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ビムビムの実の能力者の冒険

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
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第二十九話 マリウスの元へ

タビーはツールーズ城の自分の部屋で軟禁状態にあった。ルナンからタビーを一人にしないように言われた侍女が、交代で部屋の隅に控えていた。
現在の時刻は午後8時。ルナンは何人かの者を連れてマリウスを探しに行っていた。いまだに誰からも何の連絡もない。

プレシ公国で捕らえた誘拐の実行犯が尋問で話したことを聞いた時、タビーは強い衝撃を受けた。
アルが自分を誘拐しようとしていたことにも驚いたが、マリウスが隣国と共通の輸出品である金とダイヤモンドの価格協定を破ろうとしていることと、他国と軍事同盟を結ぼうとしていることのほうが格段に衝撃が大きかった。
どちらか一方の国だけが金とダイヤモンドの価格を下げれば、もう片方の国のものは売れなくなる。それを避けるためのニ国間の価格協定は、ガスケーニュ王国とバスコニア王国の信頼の証でもあった。
マリウスとアル…いや、このふたつの国は、いつの間にこんなに険悪になってしまったのか。
それに気が付いて慌てて国に戻ってきたが、マリウスは自分を避けるように姿を消してしまった。
タビーの頭に、あの時のマリウスの冷たい声が響いた。
(君は何も考えなくていい)
マリウスがあんなふうに話すのを、今まで聞いたことがなかった。
タビーは自分がマリウスを全然理解していなかったことに気付き、自分の至らなさを痛感した。
そして、不吉な想像を膨らませていた。
マリウスがどこかに行ったのは、自分がいない間に急いで何かをやってしまおうとしているのではないだろうか…?例えば、どこかの国または取引先と、金かダイヤモンドを価格協定を破った値段で売買契約を結ぶとか、軍事同盟を結んでしまうとか…。
しかし、タビーはここで自分の考えのバカバカしさに呆れた。ガスケーニュ王国は議会制を取っているので、国王ともいえども議会の承認なしに独断で何かを行うことはできない。
しかし、王家には私有財産がある。もしも国家予算ではなく、国王の私費で何かを…例えば私設軍隊を創設しようとしているという可能性は…?
自分の夫が何を考えているのか分からないというのは、心底恐ろしいことだと思った。しかも、自分の夫はこの国の国王である。夫の動向はこの国に住む人全員…いや、そればかりではない。隣国や周辺の国々にまで影響を及ぼすのだ。
タビーはマリウスと結婚して始めて、王妃という自分の立場がこんなにも恐ろしいものであることを実感し、震えた。

部屋の隅に控えていた侍女がおずおずとタビーに声をかけた。
「オクタビア様…、実は直接お話しをしたいという者がおりまして…」
その侍女は名をソフィといい、ついさっき交代でタビーの部屋に入ってきたばかりだった。
「ソフィ?それは…」
タビーが侍女に声をかけた時、ソフィの背後のドアが静かに開いて、若い下級貴族がするりとタビーの部屋に入ってきた。
この青年貴族はマリウスに気に入られて1~2年ほど前から宮廷に出入りするようになった者で、名をサミエルと言い、ソフィと交際しているのではないかという噂があった。確かに、この甘い目鼻立ちに年頃の女性が心を奪われてもおかしくない。
「女性の部屋に殿方がこのように入り込むとは…。処罰されるようなことがあっても文句は言えませんよ」
タビーはサミエルを睨み付けるように見ながら、冷たい声で言った。
「実は内密で国王陛下からの伝言を持ってまいりました。今すぐに、ある場所に来ていただきたいと…。場所は私がご案内いたします」
サミエルは顔を伏せて恐縮している態度を示しながら、自分がここに来た理由を話した。手引きした立場であるソフィもうつむいて小さくなっている。
「まあ、マリウスが?!」
タビーは驚いて声をあげ、勢いよく立ち上がった。
「すぐに行くわ。準備するから5分待って。ソフィ、手伝ってちょうだい」
ソフィは侍女の制服を用意していた。タビーはそれに着替えて、護身用の剣をスカートの内側に下げた。
タビーの着替えを手伝いながら、ソフィは自分の戸惑いを口に出した。
「手引きした私がこんなことを言うのも何ですが…、後でルナン様に叱られたりしないでしょうか。でも、サミエルは信頼できる人間です。きっとマリウス様はオクタビア様と、城の外で会いたい理由があるのだと思います」
タビーは優しく侍女に微笑んだ。
「大丈夫、叱られたって何てことはないから。あなたは他の侍女に私がいなくなったことを気付かれないようにしていて」
サミエルは裏口に馬車を用意していた。3人は他の者に気付かれないように部屋を出て、裏口に続く階段を下りた。途中でソフィが2人と別れて、上の階に戻っていった。

サミエルが用意した小さな馬車は、裏口の奥に、いろんな物に紛れるようにして停められていた。
馬車に乗り込む直前、タビーは隠していた牙をむき出した。何度かの危険な経験を経て、彼女にもビムビムの実の能力の使い方がやっと分かってきたのだった。
サミエルの胸元をぐいと掴み、相手の耳の近くに顔を寄せて小さな声で囁いた。
「声を出さないで。1時間以内にマリウスに会えなかった場合は、お前の首を落とす」
そして一睨みして、ビームでサミエルの袖口に付いていた金属のカフスボタンを、真ん中から綺麗にふたつに切断した。
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