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ずっとずっと

原作: その他 (原作:ハイキュー) 作者: ノムさん
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第4話

負けた。
俺たちは、負けた。
烏野に。
飛雄に。
日向翔陽に。

俺たちの最後の大会は、牛島に挑む前に終わった。珍しく岩ちゃんが泣いていた。俺も泣いた。マッキーとまっつんもゆだっちも泣いていた。何故か試合の後、自然と体育館に戻ってきて、バレーをした。そこからみんな泣いた。
ーーー悔しかった。こんな言葉じゃ表せないくらいに悔しい。なんで、なんで。なんで・・・。
「才能は開花させるもの、センスは磨くもの」。確かにそうだろう。だけど、センスを磨いたところで才能にたどり着けるとは限らない。ましてや俺はそこに気づくのが遅かった。ずっと開花していた才能には勝てなかった。悔しいけれど。
だけど、俺は選んだ。挑戦し続ける道を。憧れの人に相談して、それで決めた。地球の反対側に行くことに決めて、マッキーともまっつんとも、岩ちゃんともーー離れて、一人で。

岩ちゃんと離れるのは辛かった。けど、望みのない思いを甘やかされる場所にいるのも同じくらい辛かった。俺がこんなにやましい思いを抱いていても、それに気づかない岩ちゃんはずっと優しい。特別扱いしてくれる。だけど、それは残酷なことだ。

岩ちゃんは地元で大学に進学した。ほんとに地球の反対にいる。インターネットがあるとは言え、時差もある。自然と連絡をとることも減っていった。毎日暇があればメッセージのやり取りをしていたのに、一日一回になって、最後には一週間に一回になって。俺と岩ちゃんは物理的距離に引っ張られて、精神的距離も離れて行ったのだった。
それでも、俺は岩ちゃんが好きだった。幸か不幸かはわからない、連絡を取らなくなっても俺は岩ちゃんを諦めきれず、距離が離れてることをいいことに岩ちゃんを思い続けた。今やもうスマホの待ち受けは岩ちゃんとのツーショットだ。

「会いたいなー」

ふと溢れた声。会いたい。岩ちゃんに。すごく。
ここにきてから、というより飛行機に乗った瞬間から、ずっと岩ちゃんに会いたい。
離れたら諦められるかなと思ったらそんなこともなかった。離れれば離れるほど思いは募った。どんどん好きになった。

「好きだなあ」

「好きだ」

一度声に出したら止まらなくなった。岩ちゃんに会いたい。
故国から離れて一人でここにきて、心細かったのもあるんだろうな。あって、岩ちゃんに抱きしめられたい。
漫画やアニメだったら、ここで岩ちゃんが現れるんだろうけど、そんな事はなく、俺はただ一人で眠りについたのだった。
side岩泉

及川がチリに行った。憧れたプレイヤーに会って、軽く地球の反対まで飛んで行った。
俺は及川のこういうところがすごいと思うし、尊敬してる。俺にはできないことだ。俺は仙台に残って、それでも及川のいた軌跡を感じてる。あそこもここも、どこに行っても、一度目は及川と一緒にいたから。だからどこに行っても及川を感じる。

大学に入って、無事彼女もできた。小さくて、茶髪で、少しガタイが良くてーーー、まあ可愛い女の子だった。笑顔が可愛い。動くと小動物みたいで可愛い。好きだ、と思った。彼女といるとふわふわしてドキドキする。これが恋なんだと思った。あの初恋の時のような、衝撃が走って雷に打たれるようなものとは違う。優しくてきれいな飴玉のような気持ち。これが恋なんだと、思う。

「ちょっと及川に似てるんだよなぁ」

動作とか、顔立ちとか。少し。ほんの少しだけど、及川の面影がある。まあ、初恋の人に引っ張られてるんだろうな。と、深く考えないことにする。だって、今の俺が好きなのは彼女なんだから。決して及川じゃない。初恋が及川だとしても。今は違う。
でも、及川は今どうしてるんだろうな。寝てるのか、バレーをしてるのか。こうやって、ふとした時に「今、及川は何してるんだろうな」って思いを馳せてしまう。元気だろうか。知らせがないって事は元気なんだろうな。
南米のバレー情勢をチェックすることも日課になった。連絡を取る頻度が減っても、それは変わらなかった。どれだけ遠くなっても、俺の中の及川はずっと相棒で、特別な存在だから。しょうがない。彼女といる時に及川のことがふとよぎっても、それはしょうがないことだ。

「及川・・・」

ちょっとだけでもいいから顔が見たいな。あのむかついて馬鹿にしてるような顔を、少しだけでも。そう思った時には、スマホの上を指が滑っていた。バイトしててよかった。

「なあ」
「久しぶり?でもないか」
「久しぶりってほどでもないだろ」
「そっか、そうだよね。どうしたの?」
「来週から夏休みなんだ」
「へえ!いいね」
「そっちに行く飛行機取ったから」
「え!?」
「ホテル。取ってないから。泊めろよ」
「は!?嘘でしょ」
「じゃあ、頼んだからな」

こうして、俺は及川に会いに行くことにした。あって何をしたらいいのか、どうしたらいいのか、何もわからないけど、とにかく及川に会いたい。あって顔が見たい、とそう思ってしまったから、俺も飛行機にのることにした。
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