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もうすぐ壊れてしまう君へ。

原作: その他 (原作:あんさんぶるスターズ!) 作者: ヒヨコの子
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欲望の人形

 頬を白く汚しながら微笑む宗が美しすぎて、幻をみているような気がした。蔑まれるようなことをしでかしたみかを責めず、それどころか優しく誘ってくれようとする彼の懐の深さに甘える以外の選択肢を、みかは持たない。持てるわけがない。だって自分は宗の人形なのだから。
「ん……っ」
 かたちが整って艶めいた唇に唇で触れると、それだけで小さく吐息がもれた。はじめて触れた唇は信じられないほど柔らかくて、それだけでみかの興奮は駆けあがっていく。舌先で桃を押すように優しく触れ続けていると、ややあってその入り口は控えめに開かれた。すかさず舌を差し込んで、うちがわに隠れて逃げ出そうとする彼の舌を追いかける。
「ふ……んんっ……」
「んあっ、逃げんといて。もっとちゅうさせて?」
 宗のたったひとことで気持ちが大きくなったみかは、もう深く考えることを放棄している。頭の隅ではなにかがわかりかけているような気がする。宗のこの恥じらうような反応をみるにつけ、なにかがひっかかる心地もする。けれどそのすべてを放棄して、みかは従順な人形として振る舞った。欲望に忠実にしろとしつけられ操られた、人形師を愛する人形として。
「かわいらしなぁ……」
 ものも言わず必死で舌で応えてくれようとする宗は、相変わらず完璧に美しいのにどこか可愛らしさも感じてしまう。いつもすっと冷めている頬がさっきからずっと紅潮しているせいだろうか。頬紅をつけた人形、さながらマドモアゼルのようだ。
「お師さん、お人形さんみたいや」
 唇を離して至近距離で見つめると、宗はスッと視線を逸らしてしまった。
「人形が生意気な口をきくんじゃないよ。まったく」
「へへ。ごめんなぁ。せやかてほんまにきれいなんやもん。この世でいっとう美しいお人形さんみたいにみえてまうんよ」
 手に触れることも本来ならおこがましいことだ。それなのに、みかが目指す場所のずっと高みに存在する完璧な人形のような人形師は、欲望のままに触れても構わないと言ってくれた。これは本当にあの宗と同一人物なのだろうか? そんな疑問もないと言えば嘘になるけれど、やはりみかは一瞬でその思考を捨て去った。
「お師さんのきれいなとこ、全部見たい」
 押しだした声は、自分でもはしたないと感じるくらい欲にまみれていたと思う。けれどもやはり宗はひとことも罵倒せず、ただ黙ってみかを受け入れた。
 美しさを際立たせるような黒いシャツの小さなボタンをひとつひとつ丁寧にはずしていく。許されたことにすべてを預けているみかの手は震えない。ほどなくして現れた滑らかな肌に、眩しくなって目を細める。
 指でそっと触れると、淡々となすがままを受け入れているようにみえる宗のはちきれんばかりの鼓動が伝わってきて、つられてみかの心拍数もあがっていった。色づいている突起に指をかすめてみて、目にみえる反応が返ってくることに喜びを得る。唇を寄せ、わずかに歯をたてた。
「……っ」
 息をひそめて悶える様子が嬉しくて、舌で転がしたり吸いついたりしてみる。とても怖くて訊けたものじゃないけれど、いままで誰かに同じことをされたことがあるだろうか。そんな不安を一瞬だけ描いて、やはり一瞬でなかったものにした。
 食事の行為そのものをあまり好まない宗の線は細い。けれどもいつでも計算され管理され尽くしたその身体は、彼のメンテナンスを必要とする自分よりもよほど筋肉質で、常に美しいラインを保っている。宗自身がこしらえた細かな装飾のあるベルトをはずし、身につけているものすべてを取り去ってしまうと、みかは動悸がするほど感動して息を飲んだ。
 同じユニットとして行動しているのだから、もちろん楽屋や練習室で一緒に着替えもする。けれど、その際には決して見ることのできない部分まで、いまは目の前に差し出されている。その事実に興奮する。
「ほんまにきれいやわぁ」
「……まじまじと見るのはやめたまえ」
「お師さん……ちゃんと男の子やってんね」
 自分と同じものがきちんとくっついているのを見つけて、みかは不思議な心地がした。そもそも、自分は男のひとは苦手だったはずだ。美しく人間味の薄い宗やなずなは性別不詳のようなところがある。宗を慕う気持ちが恋を含むものだと悟ったあとも、彼を抱きしめたいという感情はわけど、同じ男として、という認識は薄かった。
「気持ちが萎えたならそこをどいてくれないか」
 宗の震え声にハッとする。言われた意味がうまく理解できなかった。
「なにゆうてんの、お師さん。萎えるとか、そんなんありえへんよ。お師さんやってそうやろ……?」
 この美しい生き物に対して、万が一にも不快を訴えるなどみかにはありえない。ただ、改めて事実を認識したに過ぎなかった。
「お人形さんにいたずらされて気持ちよくなってはるのん?」
 少し意地悪い言い方をすると、宗はカッと赤くなってそっぽを向いてしまった。けれど身体は正直なのか、すでに勃ちあがっていたものが呼応するようにさらに大きくなる。
「ほんまに……俺を操るのが上手やね。お師さん」
 人形のくせに喉を鳴らしながら、みかは改めて宗を抱きしめた。触れる素肌が燃えるように熱くて、もっと肌と肌で触れあいたいと願う。腰に沿わせた手をゆるゆると動かし、もったいぶるようにしながら後ろの蕾に指をあてがうと、耳元で宗の呼吸がヒュッとひきつれたのがわかった。
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