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もうすぐ壊れてしまう君へ。

原作: その他 (原作:あんさんぶるスターズ!) 作者: ヒヨコの子
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嘘つきの人形師

 みかの部屋は、まるで自分と同じものを拾い集め愛でる空間のようだ。ここには多くの顔がある。
 ごみ同然に打ち捨てられたものをかわいそうだといって拾い集め、風呂にいれきれいにし、もとの愛らしい姿に戻してあげ、それを家族として大切に扱うみか。
 みかを見ていると、ときどき鏡のようだとゾッとする。
 捨てられた、本来は美しかったであろうものを拾いあげ、きれいにし、もとの愛らしい姿に戻して家族として扱う。彼には伝わってなどいないだろうけれど、宗にとってみかは紛れもなくかけがえのない存在だ。けれども、もとから美しく完璧ななずなのことは全力で誉め称えられたくせに、自ら修復したみかにはどうしても優しくできない。同じことをしているのに、みかと宗ではそのありかたに差があった。
 すべては芸術のために。それがいま、お互いを知らず苦しめているということか。
 みかはすでに壊れかけの人形だ。自ら宗の人形であり続けることを望み続けてはいるものの、少しずつおのれの価値に気づき始めている。こちらが態度を変えていけば、その気づきは加速するだろう。そしていつか本当に壊れてしまう。壊れたあとに残るのは、意思をもった人間だけ。
「お師さ……、ほんま、堪忍してっ……っ」
 ベッドに座らせその前にひざまずいた状態で、宗はいま、みかにメンテナンスを施している最中だ。これまで一度だってしたことのない種類の。
「ごちゃごちゃうるさいのだよ。君がこのまま動けなくなってしまうのは都合が悪いのだから。それだけの話なのだよ」
「んっ……いや、いやや……っ」
「泣き声をあげるな、影片。集中したまえ」
「せかやてっ……」
 ふくらんだ前を空気にさらした瞬間勢いよく飛び出してきたものに、宗も内心は驚いた。この美しく中性的なみかが、これほど猛々しい雄の部分を隠し持っていたなどとは思ってもみなかったから。見てくれに不釣り合いで、それなのにやはり嫌悪感など一縷も感じないほど美しくて、ため息が漏れそうになる。
 心の震えがみかに伝わらないように細心の注意を払い、てのひらで怒張した性器を包み込む。想像以上に熱を持っていたそれは、宗が触れるだけで簡単に硬度を増した。手を動かすと、泣き言を言いながらもみかがその快楽に身を任せていくのがわかって、言い知れぬ高揚感に満たされた。
「あ、もう……お師さ……っ……!」
 てのひらのうちがわで、みかの先端がはぜる。抱えきれなかった白濁が飛び散り、生あたたかい感触が頬にあたった。
「ひっ……! かっ、堪忍やで! いま、いますぐきれいに」
「その必要はないよ」
 慌てふためくみかを一声で制すると、彼は怯えた様子でおずおずとこちらを見つめてくる。
「ほんでも……」
 目があった。
 みかの歪な、人形のように澄んだ色違いの瞳のなかについにとらえられたと思った次の瞬間には、宗はその場に押し倒されていた。なんの反応のすきもなく。
「お師さん……!」
 涙を湛えたみかの瞳が覆い被さってくる。このまま唇を奪われるかと期待したけれど、彼は触れるか触れないかのギリギリの距離でぴたりと静止してしまった。
「……影片」
「ご、ごめんやで、お師さん……俺……っ」
 いきなり雄を露にしたかと思えば、我にかえって萎縮する。従順なみかの隠れた野性味も、臆病と頑固が入り交じったそのやっかいな性格も、宗にはすべてがいとおしい。想いを口にすれば、関係を変えてしまえば、つくりあげてきた芸術が維持できなくなる。それが恐ろしくて不安で、宗にはとても言えたものではないけれど。
「なにを謝ることがあるのかね」
 できうる限り優しい声音で愛しさを伝えても、きっと頭の足りないみかには正確には伝わらない。けれどもそれでいい。それくらいが、自分たちにはお似合いなのだから。
「遠慮することはない。君がしたいと思っていることをすればいいのだよ、影片」
「お師さん、……お願いやからそんなに煽らんとってよ……」
「勘違いするな」
 愛しい頬に触れると、みかの涙がお返しのようにぽつりと目尻に落ちてきた。
「これは僕が操っていることなのだよ」
 宗の「操る」というひとことに、みかの瞳が大きく見開かれた。
「俺は、お師さんのお人形やから……」
「ああ。そうだね。影片」
 本当は誰よりも欲していると、愛していると、この口で伝えられたらよいのに。そうすれば、みかは人間としてそれに応えるだけでよいのに。
 けれどみかもまた、決して宗に本心を言わない。それが彼の人形としての矜持なら、いまはそれを守ってやるのが宗の人形師としての務めだ。ずるい逃げ道だとわかっていても、それでも。
「おいで」
 両手を広げてみせると、みかはおとなしく胸の上に落ちてきた。きつく抱きしめられ、それだけで全身が言葉にできない歓喜に震える。
「お師さん……ええ匂いするわぁ……」
「なんなのだよ。君は犬かね」
 首もとで鼻をすんすんさせながらつぶやくので思わず笑ってしまうと、みかは上体を起こしぐっと宗の目を覗きこんできた。それぞれ光の違う瞳からはもう怯えは消えていて、いつの間にか獣のように危うく甘美な色気を放っている。
「ちゃうよ。俺はお師さんだけのお人形やよ」
 言いながら、今度は躊躇なく距離を縮められる。ようやく与えられることを予感して、宗はそっと目を閉じた。

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