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ずっとずっと

原作: その他 (原作:ハイキュー) 作者: ノムさん
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第7話

「見て〜!これが南米の海だよ!」
「ほんとに夜までビーチバレーやってんだな」
「そうなの。すごいよね」
「ここで日向とかもバレーしてるのか。なんかそう考えるとすごいな」
「今日はいないみたいだけどね」
「まあ、毎日いるわけじゃないだろ」
「はは、そうだよね。ちびちゃんもいろいろ用事あるか」

海はいろんな明かりで照らされてきれいだった。もう夜なのに、十分にボールやラインが見れる。これがブラジルのビーチか。そして、ここは俺の墓場になるかもしれない場所。いや、なるだろう場所。こんなきれいな場所でよかった。まるでドラマのワンシーンみたいだ。もしここで振られたとしても、きれいな思い出話で終わってくれるだろう。
覚悟は決まっている。あとは、もう伝えるだけだ。砂浜で、足を止める。及川は少し歩いてから、不思議そうな顔をして振り向いた。

「なあ、及川」
「なに?どうしたの?真剣な顔して」

「俺にトスあげてくれないか」

真っ直ぐ前を見る。及川の目が一瞬揺れて、だめか、と思った。やっぱり俺の一方通行だったのか、と。正直それが正しい。俺のこんな欲望一つで、つなぎ止めてリスクを負う必要なんてどこにもない。及川はこれから先も突き進んでいくべき人で、俺は違う。世界にはまだ偏見が残ってるのに、俺のためにそんなリスクを負う必要なんてない。

それなのに、

「いいよ」

及川は笑った。笑ったんだ。あの頃、俺だけに見せてくれていたようなとびっきりな笑顔で。そして、俺のこの気持ちを肯定してくれた。それだけで十分だ。もうこれ以上何も望むものはない。

「でもその前に一つ伝えたいことがあるんだけど」

それだけで十分なのに。リスクを負う必要なんてないのに。及川が真っ直ぐ俺を見て、その微かに期待をしたような、熱を帯びたような視線に、俺も期待を乗せてしまう。

「岩ちゃん。俺、ずっと前から岩ちゃんのことが好きだった」

言われてしまった。及川だって馬鹿じゃない。きっとこの先のいろいろなことと、俺を天秤にかけた。その上で俺を選んでくれた。そう、高校進学のあの時のように。それならば、俺は応える以外の選択肢を持たなかった。

「俺も。ずっと好きだった」

まさか、及川が俺のことを好きになるなんて思ってなかった。俺が及川のことを好きになるって時点でも、物凄い確率だ。この世界で、60億人がいる世界で、両想いになれるなんて一ミリも思わなかった。ましてや俺と及川だ。こんなことになるなんて、俺はなんて幸せものなんだろう。
人目も気にせず、及川を抱きしめた。及川も俺を抱きしめ返してくれた。本当に両思いなんだ、と実感が湧いてくる。もしかしてどっきりなんじゃないかとも思う。だとしたらタチの悪いものだけど、それでもこうやって及川が俺を好きだと言ってくれて、抱きしめてくれるのだから、もうそれだけで十分だとも思えた。

「俺さ、実は小さい頃にお前に一目惚れしたんだよ」
「え、本当に?」
「おう。あの時はまだ及川が女だと思ってて、男だって知った時はすごいショックだった」
「・・・なんかごめん」
「俺の勘違いだから気にすんな。で、男同士だからー、とか、幼なじみだからー、とかで諦めようとしてさ。実際に消せたと思ったんだよな。でも、やっぱ俺及川のことが好きだなって」
「うん」
「でも、及川は俺のことなんて好きじゃないだろうと思ってた」
「好きだよ、ほんとに」
「今でも信じられねぇ」
「信じてよ」
「人生の半分どころっか、まるっとお前に夢中だったんだ。しかも、叶わないとずっと思ってたんだ。だから夢みたいだってほんとに思ってる。実はどっきりでしたーとかやめろよ」
「言わないよ。そういうなら、俺だって岩ちゃんのことずっと好きだったんだから」
「まじ」
「まじ。俺たち、ずっと両思いだったのに、すれ違ってばっかりだったんだね」
「ーーーそうだな」
「阿吽の呼吸も恋愛には通じないってことね」
「阿吽の呼吸だからこそかもな」

「というか、トスあげてもいい?俺も岩ちゃんに俺のトスあげて欲しかった」
「おう。打たせてくれ」

誰もいない海の一か所、二人しかいないコートで、俺は及川のトスを打つ。あの頃と変わらないようで、変わったようなーーー、そんなトスだった。ああ、満足だ。これで俺はもう二度と及川のトスをあげることはないだろう。もちろん相棒でもない。これからは恋人というポジションで、やはりお互いの特別な相手であり続ける。俺はそれで満足だ。満足どころか、ベストだ。これが一番俺たちにとっていいポジションだ。まるで産まれた時から決まっていたかのようにしっくりくる。今までの苦しみ全て、運命だったのかもしれないな。そう考えると、少し許してしまう。
その日の夜、俺たちは昨日と同じように同じベットで寝た。明日からのプランをリビングで話して、それから今度は一緒にベットに向かった。今度は寝れないなんてことはなくーーー、二人で向き合って抱きしめ合いながら眠りに落ちた。
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