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ずっとずっと

原作: その他 (原作:ハイキュー) 作者: ノムさん
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第8話

及川はその後、日本に戻ってきた。ワールドカップ日本代表という看板を引っ提げて。
ほんとに俺の恋人は大した男だ。決して天才ではない。それなのに、天才たちと同じ土俵で、平等に戦っている。なんて誇らしいんだ。俺は及川のこういうところが本当に凄いと思うし、好きだとも思う。普通はこんなふうには戦えない。そもそも努力が足りず土俵に立てないか、心が折れてしまうだろう。でも、及川は真っ直ぐにその土俵へと進み、そしてあろうことか勝利して、ポジションを勝ち取って見せた。天才に秀才が勝った瞬間だ。赤いユニフォームは、及川によく似合った。

と、いうことで俺は今空港にいる。「どうしても迎えにきて〜〜!」と及川が言うからとりあえずきてやった。まあ、俺も早く会いたかったからって言うのもあるけど。これだけは絶対に言わない。
あの日ブラジルでお互いの気持ちを確かめ合って、その後俺はすぐに日本に戻ってきた。気持ちさえわかってしまえば、もう俺たちに心配はなかった。何年間両思いしてたんだって話。
日本に戻ってきてからは、バレーを辞めた。及川とバレーにケジメをつけて、もう俺のバレー人生は満足した。そして就職活動をして、地元の企業に就職した。及川も俺も、遠くで頑張っていた。でも、前みたいに辛くはなかった。俺の気持ちを受け入れてくれて、及川も伝えてくれて、それだけで俺は及川を信頼できた。だから大丈夫だった。

「岩ちゃん、何考え込んでるの?」
「及川」
「ただいま」
「おかえり」

及川が、日本にいる。俺に笑いかけて、「ただいま」と言ってくれるーーー。なんて幸せな話だろう。ああ、これだけでもう昇天しそうだ。一緒にいれるってことがこんなに幸せなことだとは思わなかった。俺たちはまた学んで、そして欲張りになる。

「早く帰ろ、俺たちの家に」

そう、俺たちは今日から同棲を始める。

***

「ちょっと、具材切るのワイルドすぎ!」
「ウルセェな、ちょっとくらい大きい方が歯応えがあるだろうが」
「火が通りにくいじゃん!」

ギャーギャー喚きながら料理をする。こんな未来があるなんて、高校生の頃の俺には想像つかなかっただろう。ああ、幸せだなあ。

「・・・」
「何?急に」
「結婚するか」
「え!?!?」

口をついて出てしまった。結婚。考えなかったことはない。でも、日本だと法律の問題とかでいろいろ課題がある部分でもある。だから、実際に結婚するのは難しいかもしれない。けど、一生を共に歩く相手は及川しか考えられなくて。きっと及川もそう思ってくれてるだろうと思ってる。及川とだから、結婚したいと思った。こんなタイミングで言うつもりは微塵もなくて、隣で楽しそうに料理をする及川を見て、自然と口をついて出てしまった。及川も驚いてる。そりゃあそうだろう。ブラジルから帰ってきて、急にそんなこと言われるだなんて思わなかったろうに。

「結婚。しようぜ」

目をパチクリしてる及川。可愛いな。こんな図体の男に抱く感想じゃないだろうけど、俺たちにとってはこれが普通だ。

「いいよ」

いつか見たような笑顔。いつか聞いたようなセリフ。それはブラジルで、俺たちがまた一緒に歩き出すための一歩を許してくれた時のもの。それと変わらないような笑顔で、また俺たちの関係性の変化を許してくれる。俺はこの笑顔が好きだった。あれから俺たちは全然会うことすら叶わなかったけど、この笑顔が俺を支えてくれた。

「指輪はないけど。明日買いに行こう」

こんなプロポーズも俺ららしい。指輪をずっとつけていられるか、そんなことはわからない。けれど、今この瞬間に、及川と一緒に人生を歩みたいと思ったこと、それだけは事実だ。

「婚姻届ももらってこなくちゃ」
「あー、あれって役所にいけばいいのか?」
「そうだと思うよ。あ、ゼクシィ買う?」
「買うかー。俺、あれを買う人間になると思わなかった」
「俺も」
「だよね」

明日の予定、指輪を買って婚姻届をもらってくること。俺たちの結婚なんて、まだ夢幻のような話だけど、俺たちは必ず夢を掴み取る。及川が夢を掴み取ったように。

及川は「バレーの貴公子」って巷では言われてる。最初聞いたときには笑っちゃったが、まあつまり、「アイドルのような人気」があるってことでもある。誰と付き合ってるのか、結婚、離婚・・・いろんなものが世間に取り沙汰され、とにかく話題になる。
一度だけ、こいつがチームのみんなと飲みに行って、その帰りに一瞬女性と二人きりになったそうだ。その女性はチームメイトの恋人だったーーーのに、週刊誌に撮られたことがある。その時は「バレーの貴公子、ブラジルで恋人!?」の見出しが毎日目に入った。俺が撮られなかったのは男同士だからなのかわからないけど。
とにかく、及川はそう言う奴だ。でも、だからと言って俺たちが幸せになってはいけないわけじゃない。もちろん公表しないわけにもいかない。だから、ここから先”も”茨の道だ。
けどまあ、コーヒーを挿れてる及川を見てると、「それでもいいか」って思えちゃうんだ。早く結婚しよ。
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