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ずっとずっと

原作: その他 (原作:ハイキュー) 作者: ノムさん
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第5話

「ねえ、急にどうしたの?」
「なんでもねぇ」
「なんでもないのに急に遥々気すぎじゃない!?」

と、いうことで今俺は及川とシュラスコを食べてる。及川はギャーギャー喚いているが、知らぬ顔で俺は肉を食う。こいつは俺が送った「SUMESHI」Tシャツを着ていて、俺は及川からもらったTシャツだ。客観的に見てこの事実は恋人っぽい。男に思うのは違うことだが。
とにかく俺は、及川に抱いているこの異常とも思える気持ちをはっきりさせに、ここにきた。日本の大学の夏休みはめちゃくちゃ長いから、ここでこうやって及川と対話する時間もたっぷりある。ここにいる間に、ずっと抱いている気持ちに答えを出すんだ。

「お前これから練習なんだっけ」
「そうだよ」
「見学してもいいか?」
「いいよ〜!」

実のところ、俺はバレーをしている及川が好きだった。そういう意味じゃなくて、普通に好きだった。及川はバレーの神様に愛されていないと誰かが言っていた。俺も言っていたかもしれない。でも、やっぱりバレーをしている及川は美しくて、バレーの神様に愛されてないなんて嘘なんじゃないかと思ってしまう。サーブも、トスも、完成された美術品みたいだ。本当にいつまでも見れてしまう。
ブラジルでも、チリでも、この美しさは変わらなかった。努力の末に生み出された美術品に、また俺は魅せられてしまった。こいつのトスを打ちたい。こいつの相棒は俺で、俺が望めばいつだってトスは俺のもとにきた。でも、今は違う。及川のトスを打ってるのも、相棒も別人で、俺はコートの上で及川のトスを打つ事はできない。それがとてつもなく悲しいことのように思えて仕方がなかった。

「俺も久しぶりに及川のトスが打ちたい」

って言ったらどんな顔をするんだろうか。いつの間にか、俺と及川の関係の間にはバレーはなくなっていて、そして距離ができた。バレーを通さない俺たちは、相棒でもなくなった。
コートの上で輝く及川の瞳の先には、もう俺はいない。
及川が突然振り向いて、目があった。聞こえてるのかとびびったが、コートの上にいる及川に俺の小さな呟きが聞こえているはずもない。頼めば、及川はトスを上げてくれるだろう。でも、気持ちの篭っていないトスを打ったところで、それは俺が望む形ではない。
正直なところ、俺は及川のことが好きなんじゃないかって思うことがある。昔じゃなくて、今も、だ。でも、たとえ俺が及川のことを好きでも、及川は俺のことを好きじゃないだろう。だからこそあっさりと日本を出たし、そう考えると不毛な思いだ。今の関係性を壊すくらいなら、この気持ちは墓場まで持っていこうと思う。ごめんな、及川。

side及川

「バレーの練習を見学したい」

と言われたときは正直驚いた。確かに岩ちゃんは大学でもバレーを続けていたけれど、(マッキーとまっつんはやめた)それでも、俺と岩ちゃんはバレーを二人だけのものではなくしてしまった。二人の間にずっとあったバレーは、いつのまにか二人のバレーではなく、俺のバレー、岩ちゃんのバレーというように、分散されていった。だから、また二人の間にバレーを持ち込もうとするとは思わなかったのが本音だった。
正直なところ嬉しい。また、岩ちゃんが俺のバレーに興味を持ってくれているということが。緊張してトスをあげる手が、サーブを打つための足が少しだけ強張る。岩ちゃんが見てる。視線を感じる。
ナイス〜!と声をあげ、その視線を振り払うかのようにバレーに集中した。けど、

「俺も久しぶりに及川のトスが打ちたい」

「え?」

聞こえるはずはない。俺は今コートの上で、岩ちゃんは二階席にいる。分断するための音はたくさん転がっていた。だから、岩ちゃんの声が聞こえるはずなんてないのに、「俺も久しぶりに及川のトスが打ちたい」って岩ちゃんがいったような気がした。
思わず振り向いて、岩ちゃんの方をみる。目があった。いつものように笑って見せる。笑えてるかな。
俺だって、久しぶりに岩ちゃんにトスをあげたい。岩ちゃんに打って欲しい。当然だ。ねえ、岩ちゃん。もう一度だけ俺とコートに立って欲しい。

「toru!」
「ah, sorry. Im coming」

いつの間にか集合がかかっていたようで、チームメイトに呼ばれてしまった。岩ちゃんが見てるのに、恥ずかしいな。でも、岩ちゃんも俺のトスを打ちたいと思ってくれてたらいいな。

ああ、やっぱり俺は岩ちゃんのことが好きだなあ。久しぶりにあったことで、また急速に気持ちがふくらむのがわかる。会えないから膨らんでいたんじゃなくて、会えててもあえてなくても、どちらにせよ俺は岩ちゃんへの気持ちを育ててしまってたんだな。
正直なところ、俺は岩ちゃんがブラジルまで来てくれたことで、少しだけーーー本当に少しだけ期待している。同じ気持ちなんじゃないかって。無駄な期待だってこともわかってる。でも、少し期待するくらいしょうがないよね。ごめんね、岩ちゃん。
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