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むじふく! ~記憶喪失な魔王様(違う)による復讐譚(無自覚)~

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: 百合カップルの部屋の天井
目次

幕開け①

『ファムテール』という世界がある。

 そこはいわゆる、『剣と魔法の世界』というヤツで、魔物とか精霊とかも存在している。
 文明のレベルは、『地球』という世界の文明レベルと照らし合わせると、大体中世とかそのあたり。神秘が否定され、科学が生活の基盤にある『地球』とは違い、魔法が存在している世界なので、一概には言えないけれど。
 
 そんな『ファムテール』は、いくつかの世界を内包した世界。その中でも特に大きい二つの世界が存在する。
 
 一つは、『人界』。
 人族を始め、エルフやドワーフ、獣人なんかが暮らす世界。いくつもの国に分かれており、時折戦争なんかを始めたりも。ここ二百年くらいは平和だけどね。
 自然豊かで空気中の魔素濃度もそれほど高くない。『秘境』と呼ばれる場所を除けば、魔物もそんなに多くない世界。
 
 もう一つは、『魔界』。
 こちらは魔族しか住んでいない世界だ。国という概念がなくて、種族によって集落を作って暮らしている。力こそ正義を地でいってる。脳筋だね。
 こっちの世界は自然が少なくて、魔素濃度が人界の十倍くらい高い。人界とは比べ物にならないくらい強い魔物が平然と歩いていたりする。
 
 そんな世界に暮らしているもんだから、魔族は数がそんなに多くない。けれど、人界の住人に比べて強い力を持っている。全体数が多いのが人界で、一人当たりの強さが上なのが魔界って感じかな? 人界の住人と魔界の住人が一対一で戦ったりしたら、大抵は魔界の住人が勝つ。
 まぁ、何事にも例外はあって、アホみたいに強い人族もいれば、野良猫にすら勝てない魔族が居たりもする。
 
 そして――――基本腕っぷしが強いはずの魔族や、アホみたいに強い人族ですら勝てず、それどころか上位種族の龍族や精霊族すら鼻歌交じりに蹴散らす、最強無敵な魔族だっている。
 

 これから語るのは、究極の力と普通すぎる心を持ってしまった不幸な少年が、心優しい人たちに囲まれて、幸せになるお話。

 友情とか、親愛とか、恋愛とか。大抵の人は望まなくても手に入るものだけれども。

 少年にとっては、億万の黄金よりも価値のあるそれらを。

 ちょっとずつ、一歩ずつ、手に入れていく物語。



 それじゃあ、準備はいいかい? ……うん、分かった。



 ―――|さぁ、お伽話の幕が上がる時間だよ《ワンス・アポン・ア・タイム》。


☆===============☆



 ――――魔界【死の大地・最果ての牙城】


 『死の大地』。

 人界に比べ、生息している魔物が強力な魔界の中でも、特出して危険な領域とされている土地を、魔界の住人はそう呼ぶ。

 荒廃した大地。常に暗雲に覆われ、雷鳴が轟いており、その下を闊歩する魔物はどれもこれも強大で厄介な種ばかり。地上の地獄と呼ばれる由縁がよく分かる光景だ。

 そんな死の大地の最果てに、漆黒の城が建っていた。

 壮麗にして壮大。この世界にあるどの城よりも巨大であり、かつ見る者に畏怖と感動を同時に与えるほどに美しい。

 城を囲む城壁は見るからに堅牢であり、どんな魔法を放っても傷一つ付きそうにない。四方に立つ尖塔は天を突くほどに高い。

 魔界の住人は、この城に絶対に近づこうとしない。それは何故? 強力な魔物がいるから? 生きるには厳しすぎる環境だから? ……そのどちらもが正解で、同時に間違い。

 確かに、それもある。けれど、本当の理由はもっと単純。


 ――――そこが、『魔王』の住処だから。


 『魔王』。 
 魔族の支配者……という意味ではない。魔界には国がないのだから、王だのなんだの言ったところで意味がない。

 じゃあ、魔王とは何なのか?

 ――最強。

 魔界において、最も強い存在。それこそが魔王だ。まぁ、強い=偉いが基本的な脳筋種族だし、実質支配者みたいなものかもしれない。
 
 そんなんだから、魔王になるのに特別な血筋や立場は必要ない。

 魔王を力で下したものが、次の魔王になる。わぁ、とってもシンプルだ。

 だから、魔王は常に他の魔族から狙われ続ける。だって、倒すことさえできれば、一つの世界のトップに立てるんだよ? そりゃ襲われちゃうよ。望む望まないを別にして、ね。

 確かに魔族は『力こそ全て』が根本的な考えにある種族だ。好戦的な奴らが多いのだって事実。

 けれど、皆が皆そうかと聞かれたら、『違う』んだ。
 
 戦いを好まない。平和に暮らしたい。皆と仲良くしたい。

 そんな風に考える魔族だっているんだ。

 例えば……今代の魔王とか、ね。
 
 今代の魔王は、その身に宿す力の強大さを除けば、いたって普通の子供なんだ。
 
 それも、とびっきり優しくて、良い子。夜みたいな漆黒の髪と、お月様みたいな金色の瞳が特徴的な、可愛らしい男の子。

 自分が痛い思いをするのは嫌だけど、それ以上に誰かに痛い思いをさせたり、誰かが痛みを覚えることを嫌がる。

 そんな、優しくて、どこまでも魔族らしくない少年なんだ。

 彼は物心着く頃から、誰かに狙われ続けた。その身に宿る強大な力を狙われた。

 そして、彼の意志と関係なくその誰かを殺戮し尽して見せた。

 そんなことを繰り返して、気が付けば彼は……。


 ――――魔王になっていたんだよ。
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