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ビムビムの実の能力者の冒険

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
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第三十六話 嵐の前の静けさ

ルナンは二人の無事を喜んだ後、「事情は後で聞かせてもらうよ」と付け加えた。そして、
「城から迎えを出してもいいが、実はアルがすでにそっちに向かっているんだ。…マリウス、アルに会ってみないか?無理にとは言わないが…」と、控えめに提案してきた。
マリウスはこれを聞いて驚いた。
「アルが?どうしてアルがこんなところに…」
タビーはアルが捜索に協力してくれていることを知っていたので驚かなかったが、その後にルナンが言ったことにはちょっとドキリとした。
「アルは元バスコニア王子のヴァレリー様と、ローとゾロという二人の海賊に協力を求めたようだ。ローとゾロのことはオクタビアも知っている」
(そうだった…あの二人はルナン先生のお屋敷にいたんだっけ…)
ヴァレリーの名前を聞いて、マリウスは不安を覚えていた。
(アルとヴァレリー…二人はどういう関係なんだろう)
これはアルを疑っているのではなく、アルが自分と同じようにヴァレリーに心理的に弱い部分を捕らえられているのではないかという恐れだった。
電伝虫からルナンの声が聞こえた。「マリウス?どうする?」
マリウスはちょっと返事を待ってもらって、タビーにこのことを相談した。
「僕はヴァレリーが一緒なのが気になるんだ」
タビーはヴァレリーについては全然分からなかったが、マリウスが彼に対して何らかの負の感情を抱き、警戒していることは感じ取っていた。
アルについては少しは判断材料があった。ヴァレリーと行動を供にしている理由は分からないが、電伝虫で話した時の感じでは、アルが自分達に対して悪い感情を抱いているということはないように思われた。ルナンもアルを信用しているし、自分の勘はそんなに間違っていないはずだ。
そしてローとゾロ…。この中で一番危険なのは彼らかもしれない。もしもあの二人に襲われたら、たいていの人間は逃げられない。ルナンはアルが二人に協力を求めたと言っていた。あの二人がアルを秘かに裏切って敵側に回るという可能性はあるだろうか…。
いや、あの二人は信用していいはずだ。大きな刀の陰が、ちらりと頭の中をよぎった。
「アルに会いましょう。きっと大丈夫よ」
マリウスは頷いて同意した。ちょっと緊張しているようだとタビーは思ったが、それは自分も同じだった。

電伝虫を返す時、マリウスはフロリモンに、自分達を迎えに来る者の中にヴァレリーもいることを伝えた。
フロリモンはこの二人の客人に興味が持っていた。あの薄ら恐ろしい主人の知り合いだと言うが、それにしては二人とも初々しく、善良過ぎるように思われた。
それで主人の個人的なことに深く係わってはいけないにも関わらず、こんなことを訊いてしまった。
「お二人はご主人様とはどういったお知り合いなのでしょうか」
マリウスがこう答えた。
「昔からの知り合いで、ずいぶん会ってなかったけど1年以上前に再会したんです」
「そうでしたか…私共はご主人様のことは何も聞かされていないのです。この屋敷にお帰りになるのも何日かに一度程度で…」
(貧乏貴族と貸金業か質屋の放蕩息子といったところだろうか。娘のほうは、侍女や侍従は平民でも試験に優秀な成績で合格すればなれるから、ご主人様の実家の奉公人の子供か…)
フロリモンは自分の主人と二人の客人の関係を想像して楽しんだ。
(しかしこの二人と比べると、やはり我が主人はヤクザ者と言って間違いないだろうな)
その時、タビーが乗ってきた馬車の馬が怪我をしているかもしれないとカントーが報告しに来た。その馬は帰る時には使えないとのことだった。
その後、タビーとマリウスはどういう経緯でフロリモンとカントーの昔話を聞くことになったのか、よく覚えていない。二人の使用人は、今の主人になってから滅多にない来客とのおしゃべりを楽しんでいたし、タビーとマリウスもそうだった。
こんなふうに、この夜は更けていったのだった。

今になってみると、なぜあんな言葉を信じたんだろうとマリウスは考えていた。
ヴァレリーはサミエルと、それともう一人クロードという若い貴族を介して近づいてきた。同年代の貴族同士の気楽な集まりの時、サミエルとクロードはほぼ初対面にも係わらず物怖じせずに積極的にマリウスの側に寄ってきた。そしてある程度親しくなった時、お忍び先のパブでヴァレリーと引き合わされた。
(俺のことを覚えているか?10年も前のことだが…)
ヴァレリーは二人だけの時にマリウスにこう囁いて自分の正体を明かした。
常に親しみやすい態度で接し、かつて同じ立場だった者として理解を示してくれた。ヴァレリーとの個人的な会合は、即位したての若い国王にとって貴重な息抜きの場となっていった。
しかし、ヴァレリーの発言は次第にマリウスの不安を煽るようなものが多くなっていく。
(バスコニア王国が怪しい動きをしているようだが…情報は入っているか?)
(向こうは国王とアルの二人だが、君は一人だ。気を抜いたら足元をすくわれるぞ)
(今はアルと会わないほうがいい。何かを探りに来た可能性が否定できない)
なかでも…
(出来の良い従兄がいるというのは、時には辛いものだよな。同じ立場だった者としてよく分かる)
この言葉が一番効いたのかもしれないな…。マリウスは苦笑いを浮かべた。

その時、屋敷の外で人の気配がしたような気がした。
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