!」
村上が大声を出す。
「なんだよ、お前だけそんな美少女と知り合いになりやがって! 今に見てろよ! そのうち、お前らを土下座させてやるからな!」
語尾を荒げる村上。
それは天地がひっくり返ろうが無理だろう。でも、村上のテンションが下がりそうなので、それは言わないようにする。
「はいはい。じゃあ、今日こそは見つけろよな」
「ふん! 言われなくても、だ! それよりも……」
不敵な笑みを浮かべながら、村上は顔の向きを俺から宮原の方へと変える。
「宮原さん! いや、朱音ちゃん!」
「な、なにかな?」
村上の異様な迫力にたじろぐ宮原。
そんな宮原に、俺が助け舟を出そうとすると、桐野が手を俺の前に出し、制止してくる。桐野の顔をみると、「さっきの仕返しだ」とアイコンタクトで伝えてきた。
「オレは、一年五組の村上渉といいます。突然ですが、朱音ちゃんは彼氏いますか?」
いきなり何を聞いているんだ、お前は。
「ふぇ? い、いないけど……」
「よっしゃ! なら、好きな人とかは?」
「す、好きな人?」
「いっえ――っす! さあ、言っちゃいなYO!」
「え、えと……」
村上の妙なハイテンションに、宮原は困り顔で対応していた。
先ほど俺を制止した桐野を見ると、手で口を押さえて笑っている。
「す、好きな人は、いないけど……」
「マジでっ!? これはオレにもチャンスが――」
「でも、気になってる人なら、いるよ」
「――チャンスが、なかったわ」
がっくりと肩を落とし、うなだれる村上。哀れだ。
「い、いや、待てよ! もしかしたら、その気になってる人って……オレ!?」
どこまでポジティブシンキングなんだろうか、この馬鹿は。
「朱音ちゃん! 気になってる人って誰?」
「え、え~っと……」
ちらちらと俺の方を見る宮原。その目からは、助けて欲しいという思いがひしひしと伝わってくる。
仕方ない。助け舟を出すか。
「ほれ、そろろろやめろよ馬鹿」
「あいてっ!?」
村上の頭を軽く小突く。
「なんだよっ!」
と、にらみつけてくる馬鹿を無視して、宮原に声をかけた。
「悪いな宮原。この馬鹿は、少し頭がおかしいんだ」
「ちょっと待て恭介! この馬鹿ってのは、オレのことなのか?」
「そうなんだ……かわいそうにね。村上くん、まだ若いのに」
「え!? ちょ、なにを言っとるのですか朱音ちゃん」
「ああ。まあ、あんなやつでも、優しく接してやってくれ」
「うん……よろしくね、村上くん。握手、しよ?」
「……素直に喜べませんけどねぇ」
涙を流す村上。それでも、宮原の差し出した手をしっかりと握っているあたりは、やはり村上と言うべきだろう。
「うんうん。これであたしと村上くんは友達だよ♪」
「……女神や。ここに女神がおるで~」
何故に関西弁?
「ところで、恭介くん」
「ん?」
「あたしのことは、朱音って呼んでって言ったでしょ?」
「ああ、言われたな」
「なんで呼んでくれないのかな?」
「恥ずかしいから」
「むー! 恥ずかしいから呼ばないってのはひどいと思うんだよ」
頬を膨らませて起こる宮原。なんで『名前で呼ばないから』という理由ぐらいで、こんなにも怒るのだろうか?
そんな俺の疑問が通じたのか、宮原は、
「そんなの、君が紗奈の友達だからだよ。紗奈の友達は、あたしの友達。でしょ?」
「…………」
でしょ? って言われても……。
「だから、あたしのことは名前で呼んでほしいんだよ。……だめ、かな?」
「うっ!?」
宮原に上目遣いでそんなこと言われたら、かなりヤバい。
もうお持ち帰りしてしまいそうになるくらい、ヤバい。『宮原の上目遣い』は、それほどまでの殺傷力をひめていた。
「おい。宮原」
そんな俺の理性を保ってくれたのは、桐野の声だった。
「私とお前は、いつから友達になったんだ?」
「なぁに言ってるの、紗奈。あたしと紗奈は友達じゃないよ。親友じゃない♪」
「誰が親友かっ!」
「も~ひどいなぁ、紗奈は。でも、そんな紗奈もだぁ~い好き!」
「のわぁ!? は、離れろ宮原!」
「んもう! 朱音って呼んでよ~」
「誰が呼ぶかっ!」
そんなやりとりを続けているうちに、学校中に昼休み終了のチャイムが響き渡った。
放課後に、俺と村上は部員を、桐野と宮原は部室と顧問を、引き続き探すことになった。
教室に戻る途中。村上が俺の耳元で、
「朱音ちゃんまでお前のものかよ。けっ、いいね、リア充は。マジでリア充爆発しろよ。人生ってマジクソゲーだわ」
そんなセリフを、延々と繰り返していた。
「うっ……」
お互いに一人ずつ勧誘をすることになっていたため、俺は村上に五人目の所在について訊ねる。すると、村上はいかにも「ヤバイ……」といった表情をした。
「……見つかってないのか?」
「き、昨日はたまたまだ! 今日は違うさ!」
「……はぁ。まあ、最初からお前には期待してなかったから」
「まさかの戦力外通告っ!?」
「それより、桐野の方はどうなんだ? 部室と顧問、見つかりそうか?」
「ああ。まあ、順調だ。多分、今日中には方がつく」
「そうか。それに比べて、お前は昨日の放課後、何をやってたんだよ」
「う、うるせえよ!」
村上が大声を出す。
「なんだよ、お前だけそんな美少女と知り合いになりやがって! 今に見てろよ! そのうち、お前らを土下座させてやるからな!」
語尾を荒げる村上。
それは天地がひっくり返ろうが無理だろう。でも、村上のテンションが下がりそうなので、それは言わないようにする。
「はいはい。じゃあ、今日こそは見つけろよな」
「ふん! 言われなくても、だ! それよりも……」
不敵な笑みを浮かべながら、村上は顔の向きを俺から宮原の方へと変える。
「宮原さん! いや、朱音ちゃん!」
「な、なにかな?」
村上の異様な迫力にたじろぐ宮原。
そんな宮原に、俺が助け舟を出そうとすると、桐野が手を俺の前に出し、制止してくる。桐野の顔をみると、「さっきの仕返しだ」とアイコンタクトで伝えてきた。
「オレは、一年五組の村上渉といいます。突然ですが、朱音ちゃんは彼氏いますか?」
いきなり何を聞いているんだ、お前は。
「ふぇ? い、いないけど……」
「よっしゃ! なら、好きな人とかは?」
「す、好きな人?」
「いっえ――っす! さあ、言っちゃいなYO!」
「え、えと……」
村上の妙なハイテンションに、宮原は困り顔で対応していた。
先ほど俺を制止した桐野を見ると、手で口を押さえて笑っている。
「す、好きな人は、いないけど……」
「マジでっ!? これはオレにもチャンスが――」
「でも、気になってる人なら、いるよ」
「――チャンスが、なかったわ」
がっくりと肩を落とし、うなだれる村上。哀れだ。
「い、いや、待てよ! もしかしたら、その気になってる人って……オレ!?」
どこまでポジティブシンキングなんだろうか、この馬鹿は。
「朱音ちゃん! 気になってる人って誰?」
「え、え~っと……」
ちらちらと俺の方を見る宮原。その目からは、助けて欲しいという思いがひしひしと伝わってくる。
仕方ない。助け舟を出すか。
「ほれ、そろろろやめろよ馬鹿」
「あいてっ!?」
村上の頭を軽く小突く。
「なんだよっ!」
と、にらみつけてくる馬鹿を無視して、宮原に声をかけた。
「悪いな宮原。この馬鹿は、少し頭がおかしいんだ」
「ちょっと待て恭介! この馬鹿ってのは、オレのことなのか?」
「そうなんだ……かわいそうにね。村上くん、まだ若いのに」
「え!? ちょ、なにを言っとるのですか朱音ちゃん」
「ああ。まあ、あんなやつでも、優しく接してやってくれ」
「うん……よろしくね、村上くん。握手、しよ?」
「……素直に喜べませんけどねぇ」
涙を流す村上。それでも、宮原の差し出した手をしっかりと握っているあたりは、やはり村上と言うべきだろう。
「うんうん。これであたしと村上くんは友達だよ♪」
「……女神や。ここに女神がおるで~」
何故に関西弁?
「ところで、恭介くん」
「ん?」
「あたしのことは、朱音って呼んでって言ったでしょ?」
「ああ、言われたな」
「なんで呼んでくれないのかな?」
「恥ずかしいから」
「むー! 恥ずかしいから呼ばないってのはひどいと思うんだよ」
頬を膨らませて起こる宮原。なんで『名前で呼ばないから』という理由ぐらいで、こんなにも怒るのだろうか?
そんな俺の疑問が通じたのか、宮原は、
「そんなの、君が紗奈の友達だからだよ。紗奈の友達は、あたしの友達。でしょ?」
「…………」
でしょ? って言われても……。
「だから、あたしのことは名前で呼んでほしいんだよ。……だめ、かな?」
「うっ!?」
宮原に上目遣いでそんなこと言われたら、かなりヤバい。
もうお持ち帰りしてしまいそうになるくらい、ヤバい。『宮原の上目遣い』は、それほどまでの殺傷力をひめていた。
「おい。宮原」
そんな俺の理性を保ってくれたのは、桐野の声だった。
「私とお前は、いつから友達になったんだ?」
「なぁに言ってるの、紗奈。あたしと紗奈は友達じゃないよ。親友じゃない♪」
「誰が親友かっ!」
「も~ひどいなぁ、紗奈は。でも、そんな紗奈もだぁ~い好き!」
「のわぁ!? は、離れろ宮原!」
「んもう! 朱音って呼んでよ~」
「誰が呼ぶかっ!」
そんなやりとりを続けているうちに、学校中に昼休み終了のチャイムが響き渡った。
放課後に、俺と村上は部員を、桐野と宮原は部室と顧問を、引き続き探すことになった。
教室に戻る途中。村上が俺の耳元で、
「朱音ちゃんまでお前のものかよ。けっ、いいね、リア充は。マジでリア充爆発しろよ。人生ってマジクソゲーだわ」
そんなセリフを、延々と繰り返していた。
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