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俺と彼女の退屈な日常

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
目次

第4話

第一章
   ~宮原朱音は傷つかない~

 放課後。
 俺と桐野は、屋上へと来ていた。
「さて、どうするか」
 フェンスに寄りかかりながら、桐野はそう訊ねてくる。
「そうだな……」
 一緒に、非日常を見つけよう。
 そうは言ったものの、俺には具体的な考えなんてありはしなかった。
 無計画のくせに誘った俺に、桐野は若干呆れの混ざった視線を送った後、とりあえず放課後に考えよう、という提案をしてきた。そして、現在に至る。
「多分、普通に捜していたんじゃ、見つからないと思うんだ」
「まあ、そうだろうね。それで見つかっていたら、私も世界に退屈したりなんかしていないだろうさ」
「だろ?」
「ああ。だからこそ、どうするか。そのことを今考えているんだろう? 何かいい案はないかい?」
「ねえな」
「……どうやら、君はあまり頭がよろしくないらしいな」
「……ほっとけ」
 確かに、成績はあんまりよくはないけどさ。それでも、村上のバカ野郎なんかよりはかなりいいぞ。
「桐野は、なにかいい案ないのか?」
「ふむ……まあ、ないこともないんだが……」
 腕を胸の前で組み、目を閉じる桐野。と、その時、
「はーっはっはっは! 話はすべて聞かせてもらった!」
 不意に、後ろから声。
 振り向くと、そこには腕を組み、ふんぞり返って立つ、馬鹿こと村上渉の姿。
「よう、恭介。さっきぶりだな」
「……誰だ、あの馬鹿は?」
 軽蔑の眼差しを村上に向けながら、桐野が訊ねてくる。
「……知らん」
「っておい! 知らん、じゃねえよ! お前の親友、村上渉だろ!」
「や、違います」
「違わねえよ!」
「はいはい。わかったわかった。帰れ」
「ひどいですねっ!? ったく、せっかく親友が困っているから、知恵を貸してやろうと思ったのに」
「知恵?」
「そ、知恵」
 自信満々に答える村上。
 桐野の方を見ると、「とりあえず、聞いてみよう」と言うので、仕方なく村上にその先の台詞を促す。
 すると、村上はとびっきりの笑顔を浮かべて、話し始めた。
「まず、お前達は不思議なものやら超常現象、つまりは非日常を求めている、ってことでOK?」
「ん、まあ。てか、何で知ってんだよ?」
「昼休みの会話聞いてたから」
「クズだな」
「クズ言うなっ! 恭介がオレにかまってくれなかったから付いて行ったんだよ。そしたら」
 ちらり、と桐野のを見る馬鹿。
「まさか、お前がアバンチュールを楽しんでいるなんてな。ま、お前が誰を好きになろうと、別にオレには関係ないんだからねっ!」
 なぜにツンデレ口調?
「って、そんなんじゃねえよ!」
 俺がそう反論すると、桐野がニヤリ、と不的な笑みを浮かべたのがわかった。
「そうか、真白は私のことが好きなのか」
「違うって!」
「照れなくてもいい」
「照れてねえよっ!」
「でも、残念だ。私は君の思いに応えることはできない」
 告白してもないのに振られたっ!?
「ふふっ、冗談だ。さて、村上と言ったかな? さっき言った知恵とやら、そろそろ聞かせてほしいんだが」
「よくぞ聞いてくれた!」
 聞かなくても喋っただろ? お前。
「部活だよ」
「部活?」
 部活がどうかしたのか?
「そ、新しい部活を作るんだよ。これは、オレのバイブルから得た知識だがな」
 きっとそのバイブルとやらは、ライトノベルかなにかだろう。
「まあ、確かにそれも一つの案だ」
 桐野が口を開く。
「私が考えていたのも、それだった……恥ずかしいことに、な」
「それって、オレと考えが一緒だったからですかねっ!?」
「はぁ」
「え? なにその、『言わなくてもわかるだろう?』みたいな目は?」
「言わなくてもわかるだろう?」
「口に出したっ!? ひどいですねっ!?」
「とにかく、だ」
 叫ぶ村上を無視して、桐野は言葉を続ける。
「不思議なことを見つけるには、それなりに遠出することがあるかもしれない。だが、私たちはまだ学生。そう簡単に旅費の都合などつかないだろう。だけど、部活として行くのだとしたら?」
「……さっぱりわからん」
「バカだなぁ~恭介は」
 勝ち誇った目で、俺を見る村上。
「お前にだけは言われたくないわ!」
「お前……泣くぞ!」
 泣けばいい。
「とにかくだ。部活として行くのだとしたら、学校側からもらえる部費が使えるだろう? もちろん、ただ旅行に行くから、という理由では駄目だろうけど」
「……なるほどな」
 確かに、『部活動の一環として』という名目なら、部費がつかえる。
 そうなれば、行動範囲も広がるし、非日常を探す上では、かなり有利になるだろう。
「でも、部費ってそう簡単にもらえるのか?」
 疑問に思ったことをたずねると、二人は、怪訝な顔をして、俺を見てきた。なんで?
「……なあ、恭介。お前、この学校の入学案内とか、生徒手帳とか、そういったもんは見てないのか?」
「? 見てねえけど、なんでだ? どうせお前も見てねえだろ?」
「見てるよ!? オレが馬鹿だからって、見てないって決め付けるなよ!」
 果てしなく意外だ。
「少しはそういった類のものを見ることを薦めるよ、真白」
 呆れたように嘆息する桐野。
 うん、今度見ておこう。
「説明すると、この学校は部活動にかなり力を入れていてね。どの部活動にも、一定額の部費が与えられるんだ。その分、活動していない部活動には厳しいけど」
 そういえばと、そんな感じのことを入学説明会の時にハゲ散らかしたおっさんが言っていたことを思い出す。。
「そういうわけで、部活動を無事に創部することさえできれば、とりあえずは部費がもらえる、というわけさ」
「なるほど。なら、部活を作ろうぜ! あ、村上はもう帰っていいぞ」
「なんでだよ!? オレもその部活に入れてくれよ!」
「えぇー」
「露骨に嫌そうな声ですねっ!?」
「……ところが、だ。そう簡単にはいかないんだよ」
 俺と村上がそんなやり取りをしていると、桐野が口を開く。
 声のトーンは、さっきよりも若干低い。そんな桐野に、俺と村上は「なんで?」という視線を向けた。
「さっきも言ったけど、この学校の部活動に対する審査はかなり厳しいんだよ。ある程度の実績を残さないと、問答無用で廃部にさせられるというのは、有名な話だ」
「ああ、それならオレも聞いたことあるけど……それが?」
 と村上。
「審査は、なにも創部済みの部活動に対するものだけではない。創部するにも、厳しい審査を通過する必要があるんだ」
 なるほど。言われてみれば、確かにそうだ。
 学校側としても、不健全な部活動にやる部費はないだろう。そうなると、
「確かに、ただ旅行するためだけの部活、じゃ厳しいかもな」
「ああ。多分、ね」
「ううむ……」
 いい案だと思ったんだけどな……部活を作るの。
「ふりだしに戻ったか……」
 はぁ、と嘆息しながら、桐野は呟いた。
 俺も桐野に続いて嘆息し、汚くないか確認してからその場に座り込む。
「なんでだよ? 部活作ろうぜ?」
 そんな中、空気をぶっ壊すように村上のバカ野郎が口を開いた。
「話聞いてなかったのかよ?」
「聞いてたさ。でもよ、まだ作っちゃ駄目って言われたわけじゃねえんだし、やってみる価値はあるんじゃねえか? ほら、よく言うだろ? 諦めたら、そこで試合終了や! って」
「……まあ、そうかもな」
 確かに、まだ駄目だって決まったわけじゃない。もしかしたら、創部の許可がもらえるかもしれない。
「やってみようぜ、桐野」
「……そうだな」
「よっしゃ! やってやろうぜ! 部活動を作るために奔走するなんて……くぅーっ! ラノベやエロゲのシチュエーションみたいじゃねえか! 興奮してきたぁ――――!!」
「帰ってください」
「何でだよっ!?」
「まあ待て。こんな馬鹿でも、なにか役に立つかもしれない。無事に部活を作れるまでは使ってやろうじゃないか」
「……あんた、オレとは初対面ですよね?」
「ん? ああ。桐野紗奈だ。よろしく、馬鹿」
「あ、どうも。村上渉です。……って、初対面の人間に向かって馬鹿ってのはひどいんじゃないですか!?」
「? 馬鹿に馬鹿と言って何が悪い?」
「……もういいです」
 なぜか村上は涙を流していた。けど、そんなことはどうでもいい。
 とにかく、俺たちは部活を作ることにした。
 それが、非日常への第一歩になることを信じて。
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